話しても無駄・我慢が当たり前でつらい:夫婦の情緒的ネグレクトとは?
東京・青山の心理カウンセリングルーム「はこにわサロン東京」の吉田美智子(臨床心理士・公認心理師)です。
夫婦間の情緒的ネグレクトとは、相手の気持ちに関心を向けない、感情を受け取らない、心のやりとりを拒む関わりが、繰り返し続く状態を指します。
怒鳴る、殴るといった分かりやすい暴力はなくても、
- 無視される
- 気持ちを軽く扱われる
- 感情を否定される
- 話しかけても反応が薄い
といったことが重なることで、配偶者は深い孤独感や無力感に追い込まれていきます。
これは心理的虐待(精神的DV)に当たり、長く続くと、心身の健康を著しく損ない、不安障害やトラウマ反応(PTSD様症状)につながることもあります。
また、家庭内に安心感がなくなることで、子どもの情緒や対人関係の発達にも影響を及ぼし、いわゆる機能不全家族(家族が安心して感情を表現・共有できず、個々の心のニーズが満たされない関係構造)になることもあります。

夫婦間の情緒的ネグレクト・チェックリスト
以下は診断基準ではなく、気づきのためのチェックです。
- 相談しても無視される、真剣に聞いてもらえない
- 自分の気持ちを理解してもらえないと感じる
- 暴言や人格否定を受けることがある
- 話しても無駄だと感じる
- 夫・妻がいると不安や緊張を感じ、いないとホッとする
- いつもイライラ・怒りやすくなった
- 反対に、諦めから落ち込みや無気力になった
- 自分の感覚や感じ方を否定される
- 感情を出すことを避けるようになった
- 「自分が悪い」と思うことが増えた
0〜2個 当てはまった場合
夫婦関係の中で、すれ違いが起きている可能性があります。忙しさや余裕のなさが原因のことも多く、対話や休息で回復できる余地がまだ残っていると考えられます。
3〜5個 当てはまった場合
情緒的なすれ違いが習慣化し始めています。「話しても無駄」「わかってもらえない」という感覚が積もっている可能性があります。我慢が当たり前になる前に、振り返りや対話の時間を持ってみてください。
6〜7個 当てはまった場合
情緒的ネグレクトの影響から、不安・怒り・無気力など、心身の反応が強くなりやすく、「自分が悪いのでは」と自責感を抱えやすくなります。一人で抱え込まず、信頼できる人や専門家に相談することが大切です。
8〜10個 当てはまった場合
深刻な情緒的ネグレクト状態にある可能性が高いと言えます。関係の中で安心や尊厳が保たれておらず、心身の不調やトラウマ反応につながるリスクも高まります。安全を最優先にし、カウンセリングや専門機関への相談を検討してください。
【補足】たとえ 1項目だけでも、③暴言・人格否定、⑤強い不安や緊張、⑩強い自責感がある場合は、軽視しないでください。
夫婦間の情緒的ネグレクトのよくある例(13パターン)
よくある10の例をご紹介します。このようなことをされると、どんな気持ちが湧くのか、また、あるべき姿の例についてもご紹介します。
① つらい一日を話したとき
仕事や育児で大変だった一日を話すと、「やって当たり前」「みんなやっている」「自分の方が大変だった」と言われる。慰めや共感はなく、軽んじられたり、張り合われる。
心の中で起きていること
「気持ちを受け止めてもらえない」と体験し、感情を隠す、我慢する。苛立ち、怒り、悲しみが湧く。度重なると言わなくなり、相手に期待することをやめるようになる。
あるべき姿の例
相手の大変さを想像して理解しようとする。「そうだよね、大変だったよね」「今日もありがとう」と、労いや感謝が言葉や態度で現れる。今できることや、週末にできることを一緒に考え、「手伝えなくてごめんね」という気持ちが伝えられる。

② 体調が悪いと伝えたとき
「ちょっとしんどい」と言うと、ため息をつかれたり、「また?」「病院行けば?」と言われる。あるいは「気のせい」「大したことない」と否定される。
心の中で起きていること
わかってもらえない孤独を感じる。我慢や無理を重ねてしまったり、不満や怒りが蓄積していく。
あるべき姿の例
「大丈夫?」「どんなふうにつらいの?」と心配してくれる。冷やす、消化に良いものを食べるなどの今すぐできるケアをする。家事や育児を肩代わりする。今後の段取りを一緒に考えられる。

