子どもの「家族やお友だちが死んでしまったら」恐怖に親ができること
東京・青山の心理カウンセリングルーム「はこにわサロン東京」の吉田(臨床心理士・公認心理士)です。
コロナウイルスで学校や幼稚園のお休みが続いています。
普段とは違う生活、お友だちと遊べない生活を過ごす中、また毎日のニュースなどにふれる中で、「家族やお友だちがコロナで死んでしまうのではないか?」「もしそうなってしまったらどうしよう?」と不安に思っている子どもたちがいるのではないかと思います。
この「もしも・・・」は、大人でも感じることで、不眠や食欲不振、意欲や集中力の低下となって現れます。
そんな時、大人は、誰か信頼できる人と話したり、「そうならないよう、やるべきことは何か?」と考えて行動したり、自分で対処方法を見つけることができますよね。
子どもの場合、大人のような対応はまだできない、ということもありますが、それだけでなく、年齢ごとに「成長課題」があるので、「+コロナストレス」となった時に、負担が大きくなりやすいです。
では、子どもの成長ステージごとに、「死」をどのように理解しているのかについてお話しましょう。
この記事はこんな方に向けて書いています:
- 子どもが「家族やお友だちが死んじゃったらどうしよう」と不安になっている。
- 子どもの不安を理解して、大人にできること、注意するべきことを知りたい。
子どもの持つ「死」の概念
赤ちゃん(乳幼児)は「死」をどうとらえるのか
赤ちゃんは、「死」は理解しません。
けれども、「死」の概念と全く無縁かというと、そうとは言いきれないのです。
赤ちゃんは、お母さん(またはお世話をしてくれる人)が「いる・いない」という感覚を持っていて、その「存在がある・存在がない」というのは「生きる・死ぬ」と通じています。
2歳までは、「お母さんが自分の目の前にいない」=「お母さんはいない」と理解されます。(目の前にはいなくても、ちゃんといる、という感覚が持てるようになるのは、3歳くらいからです。)
赤ちゃんがお母さん(お世話をしてくれる人)を求めて泣いたときに、できるだけ早く対応してあげる必要があるのは、このためです。
ただ、今回取り上げているような「死」を恐れる、ということは、まだありません。
3歳〜は「死」をどうとらえるのか
3歳になると、子どもたちは、こころの中に「お母さん」を持てるようになります。
それで、安心してお母さんから離れられるようになるので、世界が広がって、できることが増えます。
この頃の子どもたちは、「死」というものをおぼろげに理解し始めるようです。
生活の中で、あるいはお話のなかに、「死」のエピソードにふれる機会も生じます。
ちゃんと理解しているわけではありませんが、なんか気になる・ちょっと怖い感じがする。
そこで「死んだフリをして、生き返る」遊びなどを通じて、子どもなりに「死」を自分の中に安全に位置付けようとします。
でも、子どもによっては「自分が死んじゃったら?」や「お母さん(家族)が死んじゃったら?」と不安に思う子も出てきます。
このような時の対応については、次項でとりあげますね。(まずは、年齢ごとの特徴をご説明します。)
6歳〜は「死」をどうとらえるのか
小学生になる頃から、子どもたちは、「死」についてもう少し具体的に理解するようになります。
例えば、「死んだら生き返らないのだな」や「命あるものは必ずいつか死ぬのだな」というようなことを理解できるようになってきます。
しかし、この理解は、「死」をより怖いものとして位置付けることになります。
怖すぎて、あまり考えないようにして通り過ぎる子もたくさんいます。
怖くて、つい気にしてしまい、気持ちが不安定になる子どももいます。
それでも、小2か小3くらいまでの間は、不安になったら大人に甘えることで、不安を解消することができます。
しかし、10歳くらいから、子どもたちは「前思春期」という大きな成長期に突入します。
前思春期、というのは、思春期の前段階で、「あまり聞かないから、大したことない」と思われがちですが、思春期と同じか、子どもによっては思春期以上にたいへんなことがあります。
前思春期前までは、親は子どもにとって、絶対的な存在(神様みたいな存在)です。ですから、どんなに困ることがあっても、お父さんやお母さんが「大丈夫だよ」と言ってくれたら、絶対に安心できるのです。
けれど、前思春期になると、そうはいかなくなる。お父さんやお母さんが「大丈夫だよ」と言ってくれても、「本当にそうかな?」「違うかもしれない」という気持ちがわいてくる。
成長の証なんですが、親からもらえる絶対的安心がなくなるのは、本人にとっては相当こたえます。
ですので、この時期に「死」に向き合うことは、かなりきついです。
不安が強すぎて学校に行けなくなってしまったり、おねしょのような表現となることもあります。
13歳〜は「死」をどうとらえるのか
思春期の始まりは、子どもによって数年の差がありますが、小学校を卒業し、中学校に入学するころが転機でしょうか。
身体もこころも、子どもから大人へと変化していきます。
子どもから大人へ変化することは、時に「子どもの自分が死んで、大人の自分として生まれ変わる」と体験される場合があります。
そのため、思春期は「死」が身近なものになりやすい。
実際に、中学生で、「自分が死んでしまう夢」や「親が死んでしまう夢」、「自分が親を殺してしまう夢」が見られることが少なくありません。
親を殺す夢は、子どもが親を殺したいと思っているわけではなく、親を超えて成長したい願いにすぎないのですが、子どもは「自分はこんな悪いことを願っているのだろうか?」と驚き、悲しみ、日常生活が阻害されてしまうこともあります。
自分や親が死ぬ夢も、子供から大人に成長したい願いにすぎないのですが、ショック、恐怖から、夜寝ることを怖がる(その結果、夜更かし、昼夜逆転にまでいくこともあります)。
つまり、思春期というのは、このくらい強い成長欲求に支配される時期であるため、「死」が身近になりやすく、配慮を要します。
子どもたちに、どのように「死」を伝えればよいのか?
