フラッシュバックとは〜PTSDとC-PTSD(複雑性心的外傷後ストレス障害)

東京・青山の心理カウンセリングルーム「はこにわサロン東京」の吉田(臨床心理士・公認心理師)です。
「なぜか急に、怖くなって涙が出た」
「昔のことを思い出したわけじゃないのに、身体が固まってしまった」
このような状態は「フラッシュバック」かもしれません。この記事では、フラッシュバックとは何か、なぜ起きるのか、そしてどう対処すればよいのかをわかりやすく解説します。
フラッシュバックとは
フラッシュバックとは、過去のつらい体験やトラウマが、まるで“今”起きているかのように心や体に再現される現象です。
一般的には、PTSD(心的外傷後ストレス障害)の症状のひとつとして知られています。映画や映像のように、はっきりとした「記憶」がよみがえるケースもありますが、実際にはもっとあいまいで、感情や身体感覚、恐怖や不安として現れることも多いのです。
フラッシュバックの例
■大きな音に驚いて、過去の事故や暴力を思い出す
■人の怒鳴り声で、昔の親とのつらいやりとりを連想し、体が固まる
■特定の匂いや場面で、理由のわからない不安や吐き気に襲われる
これは「今の出来事に対して反応しているだけ」ではなく、心や神経が過去の記憶と現在の状況を無意識に結びつけて反応してしまっているのです。
フラッシュバックの症状
身体的症状
■心臓がドキドキする(動悸)
■呼吸が浅くなる/息苦しさ/過呼吸
■冷や汗、震え
■身体が固まる(フリーズ状態)
■吐き気やめまい
■緊張による筋肉のこわばり
■パニック発作のような反応
感情的症状
■急な恐怖、不安、パニック
■理由のない怒りやイライラ
■涙が止まらない
■無力感や絶望感におそわれる
■強い羞恥心や罪悪感
認知的症状
■過去の場面が突然“よみがえる”ように感じる
■現実感がなくなる(解離感)
■「ここにいない」ような感覚(現実から浮いた感じ)
■頭が真っ白になる、集中できない
■時間感覚や場所の感覚があいまいになる
行動面の症状
■その場から逃げ出したくなる
■無意識に身をかがめる、防御的な姿勢をとる
■人と話すのが難しくなる/閉じこもる
■声が出なくなる、口がきけなくなることがある
なぜフラッシュバックが起きるのか?
トラウマ体験とは、あまりに強烈で、心がそのときの記憶を“通常の形”で処理できなかった経験です。
そのため、記憶が時間の流れの中に収まらず、「過去のはずのもの」が現在の刺激と結びついて、“今まさに起きていること”として再体験されるのです。
また、脳の中でも、扁桃体(恐怖や危険を感知する部分)が過敏になり、海馬(記憶の整理を担う部分)がうまく働かないため、「今」と「過去」を区別できなくなることが知られています。
フラッシュバックが起きやすい人とは?
フラッシュバックは、誰にでも起きうる現象ですが、特に以下のような人は起きやすい傾向があります。
PTSDのある方
一度の強烈な恐怖体験によって、記憶が固定化され、特定の刺激でフラッシュバックが起きやすくなります。
交通事故の被害者
例:信号待ち中に追突され、事故後も車の音やブレーキ音で過呼吸になる。
状態:事故の瞬間が映像的によみがえり、身動きできなくなる。
自然災害の被災者
例:地震で自宅が倒壊した経験があり、少しの揺れにも強いパニックが出る。
状態:緊急地震速報や地鳴りの音で過去の恐怖がよみがえる。
暴力や性被害の体験者
例:性的暴力の影響から、人との接触や特定の場所でフラッシュバックが起きる。
状態:記憶の断片が浮かび、恐怖と混乱で日常生活に支障が出る。
C-PTSD(複雑性PTSD)の方
長期にわたる支配や不安定な関係の中で、心身に慢性的なトラウマを受けているとフラッシュバックが起きやすくなります。
幼少期に親からの心理的虐待や無視があった
例:毎日のように「お前なんか生まれてこなければよかった」と言わた。
状態:些細な否定的な言葉に強く反応し、「自分なんていなくてよいのでは?」と感じて不安や怒りに呑み込まれてしまう。
家庭内暴力(DV)があった
例:暴力は受けなくても、常に怒鳴られる・支配される状況が続いた。
状態:威圧的な口調や大きな音に反応して固まってしまい、思考停止する、呼吸が苦しくなる。
いじめを受けた
例:無視、仲間はずれ、陰口などに苦しんだ。
状態:誰かが自分を見て笑っているだけで「また自分が標的かも」と恐怖がよみがえる。
発達障害(ASD・ADHD)の方
神経系の特性により、感覚過敏・対人ストレスが強く、トラウマの影響が深く残りやすい人たちです。
ASDで音や触覚に強い感覚過敏がある
例:子どもの頃、手をつかまれて叱られることが多く、それが強いストレスになった。
状態:誰かに急に触れられると当時の恐怖が身体に再現される。
ADHDで「失敗体験」が繰り返された
例:忘れ物や衝動的行動を叱責され「ダメな子」扱いされた。
状態:ちょっとした注意やミスへの指摘でも強い自己否定とパニック反応が出る。
感覚の統合が苦手で、日常が常に“過負荷”だった
例:教室の音・におい・人の視線などすべてがストレスだった。
状態:似たような環境に置かれると、身体が緊張し、過去の不快な感覚が再現される。
こうした人たちは、それぞれの背景に応じた異なる形のフラッシュバックを経験します。
C-PTSDの人のように、「なぜそうなったかわからない」と感じる体感的なフラッシュバックは、特に見過ごされやすいため、正しい理解が必要です。
フラッシュバックが起きたときの対処法
①その場を離れる
