【最新版】HSPを知って自分らしく生きる〜発達障害との違い・セルフケア
東京・青山の心理カウンセリングルーム「はこにわサロン東京」の吉田(臨床心理士・公認心理師)です。
HSP(ひといちばい敏感な人)について認知が拡まり、「自分はHSPなのではないか?」と感じる方が増えています。
HSPは気質であり「HSPだから生きづらい」というものではないのですが、「なんだか生きづらい・苦しい」ときにHSPと出会ったために「HSP=生きづらい」と誤解されることもあるようです。
カウンセリングや医療機関でも「HSPでつらい」という相談を受けるけれど、医学・心理学では「公式に認知されていない」ことから、どう対応すればよいのか悩んでしまう専門家も多いのではないでしょうか。
「はこにわサロン」では、2018年にHSC(ひといちばい敏感な子ども)を取り上げてから、最初はHSCの、やがてHSPの相談を受けてきています。わたし自身、特にHSPについてはどのように向き合うのがよいか悩みながら臨床をしてきました。
今日は、この3年で得たHSPについての理解と「はこにわサロン」の考えを書いてみたいと思います。
■自分はHSPかな?と思う方
■発達障害との違いがわからないと悩む方
■HSP/HSC支援にたずさわる方
HSPとは?
アメリカのエレイン・アーロン博士は、人口の15~20%の人はその他の人に比べて敏感さ、感受性の高さを持っているとしてHSP(Highly Sensitive Person)と名付けました。
アーロン博士は「HSPは生まれ持った気質であり、病気や障害ではありません」とおっしゃっています。
つまり「HSPだから生きづらい、というものではありませんよ」ということですね。
アーロン博士が「感じやすさ」に着目し、肯定的に位置付けたことは、とても意義深いと言えるのではないでしょうか。
ちなみに、こちらの研究では、HSPは約3人にひとりいるとあります。
HSPを「惜しまずに手をかけると素晴らしい実がなる果樹園」に、気にならない・気づかないタイプの人をどこでも適応できる「たんぽぽ」に、その間に位置するほどよい人を「チューリップ」に例えていて、まさに「みんなちがって みんないい」と説明しています。
さて、この後、いったん、わたしがどのようにHSC/HSPに出会ってきたのかについてお話しさせてください。
出会いはHSCから
わたしがHSPを知ったのは2017年。『ひといちばい敏感な子ども』という本がきっかけです。
この本を読んで、勤務先の学校や教育相談所で出会った子どもたちの顔が浮かびました。
■友だちやクラスの空気を読みすぎて、動けなくなってしまう子
■先生の全体指導をまるで自分が責められたかのように感じて必死でがんばってしまう子
■環境が変わると人が変わったように発揮できなくなる子
発達障害とは診断されず、「不安の高い子・心配性な子」という理解をして係っていましたが、HSC(ひといちばい敏感な気質)と考えるととても納得がいきました。
本人の不安の訴えに「気のせいだよ」「大丈夫だよ」と言葉で安心させようとしても効果はなく(むしろ逆効果)、本人が安心できるように環境を調整してあげる、「あなたはあなたのままでいいよ」と伝えてあげる係りが有効でした。
HSPとの出会いと困惑
学校だけでなく「はこにわサロン」でもHSCの相談をお受けしているうちに、大人の方(HSP)のご相談が入ってくるようになりました。けれど、お会いしてみると、HSPと言うよりはむしろ、
■子どもの頃に適切な養育を受けていないため対人不信・対人不安が高い(アダルトチルドレン・発達性トラウマ障害)
■発達障害からくる二次障害(甘え・自分勝手と誤認されて苦しんできた)
が少なくありませんでした。
もちろん、この中にはHSP気質をお持ちな方も含まれていると思うのですが、まずは不適切な環境設定の整理や傷つきのケアが先に必要と考えられました。
HSPと発達障害の違い
それから「自分はHSPか発達障害か、どちらなの?」というご相談もありました。
アーロン先生は「HSPは発達障害ではない」とおっしゃっておられますし、感受性について研究・情報発信を行なっているこちらのサイトでも「HSPと発達障害は異なるもの」といて説明しています。
わたしも最初のうちは「別」と理解しておりました。
けれども、発達障害のグレーゾーンの方々(発達障害とは診断されないが、似た特徴で生活に支障が出ている)の中には、区別がとても難しいと感じさせられるケースも多くありました。
