大切な存在を失ったときに~不在をうめる読書
東京・青山の心理カウンセリングルーム「はこにわサロン東京」の吉田(臨床心理士・公認心理師)です。(オンラインカウンセリング・電話カウンセリング受付中)
たいせつな存在を失ったとき、ただただ悲嘆にくれるしかできない時期を経て、不在を受け入れる試みをはじめるころに、同じような悲しみを超えた先人たちの姿にほんのすこし勇気づけられることがあります。
そんなときに、もしかしたら、あなたを少しだけ温めてくれるかもしれないと思う本を2冊、ご紹介しますね。
大切な存在を失ったとき
『見飽きるほどの虹』
望月えりかさんがアイルランドの小さな村で家族と暮らす様子を綴ったエッセイです。
畑しごと、台所や糸を紡ぎ編む手仕事、音楽や村人との交流など、じんわり温かい(ユーモアもたっぷり)ですが、わたしのこころに残ったのは最終章「愛の話」。癌で妻を亡くしたマーティンが、誰か新しい出会いがある度に「君は僕の妻を知っていたかな?」とたずねる様子が描かれています。
愛する者を失ったら、人はときにこんなにも弱くなっていいし、周りはそんな弱い人をここまで優しく見守っていていい。
望月えりか『見飽きるほどの虹』
タイトルの「見飽きるほどの虹」はアイルランドのお天気(雨が降ったりやんだり)で本当に起きるのだそうです。雨って死者にちょっと近くなれる気がする。この世とあの世の境が曖昧になるというか。行ってみたいなぁ、アイルランド。
『母なるひとびと ありのままのアイルランド』
アイルランドの作家、アリス・テイラーが「目立つことはないけれど、社会に欠かせない大切な存在」との思い出を語っています。
印象に残ったのは第12章「頼れる女」のモード。街の病院で看護婦をしているモードは、家族が大切な人を見送る場面に立ち合い、逝く者と残る者、両者を支えます。
モードは果敢にその役割を果たすけれど、どのように自分の心身を整えるのでしょう?
ひとつの答えが祈りと巡礼です。巡礼といっても、湖に浮かぶ島の中で3日間、不眠不休で裸足で歩いて祈りを捧げるというもので、巡礼とは呼ばないかもしれませんが。極限の祈りを通じて、モードのこころと身体が闇と向き合い、ようやくバランスを取り戻すのではないか・・・と思います。