安心できる空間へ移動する
人混みや強い刺激のある場所(職場・駅・家庭など)にいるときは、できる範囲で静かな空間や別室へ移動します。トイレや空き部屋、建物の外でも構いません。
ポイント:「今は安心できる場所にいる」と身体に伝えるだけで、反応が和らぐことがあります。
その場にいなくていいと許可する
「ここにいなきゃ」「我慢しなきゃ」と思いすぎず、「今は離れてもいい」「自分を守ることが大事」と心の中で自分に許可を出します。
ポイント:「逃げたら負け」ではなく、「自分の安全を最優先する」という視点で、自分にやさしくすることが大切です。
安心アイテムと一緒にその場を離れる
お気に入りのアロマ、手ざわりのよい布、イヤホン、タブレットなど、落ち着ける「お守り」のようなものを持って安全な場所へ。
ポイント:視覚・触覚・嗅覚などに働きかけるアイテムは、「今ここにいる感覚」を取り戻す手助けになります。
「今ここ」に戻るグラウンディング
「5-4-3-2-1」法(五感を使ったグラウンディング)
以下の順に、目の前のものを意識します
① 5つ見えるもの
② 4つ触れられるもの
③ 3つ聞こえる音
④ 2つかげる匂い
⑤ 1つ味わえるもの
ポイント:五感を使って「今ここ」に集中することで、現実に戻る感覚が高まります。
足の裏グラウンディング
椅子に座って足を地面にしっかりつけ、床を押すように足の感覚に意識を向けます。
「床の冷たさ/重さ/固さ」を感じてみてください。
ポイント:身体感覚を使って「今、地に足がついている」ことを感じ取ります。
名前や日付を確認する
「私は〇〇。今日は〇月〇日、ここは〇〇(場所)」と声に出して言う。
ポイント:「過去の世界ではなく、今にいる」ことを脳に思い出させるシンプルな方法です。
深呼吸や身体を動かす
4秒吸って、6秒吐く深呼吸
4秒かけて鼻から吸い、6秒かけて口からゆっくり吐き出します。数回繰り返します。
ポイント:副交感神経が優位になり、体の過覚醒状態が落ち着きます。
手をさすって体を落ち着かせる
両腕を軽く包むようにしてさすったり、胸のあたりに手を当てたりします。
ポイント:皮膚へのやさしい刺激が、「自分は守られている」と体に伝えます。
軽いストレッチやその場足踏み
腕をゆっくり上げ下げしたり、足を交互に軽く動かすだけでもOK。
ポイント:動くことで“固まった体”を少しずつ解放し、フリーズ状態から抜けやすくなります。
フラッシュバックと向き合うためのサポート
カウンセリングの活用
フラッシュバックがつらいとき、自分一人では整理できない感情や身体反応を、安全な場で少しずつ解きほぐしていくには、トラウマに詳しい専門家の支援が有効です。
TIST(トラウマインフォームド・パーツワーク)
自分の中にある「傷ついた部分(パーツ)」と対話する方法。
「怖がっている自分」「怒っている自分」などを安全な距離から見守り、内的な安心感を育てていきます。
ソマティック・エクスペリエンシング(SE)
身体の感覚に意識を向けながら、少しずつ緊張やフラッシュバックの元になっている身体反応を解放していくアプローチ。
「言葉にできないけど、体に残っているつらさ」を対象にします。
EMDR(眼球運動による脱感作と再処理法)
目の動き(またはタッピングなどの左右交互刺激)を使って、トラウマ記憶を処理していく方法。感情に圧倒されずに、過去の体験を“過去のもの”として整理する助けになります。
これらはすべて、安心・安全な関係性の中で進めることが前提です。急がず、自分のペースで取り組めるカウンセラーとの出会いが大切です。
周囲にできるサポート
フラッシュバックが起きたとき、周囲の関わり方が回復の力にもなれば、再トラウマ化の引き金にもなりえます。理解と配慮がとても重要です。
無理に「思い出させよう」としない
■「何があったの?」「思い出せる?」と詰めるように聞くと、さらに混乱したり、再びフラッシュバックを起こす可能性があります。
■本人が話したがっている場合を除き、「無理に話さなくて大丈夫」と伝える安心感が大切です。
安心できる環境を保つ
■声を荒げず、穏やかなトーンで話す
■不必要に触らない(触れるときは必ず声をかけて確認)
■明るすぎない場所、うるさくない空間など、刺激を減らす配慮も有効です
「ここは安全な場所だよ」というメッセージを環境全体で伝える工夫ができるとよいですね。
「つらい気持ちがあるのは当然」と寄り添う姿勢
■「それは苦しいよね」「そう感じるのは無理もないよ」と、感情をそのまま受け止めることが、本人の「おかしくないんだ」という安心につながります。
■アドバイスを控え、まずは「一緒にいること」が力になります。
まとめ:フラッシュバックは「壊れた心の反応」ではなく、「がんばってきた心の記憶」
フラッシュバックは、自分の意志とは関係なく起きるものです。「こんなことで反応する自分は弱い」と責める必要はありません。
むしろ、それはあなたがかつて「必死に生きのびようとした記憶」が、今も体に残っているということ。フラッシュバックに気づき、それを少しずつケアしていくことは、自分を大切にし直す一歩になります。
焦らず、少しずつ「今ここ」の安心を取り戻していきましょう。
はこにわサロン東京では、TIST(トラウマインフォームド・パーツワーク)やソマティック・エクスペリエンシング(SE)を使ったカウンセリングを行なっています。
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