③ 嬉しかった出来事を共有したとき
自分や家族の嬉しかったこと、成し遂げたことなどを伝えても、無関心。
心の中で起きていること
話したのは無駄だったと感じる。もう何も話したくないし、相手の話に関心を持って聞いたり共感するのは無理だ、と感じる。共に暮らす意義が見いだせなくなる。
あるべき姿の例
「すごいね!」「よかったね!」「努力が報われたね!」と言ってくれる。普段の努力を知っているからこそ、喜びを共有できる。

④ 話を聞いてほしいとき
話を聞いてほしいだけなのに、話を途中で遮られたり、ながら聞きされる。また、すぐに正論で諭されたり、欠点を指摘されたり、求めていない解決策を示される。
心の中で起きていること
気持ちを受け止めてもらえない。大切にされていないと感じる。相手への期待や一緒に暮らす意義が失われていく。
あるべき姿の例
途中で遮らず、最後まで話を聞く。評価やアドバイスを急がず、「そう感じたんだね」「つらかったね」と気持ちを受け止める。

⑤ 泣いたり感情が揺れたとき
涙を流すと、「泣けば済むと思ってる?」「面倒くさい」と言われる。怒りを表出すると、否定されたり、怒られたり、無言で距離を取られる。
心の中で起きていること
支えが欲しい時にもわかってもらえない・わかろうとしてもらえないことに、深く傷つく。相手に期待した自分を責める気持ち。また、後悔、恥ずかしさや罪悪感が湧く。
あるべき姿の例
理由をすぐに理解できなくても、そばにいる。怒りや悲しみを否定せず、「そうなんだね」と受け止める。落ち着くまで、安心できる関わりを保つ。

⑥ 諦めて何も言わなくなったとき
相手に期待するのをやめて、表面的・無口になると、「最近、機嫌がいいね」と言われる。心を閉じたことが、“成長”として扱われる。
心の中で起きていること
心を閉じると関係を保ちやすい学び、安心と引き換えに沈黙を選ぶ。
あるべき姿の例
相手の変化と、そこまで追い詰めてしまっていたことに気づく。振り返りの時間を持ち、話し合う。

⑦ 家事・育児の分担の話で
「大変なんだ」と伝えても、「僕(私)だってやってる」と張り合いになる。苦労を分かち合う代わりに、比較や競争が始まる。
心の中で起きていること
わかってもらえない、助けてもらえないと感じ、孤独感が増す。相手を頼らない代わりに、相手に対する関心や信頼が失われ、イライラや怒り、悲しみが増す。
あるべき姿の例
「そうだよね、しんどいよね」とまず受け止める。どちらが大変かではなく、どうすれば楽になるかを一緒に考える。

⑧ 感覚や体感を否定されたとき(寒さ・暑さ・苦しさなど)
「寒い」「暑い」「苦しい」と伝えても、「そんなはずない」と否定される。一般的な尺度や配偶者の尺度で、一方的に決めつけられる。
心の中で起きていること
思いやりの欠如に対する怒りや悲しみが湧く。相手に対して、思いやりを発揮するのをやめようと思う。
あるべき姿の例
「そう感じてるんだね」と感覚を尊重する。温度調節や苦しさを緩和する手立てなど、現実的な調整を一緒に考える。

⑨ 情緒的な交流が不要だと思われている
感情のやりとりがなくても、「自分は困っていない」「問題はない」「時間の無駄だ」と考える。相手が困ったり悲しんだりしていても、無関心。
心の中で起きていること
自分は大切にされていない、と感じる。一緒にいることで、尊厳が奪われていく。
あるべき姿の例
情緒的なつながりの大切さについて知ろうとする。相手から学ぼうとする。

⑩ 理想像を押し付けられる
「家族は一緒に旅行に行くべき」など、自分の理想を当然のように押し付ける。気持ちや都合への配慮がなく、「してやっているのに感謝が足りない」と怒る。
心の中で起きていること
機嫌を損なわないよう注意する。自分の気持ちは言えなくなる。一緒にいることが我慢になる。
あるべき姿の例
互いの希望を話してすり合わせる。理想の押し付けより、相手の気持ちやお互いの満足を大事にする。

