分離不安障害(子ども・大人)の主な症状、原因と対応方法
東京・青山の心理カウンセリングルーム「はこにわサロン東京」の吉田美智子(臨床心理士・公認心理師)です。
分離不安障害(Separation Anxiety Disorder)は、愛着を持つ対象(親、配偶者、子どもなど)と離れることに対して過度の不安を抱く精神疾患です。この不安が日常生活や社会的機能に大きな影響を与える場合に診断されます。
特に子どもに多く見られますが、大人も喪失体験、共依存などによって生じることがあります。
分離不安は、「甘え」と誤解されることがありますが、違います。
子どもの場合は成長過程によく見られるほか、環境、親子関係、離別体験やトラウマ体験、遺伝要素なども関係することがあります。
分離不安障害の診断基準(DSM-5より抜粋)
以下の症状のうち、少なくとも3つ以上が6か月以上(大人の場合)または4週間以上(子どもの場合)続き、日常生活に支障をきたしている場合に診断されます。
■愛着対象が危険にさらされたり失われたりすることへの過剰な心配 ■自分が何らかの災害や事故で愛着対象から引き離されることへの心配 ■愛着対象と離れる状況(学校、職場など)への拒否感 ■愛着対象がいないときに一人でいることへの恐怖や不安 ■愛着対象がいないときの睡眠困難 ■愛着対象と離れた後に悪夢を見ること ■離別の際に身体症状(頭痛、胃痛、吐き気など)が現れる
子どもの分離不安障害によく見られる症状
子どもの分離不安障害では、愛着対象(通常は親)と離れることに対して過剰な不安や苦痛を示します。
代表的な症状には以下のものがあります:
離別時の強い不安や泣き叫び
親が見えなくなると取り乱し、泣いたり抱きついて離れない。
登校拒否や外出の拒否
学校や友だちの家に行くのを嫌がり、理由をつけて回避しようとする。
身体症状の訴え
離別を控えた状況で、頭痛や腹痛、吐き気などを訴える。
確認行動
親の居場所や安全を頻繁に確認する行動。
夜間の不安
親がそばにいないと眠れない、悪夢を見るなどの睡眠障害。
大人の分離不安障害によく見られる症状
大人の分離不安障害では、愛着対象(配偶者、恋人、親など)と離れることに対して過剰な不安を感じ、日常生活に支障をきたすことがあります。代表的な症状は以下の通りです。
愛着対象の安全への過剰な心配
「事故に遭うのではないか」「自分から離れてしまうのではないか」といった不安が強い。
離別時の強い苦痛
愛着対象が見えなくなると不安やパニックを感じ、気分が不安定になる。
執拗な確認行動
電話やメッセージを何度も送り、相手の状況や安全を確認しようとする。
孤独への耐性の低さ
一人になることを極端に嫌がり、孤独を恐れる。
身体症状の出現
離別や不安時に頭痛、吐き気、動悸などの身体的な不調を訴える。
子どもの分離不安障害が起きる理由
子どもの分離不安は、愛着対象(親や保護者)と離れることへの恐れや不安から生じます。その理由には以下のような要因が挙げられます。
① 発達段階の影響
分離不安は、特に6か月から3歳ごろの子どもの自然な発達過程の一部です。この時期、子どもは「親が自分を守ってくれる存在」として強く依存するため、離れると不安を感じやすくなります。
② 未発達な自己認識と安全感
子どもは、親がいないと「自分は安全ではない」という感覚を抱きやすいです。物理的な距離が心理的な距離として感じられ、「親が戻らないかもしれない」と恐れることがあります。
③環境の変化
引っ越し、転校、親の離婚、家族の死別など、大きな生活の変化は分離不安を引き起こしやすいです。子どもにとっての「安心の基盤」が揺らぐことで、不安が強まります。
④親の態度や反応
親が過干渉だったり、不安を抱えていると、子どももその感情を察知し、「離れるのは危険」と感じることがあります。また、親が子どもの不安に過剰に反応して抱きかかえ続けると、不安が強化されることがあります。
⑤ トラウマや不安を増す経験
以前に親と離れる状況で怖い思いをしたり、急な離別を経験した場合、それが記憶として残り、分離不安が強まる原因となることがあります。
⑥ 遺伝的・生物学的要因
不安症の家族歴がある場合、子どもが分離不安を抱える可能性が高くなることがあります。これは、生来の気質や神経伝達物質の働きが関係していると考えられています。
大人の分離不安障害が起きる理由
大人の分離不安障害の要因には、心理的・環境的・生物学的な要素が絡み合っています。以下にその代表的な要因を挙げます。