そのため、「はこにわサロン」では現在のところ、発達障害もHSPも「脳の多様性(ニューロダイバーシティ)」ととらえる姿勢をとっています。
診断は大切、でももっと大切なことがある
将来、研究が進み、脳の働きをモニタリングするなどの方法でより細やかな区別や診断ができるようになるかもしれません。そうなれば、それぞれにより適した対応・対策を講じることができるようになるでしょう。
ただ、それで全てが解決するというわけでもないだろうと思います。
例えば「胃が痛い」時に、検査をして病気や異常が発見されれば、しっかりと治療をすることができます。けれど、実際には「異常なし」なんだけど、違和感がある・不安だ、というとき、「問題なし」の診断だけでは問題は解決しないのではないでしょうか。
こころを扱う心理臨床の立場からすると、診断は大切だけどそれで終わりではない。エビデンスはなくても「つらい」訴えに耳を傾け、ケアをする。不調が発しているSOSメッセージを読み解いて、自分らしく生きられるように支援することこそが大事だと思うのです。
HSPを含む脳の多様性について科学的な研究が進むことはとても大切なことだけど、それだけで片付けない態度が必要だと思います。
HSPのカウンセリング
「HSPではないか?と相談したら断られてしまった」という体験をお聞きすることがあります。
これまでご説明してきたような理由から、カウンセラー側にも困惑・迷いがある時は「しっかりお断りすること」も大切だと思います。
ただ、相談者の方が何にどう困っているのか、どうつらいのかなどを「ニュートラル」に聴いていくと、自然と対応方法が見えてくることも多いと思います。
■不当な体験から感じやすくなったり、自分を責めている時は、出来事を整理して傷つきのケアや、立ち直るための支援をする
■幼少期に適切な養育・親子関係を持てていなかったことで、不安・不信が高く、誰に対しても強く警戒してしまう・傷つきやすくなってしまっている場合は、親子関係のふりかえりをしながら、適切な感覚・信頼感を育てていく
■発達障害の二次障害で感じやすく自信がなくなっている時は、資質を整理し、無理のない生き方を探していく
「HSPだから生きづらい」と感じていた方が、HSPであってもなくても「これがわたし」と自分を肯定して前を向けるように。
このような対応に加えて、「はこにわサロン」で行っているHSPカウンセリングで有効だと感じている方法を3つご紹介しますね。
① 自分と他者の領域を分ける考え方を取り入れること
HSPの方は、周囲の様子、気持ちを敏感に察しやすく影響を受けやすい傾向があります。
自分の気持ちにも開かれていて、自分のことをきちんと優先できればよいのですが、ともすると周囲優先・そうしないといけないと思い詰めてしまうことがあるようです。(これには、日本の文化・習慣の影響も強くあるのではと思うので、後で述べます。)
自分と他者を意識すること、”不当に”相手の気持ちを察して先回る必要がないと理解して、整理・習慣づけていくと、周囲とより適切な距離が取れるようになってきます。
育ってくる過程で過度に「自分より周囲を優先する」態度を植えつけられていることもあります。その場合は、なぜそれが生じたのかを理解して、自分を優先してよいのだという感覚を取り戻していく必要があります。
② セルフケアの方法を検討すること
HSPの方が自分らしく生きるためには「ひとりになる時間」が大切だと言われています。
周囲の刺激を遠ざけて、ひととき心身を鎮めることで自分を取り戻すことができるのですね。
もっとも、これは、HSPであってもなくても大切ですよね。HSPによいものって、結局みんなにとってもよい、の例ですね。)
このひとりの時間が穏やかに過ごせるとよいのですが、「イライラ、カッカ、シクシク・・・」なんてこともあるのではないでしょうか。
このような時に取り入れられる自分のセルフケアの方法を、普段からいくつか持っておくとよいですよね。
「はこにわサロン」では、マインドフルネスやポリヴェーガル理論なども参考に、相談者さんと一緒に検討します。
③ 環境依存性の高さについて
HSPの方は、感受性の強さゆえ、環境の影響をひといちばい強く受けます。
穏やかで安心できる環境だと能力を最大に発揮するし、恐怖・圧迫で支配されている環境では萎縮して自滅してしまうことも。
でも、これはHSPだけなの?(HSPのせいなの??)
