学校に行けない理由がわからない〜自律神経の乱れと不登校 対応方法は?
東京・青山の心理カウンセリングルーム「はこにわサロン東京」の吉田(臨床心理士・公認心理師)です。
学校に行けない子どもが増えています。文部科学省の統計によると、不登校児童生徒の数は29万9千人(令和3年度)で10年連続の増加、過去最多です。
いじめや、苦手なことがあるなど、学校に行けない理由がわかるときは、まずはその要因を解消することが必要です。
しかし、思い当たることがない、子どもにも理由がわからない、行きたいと思っているのにいけない、いじめなどの問題は解決したのに行けないということもよくあります。
このように、学校に行けない理由がわからない時に、実は、子どもの自律神経の乱れが関係していることがよくあります。
この記事では、子どもの不登校について、こころと身体を結びつける自律神経の働きから、その原因と対策についてお話しします。
専門的な部分もありますが、子どもの心身を理解するために大切なことを書きますので、どうぞ、最後まで読んでください。
自律神経とは
自律神経は、体内の様々な機能を調節する神経系です。主に交感神経と副交感神経の二つから構成されており、交感神経は活動するための神経(車でいうとアクセル)、副交感神経はリラックスするための神経(車でいうとブレーキ)の働きをしています。これらの働きで、心拍数、呼吸、体温、消化などが調整され、身体のバランスが保たれます。
下の図は、自律神経のバランスが取れている時の様子を表したものです。
自律神経のリズムが、薄いピンク色(副交感神経=リラックス・ブレーキ)と濃いピンク色(交感神経=活動・アクセル)の中で推移している様子です。薄いピンク色では休息したり、友だちとおしゃべりをしてくつろぐことができ、濃いピンクのところでは「さぁ、やるぞ」とやる気を出して学習や活動に取り組むことができています。
副交感神経は2種類
副交感神経(リラックス)には、2つの種類があります。
背側迷走神経(はいそくめいそうしんけい)は消化や休息の時と、もうひとつ、凍りつき(急ブレーキ)の役割を果たしています。背側迷走神経は生まれつき備わっています。
腹側迷走神経(ふくそくめいそうしんけい)は、他者と交流すると心地よい、と感じられる神経です。腹側迷走神経は、成長の過程で、親子関係や学校で安心して人と交流することで少しずつ育まれていきます。
日常生活の中で起きる自律神経の乱れ
日常の生活の中でも、ストレスがかかり、自律神経のバランスが乱れることがあります。
例えば、「友だちにからかわれてカッとなる」と、心臓がバクバクしたり、息が荒くなったり、手汗をかいたりします。これらは交感神経の高まりで、心身が臨戦体制をとり、「やめてよ!」と抗議したり、相手に言い返したりします。
また、友だちに仲間はずれにされると、ショックや悲しさで心臓がギュッとなったり、表情がなくなったりします。これは、背側迷走神経の働きで、ショックや苦痛に対して防御しようとしています。
しかし、友だちが「ごめんね!」と謝ってくれたり、仲間はずれにされたと思ったのは勘違いだったとわかると、自律神経はもとのよいリズムを取り戻します。
あるいは、学校で嫌なことがあって、イライラしたり、落ち込んだりしても、お家に帰ってきて、おいしいおやつを食べたり、家族に話したり、好きなことをして遊んだりすると、乱れが整ってきます。夕ご飯やお風呂、早めに寝ることも自律神経を整えます。
強いストレスがかかり続けた時の自律神経の乱れ
しかし、友だちのからかいが毎日続く、学業へのプレッシャーが強い、学校で人目を気にしてしまうなど、日常的に強いストレスがかかり続け、回復する時間が持てないと、子どもは次第に、無理してがんばり続ける、とか、こころを無にして耐え忍ぶ、などの方法で学校に適応しようとすることがあります。
常に、アクセルを踏み込み続けたり、ブレーキをきつく踏み続けたり、あるいは、アクセルとブレーキを同時に踏む、というような無理が起きることもあります。すると、自律神経は大きく乱れてしまいます。
例えば、自律神経が高まったままだと、イライラ、怒りっぽくなったり、不安が強く、いつも緊張して力んでいる、びくびくして些細なことに強く反応したりするようになります。いつも身体に力が入っている状態です。感情をコントロールすることが難しくなりますし、理性的に考えることも難しいです。
逆に、自律神経が急ブレーキのままだと、身体は省エネモードに入ります。落ち込み、無気力になり、力が入らない、朝起きられない、やる気が出ない、疲れが取れない、人に会いたくない、ぼんやりしていて、頭では「やらなきゃ」とわかっていても身体がついてこない状態です。
その他にも、頭痛や腹痛、めまい、眠れないなどの症状が出ることもあります。
このようなとき、わたしたちの脳の働きにも変化が起きます。
自律神経と脳の働き
わたしたちの脳には、今この瞬間の生存を守ろうとする「生存脳」と、長期的に生存していけるように考える「理性脳」の2つがあります。
