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夫婦喧嘩で「感情が溢れる人」と「黙り込む人」の心理 ― なぜ話し合えなくなるの?

 
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外資企業勤務後、心理臨床を志す。臨床心理士の資格取得後は東京・神奈川・埼玉県スクールカウンセラー、教育センター相談員などを経て、2016年、東京都港区・青山一丁目に「はこにわサロン東京」を開室。ユング心理学に基づいたカウンセリング、箱庭療法、絵画療法、夢分析を行っている。日本臨床心理士会、箱庭療法学会所属。
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東京・青山の心理カウンセリングルーム「はこにわサロン東京」の吉田美智子(臨床心理士・公認心理師)です。

 

夫婦喧嘩になると、涙や怒りが溢れて止まらなくなる人もいれば、言葉が出なくなって黙り込んでしまう人もいます。どちらかが激しく訴え、もう片方が固まって沈黙するという組み合わせもあれば、双方が激しくぶつかり合うケース、逆に互いに黙り込んで距離を取るケースもあります。

 

こうした反応は「甘え」や「性格の問題」と誤解されがちですが、多くの場合、夫婦という特別な関係性の中で、心と身体が“危険”を察知したときに起こる自動反応です。ここでは、その仕組みをできるだけわかりやすく説明し、どう対応すればよいか、カウンセリングで何ができるかまで整理します。

 

夫婦という特殊な関係ゆえの「暴走」と「沈黙」

夫婦関係は、とても特別な関係です。仕事や友人関係なら、多少我慢したり、言葉を選んだり、嫌なときは距離を取ったりといった調整が比較的しやすいものです。ところが夫婦関係では、それが急に難しくなります。

 

なぜなら夫婦は、安心や理解を期待している相手であり、「わかってもらえるはず」「大切にされるはず」という前提を、誰もが少なからず持っているからです。つまり、夫婦喧嘩は単なる意見のぶつかり合いではなく、もっと深いところで「この関係は安全か」「つながりは保てるか」が問われる場面になりやすいのです。

 

そのため、相手の言葉や態度を「否定された」「責められた」「無視された」「大切にされなかった」と感じた瞬間、心の深い部分が強く揺さぶられます。そしてここで、反応が二つに分かれます。

 

一つは、「わかってほしい」「今ここで伝えなければ」という強い焦りが出て、感情が暴走する反応。もう一つは、恐怖で固まり、言葉が出なくなって黙り込む反応です。

 

どちらも、本人が相手を困らせたくてやっているわけではありません。むしろ「大切な関係が危うい」と感じたときに、心身が必死に身を守ろうとして起きる反応です。この土台にあるのが、次に説明する闘争逃走反応です。

闘争逃走反応(脳と身体の自動反応)

夫婦喧嘩で話し合えなくなる最大の理由は、脳と身体が「危険だ」と判断してしまうことにあります。人は強いストレスを感じると、理性より先に、生き延びるための反応が作動します。これが闘争逃走反応です。

 

闘争逃走反応は、脳が危険を察知した瞬間に、闘うか逃げるかという形で身を守ろうとするシステムです。反応は一瞬で立ち上がり、いったん作動するとコントロールが難しくなります。ここで重要なのは、喧嘩の内容が“客観的にどれほど重大か”よりも、本人の心身がそれを“どれほど危険だと感じたか”で反応が決まるという点です。

 

感情が溢れて止まらなくなる人は、交感神経が一気に活性化し、心拍数が上がり、呼吸が浅くなり、身体が戦闘モードに入ります。その結果、言葉や涙や怒りが抑えられなくなります。このとき脳の中では、「今ここで伝えなければ、気持ちが届かない」「つながりが切れてしまう」という切迫感が生まれています。だから、本人としては“落ち着きたい”と思っていても、止められません。

 

一方で、黙り込んでしまう人は、強いストレスで思考が停止し、身体が固まり、言葉が出なくなります。これは逃げることすら難しいときに起こるフリーズ(凍結)反応で、思考や感情をいったん止めることで苦痛を減らそうとする働きです。外から見ると「冷たい」「無関心」に見えることがありますが、内側では恐怖や圧迫感でいっぱいになっていることも少なくありません。

 

どちらも、その人が得か損かを計算して「効果が高い方」を選んでいるわけではなく、自動的にそうなってしまう状態です。

生育歴の影響

夫婦関係で感じる痛みの強さや、闘争逃走反応がどんな形で出やすいかには、その人がどんな環境で育ってきたかが影響していることがあります。

 

