鍵のティースプーンを見ると思い出す、スクールカウンセラーのほろ苦体験

 

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MichikoYoshida
ビジネスウーマンから、自分自身の内的必然性に導かれて、心理臨床の道へ。臨床心理士として学校や教育機関での相談活動を経て、2016年、東京・青山にはこにわサロン東京をオープン。 箱庭療法を通じて「あなただけの生き方」を応援している。
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ブログに事例は書かないのが大原則ですが、ひとつ思い出話を書かせてください。

中学3年生の男子生徒です。

彼は緘黙(かんもく)でした。

緘黙(かんもく)というのは、自分の安心できない場所では話しをしない・できない、ということです。

 

彼は、中学校の3年間を相談室で過ごしました。

相談室というのは、スクールカウンセラーが面談する時にも使いますが、最近では、教室に入れない生徒さんが学校で過ごす場所として設けられているところも多いです。

この少年は、勉強することは好きだったようで、相談室ではいつも静かに勉強していました。

 

さて、中学3年生になり、進路を決めなければなりません。

彼と、彼のお母さん、担任の先生とスクールカウンセラーのわたしの4人で話し合いをしました。

 

彼は、自宅から歩いていけるとある公立高校(全日制)に行きたいのだということでした。

そこは、地域でもトップクラスの進学校で、教室で勉強している生徒でもなかなか合格する子は少ないのです。その上、入学試験に面接まであるのです。

お母さんも担任の先生もとても心配して、反対しました。

彼が不合格になったら(そしてその可能性はとても高いと思われました)きっと自信を失くしてしまうだろう。だいたい、面接はどうするつもりなの?それに、仮に合格できたとして、みんなと一緒に教室で過ごすのも難しいじゃないの?

わたしも、同じ心配をしていました。

けれど、緘黙(かんもく)の彼は、もちろん、何も言ってはくれません。

みんなで下を向いて沈黙してしまいました。

そこで、わたしは、彼の表情を見ながら、こんな風に言って見ました。

「入学できるのか、入学してもやっていけるのか、そんなことはあなたにもわからないのよね。

でも、やりたい気持ちで選んだのだから、きっとがんばれるわね?」

わたしの言葉に彼が少しでもうれしい表情か、困った表情をしてくれたら!と思ったのです。

そんなわたしの意図を見抜いたのか、彼は、そっぽを向いてしまいました。

 

まぁ、とにかく本人の願い通りに進めてみよう。

不合格になったら本人も納得するだろうし。

すべり止めに通信制高校のパンフレットも見ておいてね。

こんな風に面談が終わりました。

 

この男子生徒がその後どうなったかというと、実は見事に志望高校に合格したのです。

面接をどう切り抜けたのかは、今なお謎のままです。

でも、見事に合格し、相談室で卒業式をして、卒業して行きました。

鍵のティースプーンは、卒業の日に彼のお母さんからいただきました。

わたしはあの日々、ただ祈ることしかできなかったのに。

 

今でも、このティースプーンを見るたびに、そっぽを向いた彼の横顔を思い出します。

ちょっとほろ苦いのです。

 

彼は、高校ではみんなと同じ教室で勉強し、無事に卒業していきました。

教室では相変わらずお話ししなかったようでしたが、それでも、楽しくやっている様子を同級生が教えてくれました。

彼はもう大学を卒業しているはずです。

どうしているかな。

どんな社会人になったかな。

お母さんはお元気でしょうか。

 

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ビジネスウーマンから、自分自身の内的必然性に導かれて、心理臨床の道へ。臨床心理士として学校や教育機関での相談活動を経て、2016年、東京・青山にはこにわサロン東京をオープン。 箱庭療法を通じて「あなただけの生き方」を応援している。
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