大人の愛着障害 寂しさを埋めるための依存症から回復するには
東京・青山の心理カウンセリングルーム「はこにわサロン東京」の吉田(臨床心理士・公認心理師)です。(オンラインカウンセリング・電話カウンセリング受付中)
先日、大人の愛着障害について書きましたが、今日は、愛着障害と依存症についてお話したいと思います。
愛着障害とは?
人は社会的な生き物(ひとりでは生きていけない)です。
太古から、人間が生き抜くには、家族やコミュニティで協力する必要があったからです。
そのため、人間の子どもは、生まれた瞬間から、親・養育者からの手厚いお世話を通じて、自分が愛されていること、大切な存在であると体感して、社会が安心できる場所であること、周りの人が信頼できることを学んでいきます。
しかし、本来受けられるはずの手厚く温かいお世話や、その度に交わされる微笑みや声かけ、ハグなどの体験が欠如すると、子どもは「この世界は安全ではない、人は信頼できない」と学習してしまいます。
すると必然的に、自分を守るために閉じるようになるため、ますます安心や信頼を獲得するチャンスを失っていくことになります。
この状態が継続する・繰り返されること=愛着の障害です。
親や主たる養育者から、必要な温かいお世話が受けられない場合も、例えば保育園や幼稚園で親身に接してくれる先生に出会ったり、こころを開いて繋がれるお友だちにめぐり会えたりすると、愛着障害が緩和されることがあります。
ですから、親の子育てが不適切な場合に100%愛着障害になる、というわけではありません。それでも、親や主たる養育者との間にしっかりした愛着関係が持てるかどうかは、その後の人生にかなり影響していくと思われます。
愛着障害と不安の関係
幼少期に、人が不快に感じるときや、不安な気持ちになった時に、親・養育者をはじめとする身近な大人がそれに気づいて手を差し伸べてくれたり、温かく対処して不快や不安を払拭してくれるという体験を積み重ねていきます。
ほんとうに日々何度も何度も繰り返してもらう中で、安心感と信頼感を獲得するのです。
逆に、不快・不安になった時に誰も気づいてくれない、気づいても無視される、責められるというような体験を重ねると、仕方なく、自分で対処しようとします。
これ以上不快・不安にならないように人との接触を避け、誰にも知られない場所でひとり、不快や不安なままにやり過ごそうとするはずです。
親・養育者代わりになるものを代用することもあります。
毛布やぬいぐるみ、動物、自然。
年を重ねていくと、それが、本や音楽になったり、芸術やスポーツになっていくこともあるでしょう。
このような代用物はとても大切です。
不快・不安を自分だけでなんとか処理しなければならない時に、辛さや孤独を忘れさせてくれたり、何か豊かな世界に導いてくれたり、またこれらの活動を通じて安心・信頼できる人との関係性を紡いでくれることもあります。
でも、代用品がうまく見つからない時や、代用品だけでは埋まらない不快や不安がある場合はどうでしょうか?
本来だったら、身近な大人が向こうから差し伸べてくれる温かいものが何もなく、生きるのが不安で孤独でつらい時、人は誰でも、少しでも苦痛を軽減してくれるものを必死に探し求めるものですよね。
ここに生じてくるのが、さまざまな依存です。
愛着障害の生きづらさを和らげるさまざまな依存とは
■アルコール依存
■たばこ依存
■薬物依存・違法薬物依存
■買い物依存
■ギャンブル依存
■万引き依存
■セックス依存
■対人関係への不適切な依存(恋愛依存、共依存)
■仕事への依存
上にあげた事柄は、違法薬物や窃盗、摂食障害・自傷行為を除けば、物質・行為に関わらず、適度に楽しめれば問題はありません。
楽しくゲームをする、アルコールや買い物を楽しむのは、日頃の緊張やストレスを和らげてくれますし、また明日からがんばろうと思えたりできます。
このように適度に楽しめるのと、依存してしまうことの違いはなんでしょう?