私たちの心と身体は、子どもの頃から長い時間をかけて、「人とぶつかったとき、どう振る舞えば安全か」「気持ちが通らなかったとき、どうすれば傷つかずにすむか」という“生き延び方のパターン”を学習していきます。

 

たとえば、気持ちを伝えると怒られたり攻撃されたりした経験が多い人は、「言う=危険」という感覚を身体で覚えやすくなります。すると、大人になって衝突の場面になったとき、言葉が出なくなったり、固まったり、黙り込んだりしやすくなります。黙ることが、その人にとっては最も安全だったのです。

 

一方で、気持ちを伝えても無視されたり、気づいてもらえなかった経験が多い人は、「静かにしていたら見落とされる」「強く訴えなければつながれない」という感覚を身につけやすくなります。そのため、危機を感じた瞬間に、感情や言葉が一気に溢れ、パニックに近い形で訴えが止まらなくなることがあります。これは相手を攻撃したいというより、「今伝えないと見捨てられるかもしれない」という切迫感が身体から突き上げてくる状態です。

 

こうした身体の記憶は、「昔こうだったから、今こうしている」という自覚がなくても、似た緊張感や空気を感じた瞬間に、自動的に起こります。夫婦喧嘩は、「家庭は本来、安心と信頼が確保されているべき場所だ」という期待や、「わかってほしい」「大切にしてほしい」という願いが強いぶん、子どもの頃の「わかってもらえなかった感覚」「安心できなかった感覚」がよみがえりやすい場面でもあります。

 

そのため「傷つけられた」「大切にされなかった」と感じた瞬間に、身体は「今すぐ伝えなきゃ(追いかける・攻撃的になる)」または「危険だから離れなきゃ(黙る・閉じこもる)」へ振れやすくなります。ここを理解することは、「自分が悪い」「相手が悪い」という責め合いから抜け出し、「今、私たちの心身が危険サインを出しているのだ」と捉え直すための土台になります。

 

そして、比較的安心できる環境で育った人は、衝突があっても「関係は壊れない」「話し合えば戻れる」という感覚を身体で学んでいることが多いです。完璧に理解されなくても、気持ちを受け止めてもらえる経験が重なっていると、喧嘩になっても完全な暴走や凍結に入る前に、「少し落ち着こう」「言い方を変えよう」と調整する余地が生まれます。これは意志の強さではなく、心身が「まだ安全だ」と判断できているからです。

 

逆に言えば、感情が溢れたり黙り込んだりしてしまう人は、この感覚を十分に体験する機会が少なかっただけであり、ここから先、関係の中やカウンセリングの場で、少しずつ育て直していくことが可能です。

 

では、どう対応すればいいのか(その場でできること・避けたいこと)

喧嘩の最中に起きているのは、意見の違いだけではなく、心身のレベルでは「危険に備えよ!」という警報が鳴っている状態です。このときに正論を重ねたり、説明を増やしたり、説得しようとすると、相手の身体はますます固くなり、反応は加速しやすくなります。

 

だからこそ、まず優先したいのは「結論」ではなく「安全の回復」です。

 

その場で実践できることは、「いったん中断すること」と、「中断の仕方を、関係が壊れない形にすること」です。中断は逃げではありません。闘争逃走反応が出ているときに無理に続けるほど、言いすぎや傷つけ合いが起こりやすく、後から深い後悔を残します。

 

ただし、中断の仕方が乱暴だと、相手の不安をさらに刺激します。黙って立ち去る、ドアを強く閉める、無視する、LINEを遮断する――こうしたやり方は「拒絶された」「見捨てられた」という感覚を生みやすいので要注意です。中断するときこそ、短い言葉でいいので、関係を切らないことを伝えることが大切です。

 

たとえば、「今、頭と身体がいっぱいでうまく話せない。落ち着いてから話したい」「逃げたいわけじゃない。10分(30分)だけ時間をちょうだい」「落ち着いたら戻ってくる。話し合いは続けたい」。こうした言い方は、「今は無理」と「関係は続けたい」を同時に伝えるので、相手の警報を下げやすくなります。

 

感情が溢れる側の人は、この場面で言葉を増やすよりも、身体を落ち着かせることが最優先です。水を飲む、深呼吸をする、外の空気を吸う、少し歩く、顔を洗う。小さな工夫が、闘争逃走反応にブレーキをかけてくれます。

 

黙り込む側の人は、「ごめん、今フリーズしてる。少し待って」「言葉が出ない。落ち着いたら話す」と一言伝えて一旦離れましょう。これだけでも、無視ではなく“反応できない状態”だと伝わります。

