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トラウマは弱さではない〜ケアがないと悪化する理由

 
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外資企業勤務後、心理臨床を志す。臨床心理士の資格取得後は東京・神奈川・埼玉県スクールカウンセラー、教育センター相談員などを経て、2016年、東京都港区・青山一丁目に「はこにわサロン東京」を開室。ユング心理学に基づいたカウンセリング、箱庭療法、絵画療法、夢分析を行っている。日本臨床心理士会、箱庭療法学会所属。
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東京・青山の心理カウンセリングルーム「はこにわサロン東京」の吉田美智子(臨床心理士・公認心理士)です。

 

トラウマという言葉を耳にすると、「弱さ」や「乗り越えられなかった心の問題」といったイメージを持たれることがあります。

でも、これは大きな誤解です。

 

トラウマは、心と体が命を守るために発動する防衛反応であり、その影響の大きさは出来事の重大さや頻度だけで決まるものではなく、その後のケアや周囲のサポートが回復を左右します。

 

本記事では、トラウマや複雑性トラウマの仕組みを解説し、科学的な視点から「トラウマは弱さではない」ことを考えていきます。

 

トラウマとは

トラウマとは、強い恐怖やストレスにさらされたときに心と身体が示す自然な防衛反応です。脳科学と心理学の視点から仕組みを説明します。

 

【脳科学の視点:脳が命を守るための仕組み】

扁桃体の警告システム

トラウマ体験時、脳の「扁桃体」が過剰に反応し、体を危険から守る準備をさせます。この反応は「戦う」「逃げる」「凍りつく」という形で表れ、弱さではなく生存本能の一部です。

 

海馬の記憶整理が停止

扁桃体が過剰に働く一方で、体験を「過去の出来事」として整理する「海馬」の働きが低下します。その結果、トラウマ体験が「今も続く危険」として脳に刻まれます。

 

自律神経の過剰活性化

トラウマ後、脳は警戒モードを維持しようとします。これにより、交感神経が優位になり、心身が常に緊張状態に陥りやすくなります。

 

【心理学の視点:心の適応反応】

「戦う」「逃げる」「凍りつく」の心理的反応

こころもまた、危険を回避するためにこうした防衛反応を示します。これらは動物にも見られる本能的な適応であり、決して心の「弱さ」ではありません。

 

感情の過剰な活性化

トラウマ後、心は過去の危険を繰り返し思い出しながら適応しようとします。これがフラッシュバックや不安として現れます。

 

複雑性トラウマとは何か

複雑性トラウマは、長期間にわたり繰り返し経験する虐待やネグレクト、支配的な関係の中で引き起こされる深刻な心身の状態です。幼少期に経験することが多く、以下の特徴を持ちます。

 

自己否定感や罪悪感

繰り返し受ける心理的・身体的な攻撃が、「自分が悪いから」という思考を強化します。

 

安全な関係の構築が困難

他者への信頼感を失い、安心できる人間関係を作ることが難しくなります。

 

感情調整力の低下

怒り、不安、悲しみなどの感情をコントロールする力が弱まり、日常生活や対人関係に支障をきたすことがあります。

 

トラウマが「弱さ」と誤解される理由

トラウマが弱さと見なされる背景には、以下のような誤解があります。

 

見た目でわからない

トラウマの影響は外傷のように目に見えないため、「ただの気の持ちよう」と捉えられやすいのです。

 

文化的な価値観

苦労に耐えることを美徳とする文化では、「トラウマ反応=弱音を吐いている」と誤解されがちです。

 

情報不足

トラウマの科学的背景が十分に理解されておらず、「自分が弱いからこうなった」と自己否定につながることも少なくありません。

複雑性トラウマがより深刻化する理由

複雑性トラウマは、トラウマより重く強い影響を残すことが知られています。

 

幼少期の脳と心への影響

発達途上にある子どもの脳は、外部の影響を受けやすい状態にあります。

 

長期的なストレスは脳の神経回路を「常に危険がある」と学習させ、それが固定化されるリスクを高めます。

 

すると、落ち着きがない、情緒不安定、攻撃性が高い、傷つきやすい、集中できないなどの問題としてあらわれることがあります。

 

安全感の喪失

信頼すべき人からの虐待やネグレクトは、「人を信頼する」という基本的な感覚を奪い去ります。

 

そのため、対人関係が作れない、苦手、特定の人に強く執着する・依存するなどの問題が生じやすくなります。

 

