C-PTSD:感情をコントロールする方法(情緒不安定に対処する)

東京・青山の心理カウンセリングルーム「はこにわサロン東京」の吉田(臨床心理士・公認心理師)です。
C-PTSD(複雑性心的外傷後ストレス障害)の方は、気持ちのコントロールが難しく、情緒不安定に悩むことが多いです。なぜ、そうなるのか、どうすれば緩和・解消していけるかについてお話します。
C-PTSDとは?
C-PTSD (複雑性心的外傷後ストレス障害)は、長期間にわたって心が傷つく体験を繰り返したときに起こるこころの反応です。
多いのは、子ども時代の逃げ場のないストレス(例えば、親の不仲、過干渉、無関心、感情否定、条件付きの愛、など)そのほか、学校や職場のいじめ・ハラスメントなどによっても生じます。
通常のPTSDが「単発的で衝撃的な体験」(事故、災害、暴力など)によって起こるのに対し、C-PTSDは長期間にわたって「安心できない状況」に置かれ続けることによって生じるという特徴があります。
C-PTSDの症状には、以下のようなものが含まれます
■感情が激しく揺れ動く(情緒不安定)
■自己否定や罪悪感、恥の感情が強い
■他人との距離感がつかみにくい(極端に近づきすぎる/遠ざけすぎる)
■過去の記憶や感情がフラッシュバックのようによみがえる
■身体の不調(呼吸が浅くなる、首肩こり、慢性疲労など)
中でも情緒の不安定さに悩む人は多いので、説明していきます。
なぜC-PTSDの人は情緒が不安定になりやすいのか?
C-PTSDを抱える人が情緒的に不安定になりやすいのは、過去のつらい経験が“今ここ”の感情や反応に影響し続けているからです。
安心して感情を表現できなかった過去
たとえば、幼少期に親から「泣くな」「怒るな」と感情を否定されて育つと、本来自然に出てくるはずの怒り・悲しみ・不安といった感情を「出してはいけないもの」として心に封じ込めるようになります。
そうして抑え込まれた感情は、心の奥にため込まれ、未処理のまま時間を止めてしまいます。
その結果、現在の日常で起こる何気ない言動や場面が、無意識のうちに過去の傷を思い出させ、必要以上に強く反応してしまうことがあるのです。
たとえば:
■誰かに少し冷たくされた →「嫌われた」「自分が悪い」と感じる
■雑に扱われた →「自分は大切ではない」と感じて固まったり怒りが爆発する
■怒られた →「存在を否定された」と感じて気持ちが乱れる
■忙しさや疲れ → 自分が無力であるように思えて涙が止まらない
こうした反応は「大げさ」や「感じやすさ」ではなく、過去と現在がこころの中でつながってしまっているから起きる現象なのです。
情緒調整力が育ちにくかった
さらに、感情をうまく調整する力(情緒調整力)は、安心できる人との関係の中で少しずつ育ちます。
たとえば、子どもが泣いたときに、そばにいる大人が「泣いていいよ」「悲しかったね」と受け止めてくれれば、心が落ち着き、「悲しいときにはこうやって気持ちを整えられるんだ」と無意識のうちに学んでいきます。
しかしC-PTSDの方は、多くの場合、その「受け止められる体験」が不足しているため、感情を自分で扱うのが難しいまま大人になってしまいます。
情緒がゆれやすいのは、「心ががんばってきた証」
情緒が不安定になってしまうのは、幼少期からずっと無理を重ねてきて溢れ出ているからです。これまで自分一人で抱えてきたこと、その頑張りを認めて、ご自分に感謝とねぎらいを伝えてください。
そして、これから少しずつ整理して、自分の中のこころの器のゆとりや、自分の感情を大切に扱う方法を知って、ほどよくコントロールする力をつけていきましょう。
C-PTSDの感情コントロール: 自分でできること
感情の波とつきあっていくには、まずは「感じてもいい」と思える環境と習慣づくりが大切です。以下に、自分でできるケアのヒントを紹介します。
感情を否定しないで受け止める
感情は、嬉しい・楽しいといったポジティブなものだけでなく、悲しい・怒りといったネガティブなものも等しくとても大切です。特にネガティブなものは、自分に負担がかかっているサイン・SOSであることも多いので、呑み込んでしまわず、キャッチして受け止めることが大切です。
「腹が立っているんだな」「悲しいんだな」とそのまま受けとめてください。ちゃんと受けとめてあげて緊張がゆるむ体験ができると、自分で受け止められるようになっていきます。
感情のスイッチを理解する
反応が強く出る場面の共通点を探してみましょう。「大切にしてもらえないと感じた時」「無言のプレッシャーが苦手」「急かされるとパニックになる」など、自分のパターンに気づくことができると、苦手な場面で「これは苦手なパターンだ」と客観的に理解することができるようになっていきます。
客観性が持てるようになると、意識して離れる、休憩を取るなど、自分を守る行動を取ることができるようになります。
セルフケアをする
C-PTSDの方は、いつも我慢ばかりして自分を後回しにしがちです。本当なら、まずは親(大人)に大切にしてもらうことを通じて、自分を大切に扱う方法を学びながら成長するはずなのだ、ということを知り、今からでも自分を大切にケアする方法を身につけていくことがとても大切です。
いくつかのセルフケアの方法をご紹介します。
■ 「身体の声」を聴く時間をもつ
C-PTSDの方は、つらい環境を生き抜くために、自分の身体の感覚を無意識に切り離しがちです。
すると「疲れている」「緊張している」「痛い」といったサインを無視して頑張り続けてしまうことになります。
ですから、意識的に「今、身体はどう感じているかな?」と立ち止まる時間をつくってみましょう。お腹は空いている? どこかこわばっていない?