それが、社会に対する安心感、人に対する信頼感のあるなし(つまり愛着障害のあるなし)と関係があります。
自分に安心できる居場所があり、信頼できる人とつながっていたら、ゲームやアルコールにのめり込んでいく危険は少ないのです。なぜなら、ゲームやアルコールより、もっと楽しく、温かな気持ちになれることが他にもたくさん日常生活の中にあるからです。
勉強や仕事、家事のように、やるのは大変、我慢も苦痛も伴うことだったとしても、義務や責任を果たすことで自分が満足したり、周りの人とも仕事や成果を分かち合うことができます。
でも、安心できる居場所がなく、いつも不安で孤独で、誰も助けてくれない・誰のことも信じられないとしたら?ゲームやアルコールだけが、ひととき苦痛を忘れさせてくれたり、自分に自信が持てて誰かと繋がることができたら?(それが適切な関係性ではないとしても・・・)
依存症というと「意志が弱い」「自堕落」「享楽的」「破壊的」なイメージがありますが、同じ境遇に置かれたら誰だってそうなって不思議ではないくらい、追い詰められた人間にとっての生き延びるための試みである、と言えるのではないでしょうか。
依存症の鍵を握る脳の報酬系のドーパミンとは
不安や苦痛をひととき忘れさせてくれるのがゲームやアルコール(など)であるとして、本当なら、適度につきあえる方が自分にとって本当は良いはずなのに、なぜ人は依存症になってしまうのでしょう?
その鍵を握るのが、わたしたちの脳の中にある報酬系とドーパミンです。
脳内の「報酬系」と呼ばれる回路は、わたしたちが生命維持のために必要なことをするとドーパミンを放出して「心地よい」と感じる働きがあります。
ニコチンやカフェイン、コカインなどの薬物は、ドーパミンを放出させる作用があり、その結果、脳の働きが活性化して、元気が出てとても心地が良く感じられるのです。
しかし薬物によってドーパミンが放出されることを繰り返すと、それまでなら「ご飯を食べる」とか「恋人と一緒にいると幸せを感じる」とか「仕事を頑張ったらいい結果が出た」のように、日々の行動に伴い自然に放出されていたドーパミンが放出されなくなってしまい、薬物に依存するしか心地よさを感じられなくなってしまうのです。
買いもの、セックス、ギャンブルなどの行為依存は、行為によってドーパミンが放出されるのですが、最初は適度な範囲内でも心地よく感じられていても、次第に馴れが生じてくるため、より強い刺激を求めて繰り返すようになってしまいます。
アルコールや、不安を和らげる薬、睡眠薬などの場合は、少し異なる働きをします。脳内でドーパミンの放出を制御する“入り口”を制御するグルタミン神経系の働きを弱めることで、ドーパミン放出をコントロールする扉が開けっぱなしになってしまう・その結果、大量のドーパミンが放出され、快感をもたらします。
いずれにしても、いったん薬物や過度な行為でドーパミンが大量放出される快感を体験すると、その状態を繰り返し求める行動が生じたり、量を増やさないと同じ快感を感じることができなくなる危険があります。
愛着障害から生じる依存症を克服するために
さまざまな物質や行為への依存が、意思の弱さや自堕落さからくるのではなく、不安や不信感、孤独感など、愛着障害がもたらした辛さを自分自身でなんとかコントロールしようとする試みなのだということを説明してきました。
愛着に障害があり、社会への安心感・信頼感が持てない方の依存症を治療・克服するためには、愛着障害への働きかけ、安心感・信頼感の回復が欠かせないのですね。
実際、依存症の治療では、温かく信頼できる関係性の再構築なしに克服を継続していくことは困難であると考えられます。
では、愛着障害はどうしたら克服していけるのでしょう?
鍵となるのは、安心していられる居場所、信頼してつながれる人を見つけることです。
信頼できる関係性の中で、心配してもらったり、不快や不安を聴いてもらったり、ともに温かく楽しい時間を過ごすこと。失敗した時や、自信を失った時にも、変わらずに一緒にいてもらえる(ありのままの自分で大丈夫)を体験すること。
このような体験を積み重ねていくことで、愛着(安心感、信頼感)の構築をしていきましょう。
そうすることで、物質や行為に依存するのではなく、人との繋がりの中で適切なリラックスやリフレッシュができるようになっていきます。
愛着障害の依存症にカウンセリングができること
とはいえ、愛着の障害がある時には、信頼できる人を見つけ出すことがとても困難である場合が多いです。
誰に対しても不信感を持って閉ざしてしまったり、逆に悪意のある人を見抜けずに利用されてしまうことも生じると思います。
ですから、カウンセリングの場で不快や不安、孤独を話すこと、カウンセラーとの関係の中で最初の信頼関係を構築することから愛着障害を克服することも有効です。
「はこにわサロン」では、愛着障害と依存症をもつ人のカウンセリングを行なっています。
対面(東京港区)のほか、オンラインやお電話でのカウンセリングも可能です。
詳しくはこちらから。
愛着障害からくる依存症を手放して、自分らしい生き方を回復していけますように。関連記事