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「皮膚は第二の脳」って本当?安心と癒しのセルフケア10選

 
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外資企業勤務後、心理臨床を志す。臨床心理士の資格取得後は東京・神奈川・埼玉県スクールカウンセラー、教育センター相談員などを経て、2016年、東京都港区・青山一丁目に「はこにわサロン東京」を開室。ユング心理学に基づいたカウンセリング、箱庭療法、絵画療法、夢分析を行っている。日本臨床心理士会、箱庭療法学会所属。
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東京・青山の心理カウンセリングルーム「はこにわサロン東京」の吉田美智子(臨床心理士・公認心理師)です。

 

皮膚は「第二の脳」とも呼ばれ、安心感や感情の調整に深く関わっています。

 

やさしいスキンタッチは、脳に「大丈夫」のサインを送り、ストレスを和らげる力を持っています。

 

神経のしくみや心理学の視点からその理由を解説し、心を整えるセルフケアを10個ご紹介します。

 

皮膚が「第二の脳」といわれる理由

発生学的に「脳」と同じルーツをもっている

実は、皮膚と脳(神経系)は胎児の発生段階で、同じ外胚葉から生まれます。

つまり、皮膚は単なる「外側の膜」ではなく、脳と同じ「情報受容器官」なのです。

 

やさしいタッチがこころを癒す ― C触覚線維のはたらき

皮膚は、単なる「からだの外側」ではなく、じつは私たちのこころにも深くつながっている感覚器官です。触覚、痛覚、温度感覚、圧感覚など、さまざまな神経が張りめぐらされており、その中でも近年注目されているのがC触覚線維という神経です。

 

このC触覚線維は、ゆっくりとした、やさしい撫でるようなスキンタッチに反応します。そして、その刺激を「気持ちいい」「安心する」といった情動的な快感覚として脳に伝える特徴があります。

 

さらに興味深いのは、C触覚線維が情報を伝える脳の領域です。一般的な触覚が「考える脳(大脳皮質)」に伝えられるのに対し、C触覚線維は、感情をつかさどる島皮質や扁桃体といった“感じる脳”に直接届くとされています。そのため、「心が落ち着く」「安心する」と感じる効果が生まれるのです。

 

また、この刺激は、愛情ホルモン「オキシトシン」の分泌も促すことがわかっています。オキシトシンは、人との信頼や絆、ストレス緩和に深く関与しており、C触覚線維を介したやさしいタッチは、まさに心身を癒すケアになるのです。

 

このC触覚線維は、毛根の周囲を取り巻くように皮膚内に分布しており、毛のある部位でより豊富に働くとされています。皮膚をやさしく撫でる、手で包む、あたたかく触れるといった行為が、こうした神経を活性化し、リラックス感、幸福感、絆の感覚を引き出してくれるのです。

スキンシップの効果

スキンシップが不足すると、子どもも大人も「安心感」が得られにくくなり、心と体が緊張状態になりやすくなります。やさしく触れられることは、安心・信頼の感覚を生み、ストレスを和らげる大切な刺激です。これが足りないと、私たちの体は「危険があるかもしれない」と感じ、ストレスホルモンであるコルチゾールを多く分泌してしまいます。

 

コルチゾールは本来、必要なときに身体を守るために働くホルモンですが、分泌が長く続くと、イライラ、不安、集中力低下、免疫力の低下など、さまざまな不調を引き起こします。特に子どもは、安心できる人とのふれあい(スキンシップ)を通して心の安定を学んでいくため、スキンシップが乏しいと、情緒の不安定さ対人関係の困難さにつながるリスクが高くなります。

 

また、スキンシップによって分泌されるオキシトシンには、コルチゾールを抑える働きもあるため、ふれあいはストレスへの自然なブレーキでもあります。やさしく撫でる、手をつなぐ、ハグをする──そんな日常のふれあいが、心と身体の安定に深く関わっているのです。

ポリヴェーガル理論とも関係する

ポリヴェーガル理論は、神経科学者スティーヴン・ポージェス(Stephen Porges)によって提唱された、自律神経と「安全感」の関係を解き明かす理論です。この理論では、人間の自律神経は単に「興奮(交感神経)」と「リラックス(副交感神経)」の2つのスイッチではなく、3つの経路を持つ階層的なシステムとして働いていると考えます。

 

その中でも特に重要なのが、腹側迷走神経系(ふくそくめいそうしんけい)です。これは、顔や喉、心臓まわりの筋肉などとつながっていて、「人とつながる」「安心する」といった社会的行動や落ち着いた状態に深く関係します。人が安心して人と関わったり、穏やかな状態を保ったりできるのは、この腹側迷走神経がうまく働いているからです。

 

逆に、安全が脅かされると、この腹側迷走神経の働きが低下し、交感神経が優位(戦う・逃げる)になったり、もっと強いストレスでは背側迷走神経(シャットダウン、フリーズ反応)が優位になったりします。

 

ここで注目されるのが、やさしいスキンシップや、安心できる関係の中での触覚刺激です。やわらかくゆっくりと撫でられるようなタッチは、皮膚にあるC触覚線維という神経を通じて、腹側迷走神経系を活性化すると考えられています。このとき、愛情ホルモン「オキシトシン」が分泌され、ストレスホルモンであるコルチゾールの過剰分泌を抑えてくれます。

 