自己否定感の固定化

複雑性トラウマの影響で「自分には価値がない」「自分が悪いから」といった思考が作られて、それが成長後も続くことがあります。周りの評価に依存しやすく、どんなに成果を出しても自信が持てないため、うつ、不安障害、自己喪失などに陥りやすくなります。

トラウマそのものよりも、その後のケアの影響が大きい理由

同じ体験をしても、トラウマが長く残るかどうかは、その後のケアの有無に大きく左右されます。

 

安全で信頼できる人間関係を通じて、脳は「もう危険は過ぎ去った」と認識しやすくなります。

 

また、カウンセリングを通じて、脳の海馬が記憶を安全な過去の出来事として再整理します。

 

セルフケア

自分を責めない

トラウマは生存本能による自然な反応であり、決して弱さではありません。「自分のせい」「自分が弱い」などと責めないでください。

 

自律神経を整える

トラウマの影響により自律神経が乱れやすくなります。最も大切なのは、睡眠、食事、運動ですので、まずは、これらを整えましょう。また、身体をゆるめる活動〜呼吸や身体を温める(入浴もよい)、散歩など、心地よいと感じられることを大事にしましょう。

 

専門的なケア

認知行動療法(CBT)

認知行動療法(CBT)は、思考、感情、行動のつながりに焦点を当てた心理療法です。トラウマによって生じる否定的な思考パターンや自己認識を特定し、それを現実的で前向きなものに置き換えることを目指します。また、行動の修正を通じて、フラッシュバックや過剰な不安などのトラウマ症状を軽減します。トラウマに直面する準備ができた段階で安全に過去を振り返る手法を取り入れるため、症状の緩和と生活の質の向上に効果的です。

 

トラウマインフォームドケア

トラウマインフォームドケアは、トラウマの影響を深く理解し、その知識に基づいて支援を行うアプローチです。トラウマを抱える人の感情や行動の背景にある心身の反応を尊重し、安全で安心できる環境を提供します。支援者は共感的な態度で接し、トラウマを再体験させることなく、回復へのステップを共に歩みます。

 

パーツ心理学や身体志向アプローチ

パーツ心理学は、心の中にある異なる「部分(パーツ)」を理解し、調和を図る心理療法です。トラウマの影響で生まれた傷ついたパーツに寄り添い、そのニーズを満たすことで回復を促します。身体志向アプローチでは、トラウマが体に蓄積されるという視点から、呼吸や動作、感覚を通じて自律神経を整えることに焦点を当てます。このアプローチは、心と体のつながりを強化し、深い安心感を取り戻すのに有効です。

 

ポリヴェーガル理論

ポリヴェーガル理論は、自律神経系の働きを理解し、トラウマケアに活用するアプローチです。特に「安全と社会的関係性のモード」を活性化することで、自律神経のバランスを整え、安心感を取り戻します。呼吸法や体の動き、声の活用が有効で、トラウマによる過剰な警戒状態や凍りつき状態を和らげます。また、セラピストとの信頼関係を通じて社会的つながりを回復し、フラッシュバックや不安を軽減します。

 

ユング心理学

ユング心理学では、箱庭や絵、夢、イメージなどを活用して無意識と対話し、こころの深いところでのトラウマケアを行います。また、「個性化の過程」と呼ばれる自己実現を目指すプロセスの中で、トラウマを乗り越え、自己の統合を進めることを支援します。

 

はこにわサロンでは、ご相談者の方の状態やニーズにより、ご紹介した方法を適宜選択しながら専門的なトラウマケア・カウンセリングを行っています。

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まとめ

トラウマは弱さやこころの問題ではなく、心と身体の自然な反応です。トラウマの影響は、出来事の重大さより、どうケアがされたかによって回復が左右されます。ですから、傷つき体験は、できるだけ速やかに、安心・信頼できる人との繋がりの中でケアをすることが大切です。

日常的なつながりによるケアにより、多くのトラウマが癒されますが、複雑性トラウマのように、周りに信頼できる人がいない場合やトラウマが複雑化・重篤化しているときは、専門家のカウンセリングを受けることが必要です。

トラウマを適切にケアして、ご自分らしさを取り戻していけますように。

 

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外資企業勤務後、心理臨床を志す。臨床心理士の資格取得後は東京・神奈川・埼玉県スクールカウンセラー、教育センター相談員などを経て、2016年、東京都港区・青山一丁目に「はこにわサロン東京」を開室。ユング心理学に基づいたカウンセリング、箱庭療法、絵画療法、夢分析を行っている。日本臨床心理士会、箱庭療法学会所属。
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