C-PTSDと身体のこり、呼吸の苦しさ──身体の記憶をやわらげる方法

東京・青山の心理カウンセリングルーム「はこにわサロン東京」の吉田(臨床心理士・公認心理師)です。
「首や肩がずっとこっている」「背中が重くて眠れない」「呼吸が浅くて苦しい」――もしあなたが、そんな身体の不調を長く抱えているなら、それは“こころの記憶”が身体に残っているサインかもしれません。
特に、C-PTSD(複雑性心的外傷後ストレス障害)を抱える人には、このような症状が頻繁に見られます。
ここでは、C-PTSDと自律神経の関係、そしてこころと身体の深いつながりについてわかりやすく説明していきます。
C-PTSDとは?──長期的なこころの傷がもたらす影響
C-PTSD(複雑性心的外傷後ストレス障害)は、子ども時代から長期間にわたって安心できない環境で過ごしてきた人が、大人になってからもこころと身体にさまざまな影響を受け続けることです。
たとえば、親からの暴言暴力・無視・無関心・過干渉、親の不仲など、家庭の中で常に緊張して過ごさなければならなかった人は、「いつも誰かの顔色をうかがってしまう」「人と深く関われない」「感情が不安定になる」「強い自己否定感がある」などの苦しみを抱えやすくなります。
これは「弱さ」や「性格の問題」ではなく、こころが長年にわたってストレスや恐怖にさらされた結果、生じた、こころの防衛反応なのです。
そのためC-PTSDは、一般的なPTSD(災害・事故・暴力など単発のトラウマ体験によって起こる心の傷)に比べて、より慢性的で根深い苦しみを伴います。そしてこの苦しみは、こころだけでなく身体にも強くあらわれてきます。
なぜ、C-PTSDの人は体がこわばりやすいのか?
C-PTSDの人が「首や肩、背中がいつも緊張している」と感じるのは、自律神経が常に「警戒モード」になっているからです。
私たちの身体には、自律神経という「生きるための自動調整装置」があります。活動のスイッチを入れる“交感神経”と、リラックスをつかさどる“副交感神経”がバランスを取りながら、呼吸や心拍、体温などを調整しています。
ところが、C-PTSDを抱える人は、過去に安心できない環境で過ごし続けたことで、「気を抜いたら危ない」「何かあるかもしれない」という感覚が身体にしみついています。そのため、無意識のうちに交感神経が優位になり、“ずっと戦闘モード”のような状態が続いてしまうのです。
すると筋肉は常にこわばり、首・肩・背中に力が入りっぱなしになります。これが「いつも緊張している感じがする」「マッサージしてもすぐ戻ってしまう」という慢性的なこりや痛みにつながっていきます。
呼吸のしづらさも「身体の記憶」
もうひとつ、多くのC-PTSDの方が訴えるのが「呼吸が浅い」「息苦しい」という感覚です。
これは、身体がリラックスできていないために、深い呼吸ができなくなっている状態です。肩や背中が固まると、胸やお腹がうまく動かず、呼吸が浅く速くなります。また、交感神経が優位な状態が続くと、呼吸は「浅く・早く・短く」なりやすく、さらに不安や緊張感を高めてしまいます。
「息が吸えない」「胸が苦しい」という症状があっても、医療検査では異常が見つからない…というケースでは、自律神経の乱れや体の過緊張が関係している可能性が高いのです。
感情が身体に刻まれる──「身体はつらさを覚えている」
C-PTSDにおいて大切な視点のひとつが、「こころの傷は身体にも残る」ということです。これは“身体記憶”とも呼ばれます。
たとえば、
■誰かに怒鳴られると呼吸が止まる
■威圧的な声を聞くと、首と背中が強張る
■相手の表情がこわばっていると、全身に力が入ってしまう
こうした反応は、頭で考えて生じるのではなく、身体の反射として起こります。頭は「気にしない・忘れよう」と思っても、身体が「またあのときと同じことが起こるかも」と無意識に警戒するのです。
このように、C-PTSDは「頭の中の記憶」だけでなく、「身体が覚えている反応」として残り、日常の中で繰り返されていきます。
C-PTSDの身体の凝りをやわらげるためにできること──5つの視点から
① C-PTSDの身体の凝りのケア
C-PTSDの方の身体の凝りは、とても強力で根強く、マッサージなどのケアを受けても効果が感じられなかったり、すぐに強張りが戻ってきてしまうことが多いのです。それでも、まずは、物理的なこりのケアを行ってみることはとても大切です。
例えば、「温める」「ストレッチする」「やさしく動かす」「触れる」といった方法。ホットタオルで首や肩を温めたり、湯船にゆっくり浸かると、筋肉が少しゆるみます。ストレッチや軽い体操、ウォーキングも効果的です。
マッサージを受ける際は「触れられて安心できる人・場所」であることが大切。身体ケアは「こりを治す」こと以上に、「身体にやさしく触れる」「ここにいていいよ(存在肯定)」を体験する貴重な機会でもあります。
凝りがやわらいだ時の感覚と固まってこっている時の感覚の区別はつきますか?