いえ、そうではなく、誰にとっても穏やかで安心できる環境が望ましく、パフォーマンスも上がるという研究があります。
この本を読むと、HSPの方が安心できる場所は誰にとっても生きやすく、生産的な場所なのだとわかります。
この理解は、HSPの方の肯定感を引き上げるのではないか・・・と思います。個人的にはこの部分を展開する方法がないかしら?と気になっています。
HSPは作られる?
ところで、HSPは、部分的に、日本の対人習慣から作り出されているのでは?と感じることがあるのでお話ししたいと思います。
相手の気持ちを察する
日本では「自分の希望を自分の口で言うのは図々しいから言わない」、「相手の願いを察して動くのが大切」とされる習慣があります。
これは、とりわけ「女性の気働き」や「年功序列(後輩が先輩に行うべき気配り)」であると考えられているのではないでしょうか。
この習慣自体が悪いというわけではないけれども、「こうあるべき」という押しつけがある時に、わたしたちは誰もが過剰な気配りを求められたり、どれだけやっても「足りないのでは?」と不安に感じてしまうのです。
人目を気にする
また、日本人の傾向として「人目を気にする」というのがあります。
わたしたちは小さい頃から「相手・周りにどう思われているのかを考えて行動するよう」「空気を読むように」教育されます。
これも、適度であれば構わないのですが、過剰に要求される体験が続くと「どう思われるかが怖くて何も言えない」など、自分の思い通りに動くことが難しくなってしまいます。
上記のような、日本では自然と身につける気配りや周りへの配慮が何らかの理由で強く押しつけられ「こうあらねばならない」と強く自分を縛ることが影響して「HSPで生きづらい」という感覚が生まれてくることがあるのではないか?と思うのですが、どうでしょう?
「読み過ぎ」を手放す
ですから、わたしたちは、少しずつ「他人の気持ちや空気を読むこと」を手放していけるようになるといいなと思います。
実際、一方的に相手の気持ちを読むことは「過剰・余計なお世話」になることもあります。
相手が困っているのでは?と察して勝手に動く前に「何かお困りですか?」「わたしにできることはありますか?」と問いかけてもよいのですよね。「言いにくいことがあっても、ぜひ言ってくださいね」という態度を伝えることができたら、言うか言わないかは相手に委ねてよいのです。それは、相手の自由と尊厳を守ることにもつながります。
「言わなくても察してもらえる」という習慣は、国外に出ると通用しないこともあります。多様性に開かれることが、わたしたちの「気配り・人目を気にする」傾向を和らげる追い風となってくれたら、と思います。
【HSPとは】まとめ
■HSPと発達障害は「違う」と言われているが実際にははっきりしないことが多い
■HSPだから生きづらいわけではないが「生きづらい・苦しい」と感じていたらケアをしよう
■生きづらさの改善には、領域の考え方、セルフケア、環境への考え方が助けになる
■日本の「気を遣う」「人目を気にする」は、やりすぎないように
HSPについて、これからも研究が進められていくと思いますから、新しい理解や気づきが得られましたらお伝えしていきたいと思います。
「はこにわサロン」のカウンセリングに関心がある方は、こちらをご覧ください。
参考図書
「HSP」とはうたっていなくても、HSPのかたにぜひ読んでみて欲しい本がありますので、よろしければ参考にしてくださいね。
対人関係療法の視点から、自分と他人をどちらも尊重する考え方、コミュニケーションについて書かれています。水島先生は他にもたくさん著書がありますから、合わせて参考にしてみてください。
伊藤絵美『セルフケアの道具箱:ストレスと上手につきあう100のワーク』晶文社
HSPさんが不安になっている時は、つい自分をおざなりにしてしまいがちです。でも、それではますます不安がつのり、状況を悪化させてしまうこともあります。小さなことでよいので、毎日、自分をケアする習慣をつけられるといいですね。
周囲に対して過敏に反応してしまうことが親子関係に根ざしている場合があります。さまざまな事例が紹介されていること、また、「ポリヴェーガル理論」といって、交感神経の働きで心身を整える方法についても分かりやすく書かれています。
Elain N. Aron Psychotherapy and the Highly Sensitive Person
アーロン先生のもとで学んだキャリアコンサルタントのみさきじゅりさんに「英語で読むのはとっても大変だから、1冊だけ読むとしたら?」とおたずねして教えていただきました。原典にあたりたい方へ。