 

また、平時に「喧嘩のルール」を作っておくことはとても効果的です。なぜなら、一旦喧嘩が始まってしまったら、冷静な対応や工夫は難しくなってしまうからです。落ち着いているときに、「つらくなったら中断してよい」「中断のときは何分後に戻るか言う(戻れないなら連絡する)」「人格否定はしない」「必要な時間をかける」といった枠組を決めておくと、喧嘩の破壊力が下がります。

 

避けたいことも整理しておきます。正論で追い詰める、詰問を続ける、嘲笑や皮肉、過去の蒸し返し、黙って消える――これらは内容以前に、相手の身体にとって危険信号になり、闘争逃走反応を強めます。「どっちが正しいか」より先に、「今、安全か」を見直すこと。それが、その場でできる最も実践的な対応です。

 

カウンセリングでできること

夫婦喧嘩が繰り返されると、「相性が悪いのかもしれない」「もう修復できないのでは」と感じる方が少なくありません。しかし実際には、相性の問題というより、心身が自動的に起こしてしまう反応が、毎回同じ形でぶつかっているケースが多いのです。

 

カウンセリングでは、この反応を “仕組み”として理解し直します。感情が溢れる側も、黙る側も、どちらも苦しい。どちらも相手を困らせたくてやっているわけではない。その前提が共有できるだけで、関係の修復の土台作りができます。

 

次に、喧嘩のときに何が起きているかを「見える化」します。どの言葉や態度が引き金になりやすいのか、身体にどんな反応が出るのか(胸が苦しい、喉が詰まる、頭が真っ白になる等)、どのタイミングで反応が加速するのか。これらを丁寧に言語化し、本人が自分のサインに気づけるようにしていきます。気づけるようになると、反応の“手前”で止まる余地が生まれます。

 

さらに、落ち着く練習を「理解」ではなく「体験」として積み重ねます。闘争逃走反応は、わかっているだけでは止まりません。呼吸、姿勢、感覚の切り替え、声のトーン、距離感、タイムアウトの取り方などを、その人に合う形で探し、身体が安全を取り戻す経験を重ねます。

 

また、背景にある生育歴や愛着のテーマを扱うこともあります。夫婦喧嘩で噴き出す感情の奥に、「見捨てられる怖さ」「無視される苦しさ」「存在が届かない感じ」が隠れている場合、そこを丁寧にほどいていくことで、反応の強さが和らいでいきます。

 

夫婦カウンセリングでは、二人の反応がぶつからない設計を一緒に作ります。どちらかが一方的に我慢するのではなく、衝突が起きたときに「どう中断し、どう戻り、どう再開するか」を具体的に整えます。気合いではなく仕組みで変える――それが長続きする改善につながります。

 

そして何より、カウンセリングが提供できる大きな価値は、「安全に対話できる場」そのものです。家庭では爆発しやすいテーマでも、第三者がいることで話せることがあります。「話すと危険だった」「話しても無駄だった」という身体の記憶を、「話しても大丈夫だった」「受け止めてもらえた」という新しい経験で上書きしていくこと。それが回復の核になります。

 

はこにわサロンでは、ご夫婦のカウンセリングを受付けております。

はこにわサロンについて

相談内容(アンガーマネジメント)

 

まとめ

夫婦喧嘩で、感情が溢れて止まらなくなる人、黙り込んでしまう人。どちらも「話し合えない自分」を責めやすく、相手に対しても「わざとだ」「ずるい」と感じてしまうことがあります。けれど、多くの場合それは、性格や悪意ではなく、心身が危険を察知して作動する自動反応です。

 

感情が溢れる人は、「今ここで届かなければ、つながりが切れてしまう」という切迫感の中にいます。黙り込む人は、「これ以上傷つかないためには固まるしかない」という防衛が起きています。どちらも関係を壊したいのではなく、守りたいからこそ起こる反応です。

 

ですから改善の第一歩は、正しさの勝負をやめて、安全を取り戻す方向へ舵を切ることです。喧嘩の最中は結論を急がず、いったん中断し、関係が切れない言葉を添える。平時にルールを決めておく。こうした小さな工夫が、闘争逃走反応の連鎖を止めていきます。

 

それでも難しいとき、同じパターンが繰り返されて苦しいときは、カウンセリングが助けになります。反応の仕組みを理解し、身体を落ち着かせる方法を身につけ、背景にある痛みを丁寧に整理しながら、安心して対話できる土台を育て直していく。夫婦が「傷つけ合い」ではなく、「わかり合い直す」関係に変えていくことができます。

 

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