生存脳は古くからある脳の部分で、大脳辺縁系、小脳、脳幹です。
理性脳は人間の持つ新しい脳で、大脳新皮質、前頭葉です。理性脳は、生まれてから25年くらいかけてすこしずつ成長していきます。そのため、子どもの理性脳は発達途中です。
生存脳は、例えば、道でばったり蛇を見かけた時に瞬時に自分の身を守るためにサッと離れて身を守ります。その反応は1秒にも満たないです。そのため、「よく見たら棒だった」ということもありますが、自分の身を守るには、「棒かもしれないからよく見てみよう」などと悠長なことを考えるより、とにかくパッと反応することが大切です。
このような時は、自律神経もパッとアクセルを踏み込んで瞬時の行動を後押しし、「蛇じゃなかった」とわかると、緊張がほぐれて、いつものリズムを取り戻します。
生存が脅かされたと感じると理性的に考えられなくなる
同様に、もし学校で友だちからからかわれて交感神経が高まり、生存脳が主導権を握ったとしても、友だちが「ごめんね」と謝ってくれたり、他の子が「ひどいね」と慰めてくれて緊張がやわらぐと、リラックスできて、理性脳が「友だちは自分のことが嫌いで言ったのではなくちょっとイライラしていただけかもしれない」と考えたり、「自分の方から話しかけてみて、友だちが自分に敵意を持っていないことを確認しよう」と考えたりできます。
しかし、もし、子どもが、寝不足や朝ごはん抜きでイライラしていたり、勉強のプレッシャーがある、あるいは家で両親がいつも喧嘩をしていて親の機嫌をうかがわないといけないなど、ストレスが続き、自律神経が乱れて、理性脳がうまく働けなくなっている時に、友だちから嫌がらせを言われると、生存脳が強く反応し、攻撃し返してしまったり、無力感でいっぱいになってしまうことが起きます。神経が「危険」と判断しているため、理性的に考えることができません。これは、大人でも同じことが起きます。
一度、このような状態に陥り、ケアや回復の手立てがとられないと、学校でいつも警戒している、特にこれといって理由はないけれど学校が怖くなったり、学校で頑張る気力がわかなくなってしまいます。(逆に、他人に対して攻撃的な問題行動が現れることもあります。)
安心できる居場所だったはずの自宅でも情緒不安定になってしまう
自律神経の乱れから理性脳がうまく働かなくなると、学校に行けないだけでなく、家でも家族と普通のコミュニケーションが取れなくなったり、「学校に行かなくても家で自分にできることをしよう」と考えて行動することができなくなり、ゲーム三昧になってしまうということも生じます。
子ども自身も望んでいないのに、怒りが抑えられず、暴言や暴力が生じたり、生きている感覚を取り戻したくて自傷行為をする、ということが起きることもあります。
このように、自律神経が乱れて、神経が「危険」を知らせると、生存脳が主導権を握り、理性脳は働きたくても働けなくなってしまうのが、人間の脳の仕組みです。
では、このように自律神経が乱れて理性脳が働けなくなっている悪循環に対して、家族は何をどのようにしてあげるとよいでしょうか。
自律神経の乱れに対して家庭でどう対応するのが望ましいか
まず、前提として、学校に行けない理由がはっきりしなくても、自律神経の乱れ・心身の不調や情緒不安定などの様子から、子どもがこれまでにストレスを抱えて困っていたことが推察されるので、「よくがんばってきたね」「もっと早く気づいてあげられなくて、ごめんね」「まずは身体とこころを休めて回復させようね」ということを伝えてください。
学校に行くか行かないか、学校以外の場所に行くか行かないか、家でどのように過ごすかは、子どもが楽な気持ちで(理性脳が働く範囲で)できることは、何をしてもよく、そうでないことは今はいったん遠ざけることが望ましいです。
自律神経が乱れている時=生存脳に働きかけるのは、言葉ではなく感覚が有効です。おだやかな態度で、ゆっくり話すこと、子どもが安心、安全だと感じられるような雰囲気づくりが大切です。
親も不安でイライラしてしまうと思うのですが、それを子どもに向けてしまうと、子どもの状態がさらに悪化します。親が日頃の不安・つらい気持ちを話せる場所があることや、相談できる人がいることは、とても大切です。
「学校に行かないなら、〜〜しなさい」「〜〜禁止」のような言い方は、子どもに罰を与えているようなニュアンスがあります。子どもが罪悪感を感じたり、自分の気持ちをわかってもらえない、と感じてしまうので、やめておきましょう。
自律神経を整えるには、規則正しい生活が大切なのですが、だからと言って押し付けてもうまくいきません。子どもも、本当は早寝早起きできたらよいことはわかっていますから、焦らないで、少しずつ整えていけるとよいと思います。(理性脳がわかっていても、そう動けないのが自律神経の乱れの症状であると理解してくださいね。)
自律神経を整えるためにできること
その他にも、自律神経を整えるために良いとされていることをご紹介していきます。