⑪ 気に入らないと「離婚」を持ち出す
意見の違いや不満があるたびに、「離婚する」と関係を脅す。対話ではなく、恐怖で黙らせる形。
心の中で起きていること
相手の思う通りにしないとダメ、自分の気持ちや希望を言っても無駄だと感じる。命令に従うだけの関係だと感じる。
あるべき姿の例
意見の違いがあるのは当たり前なので、思いやりのある態度で話を聞く、話し合う。不満の気持ちについても、いったん聞いて受け止める。

⑫ 正論で押し通される
立場や見る視点で正義は変わるのに、一方的に、「間違っている」「合理的じゃない」と切り捨てられる。
心の中で起きていること
何を言っても無駄だと感じ、コミュニケーションが苦しくなる。互いの正義を押し付けあって疲弊する。
あるべき姿の例
夫婦というプライベートの関係では、正義より、互いの気持ちを優先する。

⑬ 自分を優先してくる
自分の都合が最優先で、相手や家族の事情は考慮されない。
心の中で起きていること
透明人間になったような疎外感。怒りや諦め。
あるべき姿の例
「自分がどうしたいか」だけでなく「相手はどう感じるか」「家族全体にどう影響するか」を想像し、選択を一緒に考える。

夫婦の情緒的ネグレクトはなぜ起きるのか
情緒的ネグレクトは、どちらかが「冷たい人」「思いやりのない人」だから起きるとは限りません。むしろ多くの場合、情緒的なやりとりを学ぶ機会がなかったことが背景にあります。
たとえば、子ども時代に気持ちを受け止めてもらう経験が少なかったり、感情よりも我慢や成果が重視される家庭で育った場合、「感情をやりとりする」という感覚そのものが育ちにくくなります。こうした環境は、いわゆる機能不全家族や、愛着の問題と重なることも少なくありません。
また、身近にロールモデルがいないと、どう関わればいいのか分からず、無意識のうちに感情を避ける関係性を繰り返してしまうことがあります。
さらに、相手の立場に立って気持ちを想像すること自体が難しい場合もあります。これは性格の問題というより、育ちの中で培われなかったり、発達特性や強い合理思考の影響で、「気持ちより事実・効率・正しさ」を優先する思考が強くなっているケースです。
このように、多くの場合において、知らず知らずのうちに身につけてきた関わり方の課題が、夫婦関係の中で表面化しています。

情緒的ネグレクトと自律神経の関係
家庭の中で、気持ちを聞いてもらえない、否定される、無視されるといった大切にされない体験が続くと、心と身体はその環境を「安心できない場所」だと判断します。
すると、自律神経が、緊張や警戒が高まったままの過覚醒状態になったり、ショックや諦めから、力が抜けたような低覚醒状態に陥ったりするようになります。
こうした状態が続くと、
- 些細なことでイライラする
- 不安や緊張が強まり、感情的になりやすい
- すぐに疲れてしまう
- 何をする気にもなれず、人と会うことを避けたくなる
といった心身の反応が現れやすくなります。

夫婦間・情緒的ネグレクトの心身への影響
情緒的ネグレクトが長く続くと、次のような影響が現れることがあります。
- 自律神経失調
常に緊張が抜けず、不眠、動悸、慢性的な疲労が続きやすくなります。 - 不安障害・パニック症状
安心できる場所がなくなり、突然の強い不安や動悸に襲われることがあります。 - 抑うつ状態
感情を抑え続けることで心のエネルギーが枯渇し、気力が湧かなくなります。 - 心身症(頭痛・胃痛など)
言葉にできない感情が、身体の痛みや不調として現れることがあります。 - 解離症状
つらさから自分を守るために、感覚や感情を切り離して耐えようとします。 - いわゆるカサンドラ状態
理解されない孤独が続き、心身の不調や自己否定感が強まります。