身体に意識を向けることは、今の自分と再びつながる第一歩になります。
■五感を使って安心を感じる
C-PTSDの影響で常に神経が高ぶっていると、周囲の音や光、匂いなどにも敏感になりやすく、リラックスが難しくなります。
日頃から、自分が安心できること・心地よく感じられることを意識的に取り入れてみましょう。好きな香り、やわらかい肌ざわりの服、落ち着く音楽などを通じて緊張がやわらぐと、自律神経が整います。
■自分の「好き」を見つけ直す
トラウマ環境では、周囲に合わせることが優先され、「自分が何を好きか」がわからなくなることがあります。
ですが、「これが好き」「これをしていると落ち着く」といった感覚は、自分自身とのつながりを取り戻すために大切です。
食べ物、音楽、風景、色、趣味……どんなに小さなことでも構いません。今の自分が少しでも「心地よい」と思えるものをひとつずつ探してみましょう。
■「ひとりの時間」を持つ
人とのつながりは大切ですが、C-PTSDの回復には、「安心してひとりになれる時間」が不可欠です。
誰にも気を使わず、無理に笑わなくていい時間は、こころの緊張をほぐします。「ひとりでいられる=安心できる場所がある」と感じられるようになると、自分の安心基地になります。
■小さな予定を立てる
C-PTSDの方は、予測不能な出来事や人間関係にふりまわされてきた経験から、予定通りに物事を進める感覚が持ちづらいことがあります。だからこそ、自分でできそうな小さな予定を立ててみると、自信につながります。
たとえば「朝は窓を開けて天気を確認する」「熱いお茶を飲む休憩時間をとる」など。ささやかだけど、自分を大切にする予定を立てて守ることは、自分との信頼関係づくりでもあります。
C-PTSDの感情コントロール: カウンセリングにできること
感情の整理と自己理解を深める
カウンセリングでは、今感じている不安や怒り、悲しみといった感情にじっくり向き合い、その背景にある過去の体験や思いを丁寧にたどっていきます。一人では混乱してしまいがちな感情も、安心できる関係の中で話すことで、少しずつ整理されていきます。
「なぜこんなに反応してしまうのか」「自分は何を怖れているのか」が見えてくると、自分への理解とやさしさが育ち、感情に飲み込まれることが減っていきます。
安心できる人間関係の体験を重ねる
C-PTSDを持つ方は、過去に「安心して頼れる人がいなかった」「否定や拒絶にさらされ続けてきた」経験から、人との関係に不安や恐れを感じやすくなっています。
カウンセリングでは、守られた関係性の中で「何を話しても大丈夫」「そのままの自分でも受けとめてもらえる」という体験を積み重ねることができます。
それは、これまでの対人関係の傷を少しずつ癒し、人と関わることを学び直す大切な土台になります。カウンセリングで築く安全な関係性が、外の世界での新しいつながりの第一歩にもなっていきます。
「いまここ」で使える対処スキルを身につける
過去のつらい記憶や感情が現在に影響を与えてしまうC-PTSDでは、「今この瞬間」に自分を落ち着かせる力がとても大切です。
カウンセリングでは、感情が揺れたときに役立つセルフケアやグラウンディング、呼吸法などの具体的なスキルも一緒に練習していきます。
また、苦手な人間関係やストレス場面への対処法、境界線の引き方なども扱うことができます。これらのスキルを身につけることで、「どうしていいかわからない」という不安が減り、「自分で落ち着くことができる」という感覚が育っていきます。
C-PTSDの情緒不安定さに対処する:まとめ
C-PTSDを抱える方が情緒不安定になりやすいのは、こころの奥にずっと抑え込まれてきた感情が溢れてしまうからです。
でも、それは、過去に呑み込んだつらさに気づき、ケアをして回復させるチャンスでもあります。
どうぞ、ご自分の感情を大切に受けとめて、少しずつ、自分のペースでコントロールできるようにしていきましょう。
C-PTSDに関する情報を発信しています。