- バランスの取れた食事をとる
- 飲み物は、冷たいものより、熱いものを「ふーふー」しながらゆっくり飲むのがおすすめです。
- 身体を動かすこと。ウォーキングやストレッチ、ヨガもよいです。
- 深呼吸。呼吸が浅くなっている場合は、まず、しっかり息を吐き切ってから吸うとよいです。
- ぬるめのお風呂や足湯。
- 自然にふれる。
- 手のひらを、お腹や胸元、首など、凝っているところに当てて、温めます。
- 笑う。おもしろ動画やお笑い番組を親子で一緒に見るのもいいですね。
- デジタルデトックス。理想は寝る前1時間は電子機器をさわらない、ですが、できる範囲で。
- 歌う。呼吸が整い、楽しい気持ちになったり、自分の気持ちにフィットした曲があったりして、こころにも効きます。
- ペット・動物にふれる。自然とおだやかな気持ち、楽しい気持ちが湧いてきます。
- 家族や信頼できる友だちと一緒に過ごす。一緒にいて心地よい、と感じられる人と過ごすことは、副交感神経の「人といて心地よい」を回復する大切な要素です。
- 「マインドフルネス」を親子で研究してみるのもよいでしょう。
自律神経の乱れによって生じた不登校にカウンセリングができることは
子どもの自律神経を整えるために、カウンセリングにできることには、どのようなことがあるでしょう。
子どものカウンセリング
第三者から客観的に今の状況について説明してもらうことで、自分を責める気持ちをやわらげ、主体的に心身の調子を整える努力をしてみようという気持ちを作ります。
今困っていることについて、相談者を持つことは、子どもの安心感・信頼感の回復と、自己肯定感、自信の回復に寄与します。
子どもが抱えていたストレスについて整理し、今後は何に気をつけるとよいかがわかります。
ストレス下で受けた傷つきや、不信感などがある時は、カウンセリングを通じて、その整理、理解、傷つきからの回復、自分らしさの回復をしていくことができます。
子どもの年齢によっては、言葉でのカウンセリングより、プレイセラピー(遊びを通じたカウンセリング)や箱庭療法などが有効です。
親のカウンセリング
子どもが学校に行けない状態であると、親に強いストレスがかかってきます。ですから、とにかく、親が楽に過ごせる場所を持つこと、なんでも話せる信頼できる話し相手がいること、気晴らしができることなどは、とても重要です。
その上で、カウンセリングにできることは、まず、何より、親の不安や苛立ちの軽減です。誰にも言えないような小さな苛立ち、子どもに対する感情、自分のせいなのか?という疑念などについて話すことや、苦痛や孤独感をすこしやわらげます。
日頃の子どもの様子をお聞きして、子どもの心情や何に困っているかなどを理解、整理することができます。また、子どもに「してあげられるとよいこと」「避けた方がよいこと」を話し合うことができます。
正しい接し方をしていても子どもの様子に変化が見られるまでに時間がかかることもよくあります。そのような時には、並走する専門家がいることで、ブレることなく、子どもに接することができます。
子どもが学校に行けない場合のカウンセリングは、学校(スクールカウンセラー)やお住まいの地域の相談機関(「教育相談」などと呼ばれます)では、無料で受けることができます。また、小児科や心療内科・精神科などに臨床心理士・公認心理師がいて、相談を受け付けてくれることもあります。それ以外にも、私設のカウンセリングルームで相談することができます。
はこにわサロンでも不登校のご相談を受付ています。
ご相談は、対面の他、オンラインや電話でのご相談もできます。詳しくはこちら。
はこにわサロンでは、初回は、必ず、保護者の方に来ていただくお願いをしています。
これまでの経緯を詳しく聞かせていただくことで、親子双方への必要なサポート・係りを検討するためです。
ご協力をお願いします。
自律神経の乱れと不登校〜まとめ
子どもの不登校に、自律神経の乱れが大きく関係していることについて、自律神経の働き、ストレス、脳の働きが深く関係していることについてお話しました。
自律神経が乱れているときは、理性的な考えでよい・正しい行動をとることが難しくなります。
自律神経の乱れが生じている時に優勢な生存脳は、言葉でのコミュニケーションが難しく、感覚で情報収集と処理をします。ですから、自律神経が乱れているときは、子どもが安心できるような態度で接することが重要です。
子どもの不登校によって、親にも強いストレスがかかります。子どもに望ましい態度・環境を作るためにも、親自身がストレスケアをする、信頼できる話し相手を持つことが大切です。
まずは、ご家庭で工夫してみてほしいのですが、不安が解消しない時や、悩んだときはご相談ください。
終わりに
不登校は決して家庭で抱え込むべき問題ではありません。専門家の助けを借りながら、自律神経を整え、心と体の健康を取り戻すことが大切です。この記事が、少しでもその理解と支援の一助となれば幸いです。