発達障害の方が悩むアイデンティティ拡散の原因と効果的なカウンセリング方法について
発達障害の方の生きづらさの中に、アイデンティティ確立の難しさがあります。
アイデンティティ=自己同一性(じこどういつせい、アイデンティティ、英: identity)とは、心理学と社会学において、ある者が何者であるかについて他の者から区別する概念、信念、品質および表現をいう。
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アイデンティティ確立の難しさ。その根っこにあるのが「自分と他人の区別がつきにくいこと」です。
子どもの頃だと「人の物なのに勝手に使ってトラブルになる(自分の物・他人の物の区別がない)」があったり、少し大人になってきても、「自分が怒られているわけではないのに、まるで自分が怒られているかのように感じて辛くなる」ということが起きやすいのです。
それだけでなく、「自分とはどんな人間なのか」「ひとりの大人として精神的にも自立すること」が苦手であるために、前思春期(9歳前後から12歳くらい)や思春期(13〜17歳)、青年期(18〜30歳)で急に不安が強まったり、「自立しなきゃ」と思い詰めて情緒不安定になってしまったりすることがあります。
その
前思春期(9歳〜12歳)のアイデンティティ
思春期はよく知られていますが、前思春期という言葉はなじみがないという方も多いと思いますので、前思春期とはどんな時期かからお話ししますね。
前思春期は、だいたい小学校の4〜6年生ころにおとずれる大人になる準備の始まりの時期です。
思春期に比べて、身体的な変化が少なく、わかりにくいので、軽視されがちですが、抽象的な思考が育つこの時期に「自分とは何か?」というアイデンティティを問うこころの動きが始まります。けれど、このアイデンティティの問いに一人で向き合える時期ではありません。そのため、同齢の子どもたちと群れる体験がとても大切です。集団として「大人とは違う自分たちのアイデンティティ」を見つけようとするからです。
この時期、同齢集団の中に自分の居場所があること、またお互いに認め合う体験をすることはとても大切です。というのも、この体験が自尊感情を育む基礎となるからです。
また、この時期に芽生えるのが「生と死」への疑問です。「死んだら自分はどうなるのだろう?」という疑問は大人にとっても恐怖感を伴うものですから、子どもがこの疑問に深く囚われてしまうと、気持ちがとても不安定になってしまうことがあります。
さて。
「誰でもない自分」を確立する最初の試みであるこの時期、「自分の境界がはっきりしない発達障害の子ども」の不安が高まることがあります。
不安が高まった結果として、こんなことが起きることがあります。
● 安心できる人に逃げ込む(多くは母親の元に)ので、母子がぴったり癒着した状態になります。
急に母親にべったり離れられなくなり、学校にも行けなくなったりすることもあります。「愛着障害(母親と親子関係が作れていない)」と誤解されやすいのですが、母親との関係性はできています。子育ての問題ではありません。
● 他人の考えが読めてしまったり、声となって聞こえる体験をすることがある。
もともと他人の感情を敏感に察知する傾向があるのですが、それがまるで、「自分の中のもう一人の自分」であるかのように感じてしまうようです。また、「自分を責める声が聞こえる」と訴えることもあります。
もちろん、同齢集団の中に埋没することで前思春期を過ごしていく発達障害の子どももいます。
思春期(13〜17歳)のアイデンティティ
思春期に入ると、心身ともに大きな変化の時期を迎えます。客観的な視点が育ち、心の中にさまざまな疑問と矛盾が生まれます。
例えば、親の愛情を無条件に受け入れてきた子どもが「それは僕のためではなく親のためなのでは?」と疑問を抱いたり、「なんでも共有できる親友だと思ってきたけど、価値観がこんなに違うなんて!」とショックを受けたり。
前思春期を同齢集団に埋没することで安全に過ごしてきた発達障害の子どもも、今度は「自分とは何か?」という課題に向き合い始めます。
しかし、自他境界が曖昧なのに自立をしようとするため、やはりとても不安定になりがちです。全思春期と同じように、母親に密着したり、同齢集団の代わりとなる価値集団にのめり込むことも多いです。例えば、アイドルだったり、ゲームだったりしますが、その没入は尋常ではなく、日常生活が成り立たないほど没入することも少なくありません。
一方、律儀なほどまじめに「自立しなくちゃ」と思っていたら、自分のことを見張られているような気がしたり、頭の中に「自立しろ!」という他人の声が聞こえてしまうという体験になることもあります。
思春期ということもあり、統合失調症と区別することは大切です。統合失調症の場合、お薬の治療が必要だからです。この区別には、時間をかけて様子を見ていく必要があります。
青年期(18〜30歳)のアイデンティティ
このように「自分とは何か?」アイデンティティの確立がむずかしい発達障害の方が、アイデンティティについて悩み続けた結果、その悩みが他の症状にスライドしてしまうことがあるようです(統合失調症・躁うつ病・うつ病・神経症・摂食障害・対人恐怖症・強迫性障害・境界性パーソナリティ障害・自己愛性パーソナリティ障害など)
「発達障害の自分と他人との境界のつかなさ」が発見されないままに、その症状から他の精神疾患と誤解されてしまうのです。
本当にその精神疾患があるわけではないため、症状がうつろいやすかったり、複数の症状を合併しているように見えることもあります。
この状態のことを「重ね着症候群」と呼びます。いくつもの病を重ね着しているように見えるのですね。
例えば、アイデンティティ確立の課題がジェンダー・アイデンティティの課題(性同一性障害)へとスライドすることも少なくないと思います。
このような、発達障害の方のアイデンティティ確立課題に、カウンセリングは何ができるのでしょう。
発達障害の方のアイデンティティ確立の課題に箱庭カウンセリングは何ができるのか?
冒頭にも書きましたが、発達障害の方のアイデンティティ確立を阻んでいるのは、「自分と他人との境界が曖昧だ」という状態です。
「他人ではなく、自分」がはっきりしなければ、「自分らしい生き方=アイデンティティ」を確立できないからです。
けれど、この「自分と他人の境界を作る」というのは、簡単ではありません。定型発達の場合は、赤ちゃん(0〜1歳)の時に自然とできることなのですが、それだけ原初的なぶん、後から行うのは難しいのです。
でも、箱庭療法の中で、心の深いところにアプローチしている時に、「境界を作る(自分と他者を分ける)」作用が起きることがあります。
(箱庭療法とは?)
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