夫婦間の情緒的ネグレクトが子どもに与える影響
家庭に安心感がない状態は、子どもの心にも大きな影響を与えます。
気持ちを受け止めてもらう経験が少ないと、子どもは自分の感情をどう表現していいかわからなくなり、思いを言葉にすることが苦手になりがちです。また、家の中で緊張や不安を感じていると、家庭を「安心できる場所」と感じられなくなります。その結果、人との関係に不安を抱えやすくなったり、自分には価値がないのではないかという感覚を持ちやすくなることもあります。子どもは、大人が思っている以上に、言葉そのものよりも、家庭の雰囲気や感情のやりとりを敏感に感じ取って育っているのです。
夫婦の情緒的ネグレクトへの対応
1.情緒的ネグレクトは不適切な状態だと知る
まず大切なのは、情緒的ネグレクトは「仕方がない」「よくあること」「我慢するしかない」問題ではなく、心理的虐待にあたり、改善が必要なことだと知ることが大切です。
気持ちを無視される、否定される、話を聞いてもらえない状態は、心にも身体にも重い負担となり、健康を害する、精神的なダメージを与えます。
すると、「自分が弱いからいけない」のように自分を責めて諦めてしまったり、自分を守るために相手に対してやり返す・争い合うようになってしまうこともあります。
これは個人の弱さや性格の問題ではなく、関係性の中で起きている不適切な状態だと理解し、自分を責めずに「変える・助けを借りる」選択肢があることを知ることが大切です。

2.情緒的な関係のロールモデルを持つ
情緒的なやりとりは、生まれつき誰もが自然にできるものではありません。
育った家庭やこれまでの人間関係の中で、気持ちを大切に扱われる経験が少なかった人ほど、「どう関わればいいのか分からない」まま大人になります。
そんなときに、安心して気持ちをやりとりしている夫婦や人間関係をロールモデルとして持つことが助けになります。
身近な人でも、本や記事、カウンセリングの場でも構いません。自分がありたい姿を持ち、真似をしてみる、相談してみることを通じて、関係の改善を図ることができます。

3.夫婦でできる小さな工夫を重ねる
お互いに、自分たちの関係に課題があることに気づけたときは、一気に関係を変えようとせず、小さな工夫から始めてみてください。
大切なのは、正しさを競うことではなく、相手を理解しようとする姿勢です。
たとえば、
・家事や育児の役割を一時的に交換し、相手の大変さを体験してみる
・相手が「これが助かる」「一緒にやりたい」と言っていることを試してみる
・自分の意見を主張する前に、相手の言い分や気持ちを最後まで聞かせてもらう
こうした関わりを重ねることで、「思っていたより大変だった」「こんなふうに感じていたんだ」という気づきが生まれます。
相手を知ろうとする経験が、感謝やねぎらい、思いやりを育て、温かい関係性や信頼感を取り戻していく助けになります。

4.カウンセリングの助けを借りる
夫婦関係は、とても近くて閉じた二者関係です。
そのため、関係がこじれたときに、当事者だけで冷静に話し合い、改善していくのは、実は簡単なことではありません。第三者であるカウンセラーが入ることで、感情が高ぶりすぎることを防ぎ、落ち着いて状況を振り返ったり、話し合ったりしやすくなります。
カウンセリングでは、自分の気持ちや相手への思い、関係の中で起きていることを、少しずつ言葉にして整理していきます。その過程で、これまで気づかなかった自分の本音や、思い込み、相手の感じ方に触れることもあります。責め合いではなく、冷静さを保ちながら、本当の気持ちを伝え合える場でもあります。
また、カウンセラーの問いかけや、気持ちを受け止める姿勢そのものが、情緒的な関わり方の一つの手本になることもあります。夫婦関係をどうするかを決める前に、まずは自分の心を整え、安心を取り戻すための場として利用することも、大切な選択肢です。

夫婦間の情緒的ネグレクト・まとめ
夫婦の情緒的ネグレクトとは、気持ちを無視・否定され、心のやりとりが失われていく状態です。
「仕方がない」と諦めたり、「自分のせい」と自分を責めたりすると、ますます辛さが増してしまうことになります。
夫婦で話し合う、信頼できる人に相談する、カウンセリングを受けるなどの方法で、事態を少しずつ改善していってくださることを心から願っています。
はこにわサロンでは夫婦の情緒的ネグレクトのご相談を受付けています。