C-PTSDのケアが進んで緊張を和らげられるようになると、いつも楽な状態でいられるようになると知ってくだいね。
② C-PTSDの自律神経を整えるケア
C-PTSDの方は、いつも何があっても対処できるように緊張していたり、つらすぎることに対処するために無意識に心身のスイッチをオフにして何も感じられないことが生じやすいです。リラックスしたいと思っても、できない。寝つきや睡眠の問題も生じやすくなります。
C-PTSDのケアなしに自律神経だけを整えるのは難しいことではありますが、それでもやはり、生活リズムを整えたり、身体によいことを意識的に取り入れて、自律神経を整える工夫をしてみてほしいと思います。
例えば、朝起きたらカーテンを開けて光を浴びる。朝食には何か温かいものを摂る。休憩時間には冷たい飲み物よりは、温かいものを「ふぅふぅ」しながら飲むと身体が温まり呼吸も整います。
空き時間や寝る前にスマホを見る習慣を見直して、空を眺めたり、五感で感じる心地よいことを試す。例えば、よい香り、肌ざわり、温かい(夏の間はひんやり心地よい)、落ち着く音楽など。
自律神経を整える方法は、調べるとたくさんあるので、自分に合った方法を見つけてください。
③ C-PTSDの自己肯定感を取り戻すケア
C-PTSDの方のこころの中には、いつも自分を責める自分、厳しく批判して完璧を目指そうとする自分がいます。
それは、過酷な生育環境を生き抜くために生まれた知恵であり、大切な自分ですが、本来こうした厳しい自分は、自己肯定感と共に、概ね同じ程度の力加減で持つのが望ましいです。
自己肯定感というのは、どんな自分に対しても「OK」できる感覚のこと。がんばれなくても、失敗しても、自分の価値は決して損なわれず、「大丈夫」と思えることです。自己肯定感は本来なら、子どもの頃に親・大人との関わりの中で身につけられるとよいですが、大人になってから自分で育てていくことも可能です。
毎日、自分が「そんなのできて当たり前」と思っていることに対しても、目を向けて(気づき)、「できたね」「がんばったね」「よくやったね、ありがとう」の声を、意識的にかけましょう。
失敗した日、うまくいかなかった日は、「悔しかったね」「苦しかったね」と受け止める。「自分なんかいない方がマシ」という気持ちの時にも「自分を責めずにいられないね、苦しいね」とそのまま受け止めます。無理に励ます必要はありません。
自分を肯定することは、心身をやさしく落ち着かせる効果があるのだと体験しながら、自己肯定感を育てていきましょう。すると少しずつ身体の根深いこりが緩和されていきます。
④ C-PTSDをやわらげる日常生活の工夫
C-PTSDの方は、日常生活で頑張りすぎる、無理しすぎることが「当たり前」になっています。ですので、生活を見直して、無理に詰め込まないスケジュールや心地よく暮らせる工夫をすることはとても大切です。
休むことはサボりや怠けではなく、自分のコンディションを整えるために必要な時間だと理解して、スケジュールの中に休憩時間を盛り込み、明日でよいことは明日に回しましょう。
仕事などで、対面や電話が苦手、人前の発表が苦手で心身のストレスが増大してしまう場合は、無理をしないで、自分が楽にできるよう相談しましょう。無理を重ねると、身体疾患や適応障害などにエスカレートしてしまう可能性があります。苦手の克服はC-PTSDのケアをして、心身の健康を取り戻してからにしましょう。
自分が心地よく過ごせる空間を作ることも大切です。不安が強いとものを捨てられなくなるため、ものが増え過ぎてしまう人も多いです。できるところから手放してみる、プチ断捨離もおすすめです。部屋がスッキリすると、少し身体が軽くなる感覚を味わってみてください。
⑤ C-PTSDにカウンセリングができること
C-PTSDの背景には、圧倒的な苦痛を誰にも気づいてもらえず長期間ひとりで抱え続けてきたつらさと孤独があります。カウンセリングを通じてC-PTSDの仕組みについて理解し、しまい込むしか方法がなかった過去のトラウマと向き合い、ケアをしてあげる必要があります。
つらく苦痛な記憶が、大切な自分の大切な記憶として自分の中に受け入れられるようになると、身体の緊張やこりも減少・緩和していきます。
C-PTSDのカウンセリングには時間がかかります。けれども、月1〜2回のカウンセリングを継続していくと、早い人で半年後、あるいは1年経つと「去年の今頃よりずっと身体が楽だ」ということに気づいたり、ストレスがかかった時に「身体がこわばって苦しい」ことに気づけるようになったり、身体のこわばりをやわらげる方法を実施できるようになります。
すると、ストレッチやエクササイズといったセルフケアや、マッサージなどの定期的なメンテナンスで、緊張のない身体コンディションを保つことができるようになっていきます。
まとめ──身体はずっと、あなたを守ってきた
C-PTSDによる首・肩・背中のこり、呼吸のしづらさは、決して“気のせい”ではなく、過去のこころの傷が身体に残っている証。身体がいつも強く緊張しているのは、長い間あなたが自分を守ってきたからなのです。
だからこそ、「ゆるめられない自分」を責めるのではなく、「それだけがんばってきたんだね」と気づいてあげることが大切です。
身体を整えることは、こころの回復につながります。安心できる人や場所、やさしい習慣をひとつでも取り入れながら、少しずつ「安全」を感じられる日々を取り戻していけますように。
↑ C-PTSDについて発信しています。