このように、子どもたちにとって、「死」というのは、決して「自分とは無関係」な事柄ではありません。
では、大人は子どもたちに、どのように「死」を伝えればよいのでしょう?
「死」は大人にとっても理解が難しい
「死」を理解するのは、そもそも、大人にとってもとても難しいです。
「命あるものはやがて必ず」とわかっていても、大切な人を失えば悲しみ、不慮の事故であれば何故?という疑問や怒りが湧きます。
たまに、「死の教育」といって、身近な人の死に触れさせるとか、動物の死に立ち合わせるといった、体験を重視する考えを聞きます。
でも、体験すれば理解できるわけでもないですよね。大人だって心揺らぐことを、ただ体験させて子どもに教えようとするのは危険です。
ですから、もしご自分が「死」について、子どもにうまく伝えられないと感じた、無理に上手に説明しようとしないでください。
代わりに、子どもが自分の答えを見つけるまで信じて待ってみてください。
□ 優しい言葉で親の考えを伝え
□ 子どもの質問には極力答え
□ 怖いときにはいつでも言ってほしい、無理しなくてもいいと伝え
□ 納得いくまでそばにいる。
子どもの不安を丸ごと抱えてもらえたら、子どもは自分で考え始めます。
答えが見つかることもあるし、思いつめないでいられるようになるという解決かもしれません。
この問いかけは、成長過程で、ぶり返すこともあるかもしれません。そんな時は、また同じように、してくだされば良いと思います。
「死」という重く難しいことは、信頼できる大人としか共有できませんし、このプロセスを共にすることで、信頼関係が育ちます。
「死」について考えるときに助けになるものとは
子どもと「死」について考えるときに、助けになるのが、絵本や物語(ファンタジー)の本です。
子どもは、物語の中の主人公と同化して同じ体験をします。
物語の中なら、子どもはひとりではありません。
「死とは何か」などと正面から考えてしまうと苦しくて答えが出ない時も、物語を通じると不思議とすんなり自分の中に入ってくるものです。
また、物語を大人に読んでもらえると、子どもにとってその先の成長を支える源となるでしょう。
先ほどご説明しました通り、子どもは成長過程で次第に親から離れ、本当は助けて欲しくても親の助けを受け入れられない時期がやってきます。
そんなときに、子どもを支えるのは、親子で心を通わせた温かい時間です。
ですから、子どもが「死」という大きな課題にぶつかっている今、一緒に本を読んで過ごすことは、今だけでなく、この先の前思春期や思春期の子どもの成長を応援することになると思ってくださいね。
では、このような時期にどんな本がよいのか、いくつか例をあげてみたいと思います。
安心感が大事な時期の絵本
生と死が「いる・いない」として体験されるうちや、いま不安定になっているお子さんには、「安心していられる(生きる)」が感じられる絵本をお勧めします。
例えば:
『ちいさなねこ』石井桃子作、横内襄絵、福音館書店
『どろんこハリー』ジーン・ジオン文、マーガレット・フロイ・グレアム絵、渡辺茂男訳、福音館書店
どちらもとても有名な絵本ですが、どちらもピンチになった時に、母猫が助けに来てくれたり、自分のことを見つけてもらえたりするお話で、「ここにいる」メッセージを伝えられるお話です。
遊びを通じて「死」と折り合おうとする時期の絵本
「死んだフリをして生き返る」遊びができるようになったら、少し怖い本もお勧めです。ただし、信頼できる大人に読んでもらうことが前提条件ですが。
例えば:
『三びきのやぎのがらがらどん』マーシャ・ブラウン絵、瀬田貞二訳、福音館書店
『すてきな三にんぐみ』トミー・アンゲラー作、今江祥智訳、偕成社
『くものこどもたち』ジョン・バーニンガム作、谷川俊太郎訳、ほるぷ出版
どれも、途中までけっこう「ひやひや、ハラハラ、ドキドキ」します。
でも、子どもは、安心しながら聞く怖いお話が大好きなのですよね。
ですから、「死」という怖いことも、安心できる大人がいてくれたら大丈夫、心配ないよ、と体験してくれたらと思います。
自然を通じて・時の流れを感じる
冬には枯れたように見えた野原に、春になると花が咲くこと。
四季は、命のめぐりを教えてくれます。
『ねっこぼっこ』ジュビレ・フォン・オルファース作、秦理絵子訳、平凡社
「ねっこぼっこ」というのは「根っこの子どもたち」という意味で、植物を子どもに例え、春に目覚め、冬に眠りにつく様子が描かれています。
『ちいさいおうち』バージニア・リー・バートン文・絵、石井桃子訳、岩波書店
「移り変わっていくもの」と「変わらぬもの」が描かれている本といったら、やっぱりこれかなと思います。
もう一つの世界が描かれている絵本
わたしたちが今、生きている世界が「こちら側」だとすると、死の世界は「あちら側」であると感じられませんか?