① 子ども時代の愛着の問題
子ども時代に安定した愛着関係が築けなかった場合、大人になっても愛着対象に対する強い依存や不安が残ります。
(例)親が過干渉だったり、逆に無関心であったりしたケース。
愛着理論では、不安型や回避型の愛着スタイルが分離不安障害のリスクを高めるとされています。
② 過去のトラウマや離別経験
大切な人との死別、離婚、突然の別れなどの経験が、分離不安を引き起こす大きな要因になります。 また、トラウマ体験により、「また愛着対象を失うのではないか」という恐怖心が強化されます。
③ 過剰な依存関係
恋人や配偶者との関係で、過剰に依存する傾向がある場合。相手がいないと「自分は不完全」「安全ではない」と感じるためです。
④ 環境の変化やストレス**
転職、引っ越し、新しい人間関係などの環境変化が、不安を悪化させるトリガーになることがあります。特に、支えとなる人が不在の場合、不安が増大します。
⑤ 遺伝的・生物学的要因
不安症や気分障害の家族歴がある場合、分離不安障害を発症しやすいことが研究で示されています。脳内の神経伝達物質(セロトニンやドーパミン)の不均衡も関与していると考えられています。
⑥ 社会的孤立
孤独感や社会的サポートの欠如が分離不安の背景にあることがあります。愛着対象が心理的な支えとなっている場合、その人と離れることが大きな不安の要因となります。
⑦ 性格や気質
生まれつき不安感が強い人や、繊細で感受性が豊かな人は、分離不安障害を発症しやすい傾向があります。
子どもの分離不安障害〜家庭でできる対応
分離不安のある子どもに、おうちでできることをご紹介します。
安心感を与える
子どもと離れるときは、戻る時間などを具体的に伝えてしっかり守ります。また、親と離れた時には、親の代わりを果たす人がいて、子どもを温かく慰めてくれることが大事です。
生活リズムを整える
日常生活を整えて、子どもの安心感を作りましょう。子どもが生活リズムを予測しながら過ごせるように環境を整えます。
「ライナスの毛布」を用意する
スヌーピーに登場するライナスがいつも持っている毛布は、分離不安をやわらげる効果があるものとして有名です。子どもが持っていると安心できるもの、例えばタオルやぬいぐるみなどを準備することで、分離不安の苦痛を和らげることができます。
親が落ち着いた態度で接する
分離不安がある子どもは親の不安を敏感にキャッチします。親も不安になる気持ちはよくわかりますが、①〜③を実行することで子どもは少しずつ安心感を獲得していきますから、親が「大丈夫」と思うこと、落ち着いた態度で接することが大切です。
プレイセラピー
子どもの不安をやわらげ、子どもの内面発達を促すカウンセリングに、プレイセラピーがあります。遊びを通じて、子どものこころをケアする方法です。
大人の分離不安障害の対応方法
大人の分離不安障害への対応方法をいくつかご紹介します。
自分の不安に気づく
不安を感じたときは「不安になっているな」と客観的に気づけると、不安に100%呑み込まれることを防げます。
分離不安が生じる理由を整理・理解する
大人の分離不安には親子関係やトラウマ体験などが影響していることが多いです。ご自分がなぜ強い不安を感じるのか、振り返りをして、整理してみましょう。
セルフケアを行う
不安や緊張をやわらげるセルフケアの方法を学んで実践しましょう。呼吸法や、リラクゼーション、自律神経を整えることが有効です。
カウンセリングを受ける
不安の元になっている親子関係やトラウマを、ご自分だけで整理するのが難しいときは、カウンセリングを活用してください。
分離不安障害・まとめ
分離不安障害は、親や配偶者などの愛着対象と離れることへの過剰な不安が日常生活に影響を及ぼす精神疾患です。子どもの場合、発達過程や家庭環境、トラウマなどが主な要因で、泣き叫びや行き渋り、身体症状などが見られます。
大人は愛着スタイルや過去の離別経験が背景にあり、執拗な確認行動や孤独への恐怖が見られます。
子どもには安心感を与え、生活リズムを整えたり、「安心の対象」となるアイテムを持たせることが有効です。
大人の場合は、自己理解、セルフケア、カウンセリングが有効です。
はこにわサロン東京でも、分離不安障害のカウンセリングを受付けています。
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