つまり、やさしい触れ合いやぬくもりのある人との関係は、「安全だよ」という身体的なメッセージを脳と神経に伝える役割を果たしています。ポリヴェーガル理論の視点から見ると、スキンシップや安心できる声かけ、信頼関係に基づくまなざしは、すべて神経系に「大丈夫」と伝える調整力を持つのです。特にトラウマや不安のある人、子ども、感覚が過敏な人にとっては、この「安全の信号」を神経に届けることが、回復や発達の第一歩になります。

外界との「境界」としての役割

皮膚は、感覚を受け取る器官であると同時に、わたしたちの「ここまでが自分」という境界をつくっています。身体の“外”と“内”、他者と自分を分けるこの境界線は、心理的にも非常に重要な意味を持ちます。

 

たとえば、トラウマを受けた人の中には、「触られても感じにくい」「自分の身体が自分のものに思えない」といった感覚の異常を訴える人がいます。これは、心身のつながりが切れたような体験──自分という感覚(自己感)が薄れている状態を表しています。

 

その一方で、やさしいスキンタッチやぬくもりのある触れ合いを通じて、「自分のからだを感じる」ことは、自己感覚を回復するうえでとても大切です。皮膚を通して「自分はここにいる」と実感できることが、心の安定や安心感の土台になるのです。

 

つまり皮膚は、「守る膜」であると同時に、「自分らしさ」を取り戻す出発点でもあります。やさしく撫でる、包まれる、触れ合う──そんな小さな行為の中に、自己の境界を取り戻し、世界ともう一度つながるための手がかりが隠されているのです。

皮膚を通して自分をケアする方法10選

皮膚は、神経・感情・安全感・自己感覚と深くつながる、知覚的で情緒的な器官です。皮膚を通じたセルフケアは、心を穏やかに落ち着かせ、身体のコンディションを整えます。具体的なケアの方法を10個ご紹介します。

 

やさしく自分をなでる(セルフタッチ)

■手のひらで腕や首、顔をゆっくりなでる。

■心地よい圧で「大丈夫」「ここにいるよ」と言葉を添えると、安心感が高まります。

■C触覚線維を刺激すると、オキシトシン分泌が促進されます。

 

温かいタオルで身体を包む

■首やお腹、手に温かいおしぼりや湯たんぽをあててみる。

■副交感神経が優位になり、リラックスしやすくなります。

■「冷え」や「こわばり」に気づく練習にも。

 

足裏を感じる(グラウンディング)

■素足で床に立ち、足裏全体の感覚に意識を向ける。

■「地面につながり、支えられている」安心感が得られる。

■不安やフラッシュバックからの回復にも有効な方法です。

 

肌ざわりのよいものを身につける

■柔らかくて好きな素材の服・タオル・ブランケットを選ぶ。

■「自分の快・不快を選ぶ」練習になる。

■C-PTSDのある方は、皮膚感覚を通じて、心地よさを選ぶ練習になります。

 

信頼できる人とのスキンシップ

■手をつなぐ、ハグ、背中をさするなど。

■信頼関係のある相手と行うことが重要です。強要や違和感のある相手では逆効果になるのでご注意を。

■つながりの安全感が腹側迷走神経の回復を助けます。

⑥ やさしいお風呂時間を持つ

■湯温はぬるめ(38〜40度)で、皮膚にやさしく触れるようにお湯に浸かる。

■自分の体をなでながら「今日もありがとう」と声をかけると効果的。

■浸かることでC触覚線維も刺激され、心身がゆるみやすくなります。

 

⑦ ミストやアロマを取り入れる

■顔や首元にやさしくミストをあて、香りを深く吸い込む。

■保湿効果とともに、「心地よい感覚を選ぶ」体験に。

■ラベンダーやネロリなど、安心感を高める精油がおすすめです。

 

⑧ 肌にやさしい布にくるまる

■ガーゼ、モスリン、オーガニックコットン、シルクなど、やわらかく呼吸しやすい素材を選ぶ。

■洋服や寝具、ひざ掛けなど、日常的に肌にふれるものから変えてみる。

■好きな手ざわりのものを選んで。

 

⑨ 自分で自分を抱きしめる(セルフハグ)

■両腕で自分をギュッと抱きしめる。肩や背中をさすってもOK。

■「いまここにいる」「私は大切な存在」という実感を支える働きがあります。

■不安を感じたときだけでなく、ストレスやプレッシャーで緊張しているときにするのもおすすめ。

 

⑩ 皮膚をととのえるケアタイム

■入浴後や寝る前などに、保湿クリームやオイルで丁寧に肌をなでる。

■「乾燥してないかな?」「今日は疲れてないかな?」と自分に声をかけながら。

■自分をケアする行為が、安心の感覚を育てていきます。

 

皮膚は第二の脳〜まとめ

皮膚は、ただの感覚器官ではなく、「安心」や「自分らしさ」と深くつながる大切な存在です。

やさしく触れられること、心地よい素材に包まれること、自分の身体に意識を向けること──

それらはすべて、こころと神経を落ち着かせ、「私はここにいて大丈夫」と感じさせてくれます。

 

忙しい日々の中でも、自分の皮膚にそっとふれる時間を持ってみてください。

それは、心身をととのえ、自己とのつながりを回復する、大切な一歩になります。

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外資企業勤務後、心理臨床を志す。臨床心理士の資格取得後は東京・神奈川・埼玉県スクールカウンセラー、教育センター相談員などを経て、2016年、東京都港区・青山一丁目に「はこにわサロン東京」を開室。ユング心理学に基づいたカウンセリング、箱庭療法、絵画療法、夢分析を行っている。日本臨床心理士会、箱庭療法学会所属。
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