「もうひとつの世界」が描かれている絵本は、「こちらとあちら」が穏やかに共存するものとして、「死」を説明づける助けとなるように感じます。
最初の2冊は、「こちら」から「あちら」に旅をして、無事に帰ってこられるお話です。
『めっきらもっきらどおんどん』長谷川摂子文、ふりやなな絵、福音館書店
『かいじゅうたちのいるところ』モーリス・センダック作、神宮輝夫訳、富山房
かわってこちら(↓)の絵本には「こちら」と「あちら」の補い合う関係がわかりやすく描かれています。
(おじいさんが作ってくれた毛布が、男の子の成長とともに、上着やベストやハンカチへとリメイクされていくのですが、そのはぎれは床下のねずみたちの生活を豊かにしていきます。)
『おじいさんならできる』フィービ・ギルマン作、芦田ルリ訳、福音館書店
宮沢賢治さんは、「こちら」と「あちら」を描くのが本当に上手です。
一押しは「あちらの世界の生き物(動物たち)」が「こちら側で困っているわたし」に力を与える物語として、『セロひきのゴーシュ』がお勧めです。
お勧め本でなくても、お父さん・お母さんと一緒に読むことで、子どもは怖いものを上手に自分の中に位置付けていくことができます。
親子の絵本タイム、ぜひやってみてください。
10歳以上の子どもには、ぜひファンタジーの物語を
さて、10歳以上(前思春期・思春期)になると、絵本の読みきかせ、というわけにはいかなくなることが予想されます。(嫌がらなければ続けてくださるといいのですけど)。
この頃になると、主人公と一緒にさまざまな冒険ができるお話、ファンタジーがお勧めです。
『ハリー・ポッター』シリーズにハマる子どもたちは、登場人物とともに、生と死、成長すること(その誇らしさと寂しさ)を体験しているんじゃないかな。
もちろん、ファンタジーでなくても構いません。この年齢の子どもたちが手に取る本には、生きることを通じて「死」が扱われていることが多いです。『赤毛のアン』にはマシュウの死が、『大草原の小さな家』には犬のジャックの死が描かれている、というように。
繰り返しになりますが、子どもたちが「死」について何かつぶやいた時、話題にあがった時には、慌てずに、まずはゆっくり子どもの話を聴いてあげてくださいね。「わかるように説明しなきゃ」とプレッシャーに感じる必要はありません。
まとめ
子どもにとって、「死」は身近に存在しています。
あまり不安にならないで自分の中に納めていける子もいれば、とても不安になってしまい、生活に支障が出てしまう子もいます。
大人は、「死をうまく説明しなくちゃ」と気負わずに、まずは子どもの話、気持ちをよく聴いてあげてください。
大人が、落ち着いて聴いてくれるだけで、子どもは落ち着きを取り戻しますよ。
年齢によって、「死」の理解程度が異なりますし、成長課題も違います。お子さんの様子を見ながら、静かに見守ったり、一緒に絵本を読んだり、してください。
子どもの安心感を高めるには、子どもの求めるスキンシップや「一緒にいて欲しい」に応えてあげることが重要です。
相談したいとき
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■ 子どもが通っている幼稚園や学校のスクールカウンセラー・・・スクールカウンセラーには、学校のことだけでなく、家庭生活のことも相談できますよ。
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■ はこにわサロンでもご相談をお受けしていますので、必要なときは「カレンダー」からお申し込みくださいね。
お子さんが成長と共に、「死」を自分の中の大切なものの一つとして位置付けていけますように!