母の日がつらいと感じる人へ 〜 理由を知って心と身体を守る方法
東京・青山の心理カウンセリングルーム「はこにわサロン東京」の吉田(臨床心理士・公認心理師)です。
母の日が近づくこの時期は、親子関係に傷つきがある方や、母親との関係に悩んできた方にとって、負担の大きい時期になりやすいものです。
世の中では、母の日が「感謝」や「愛情」を象徴する日として扱われます。
けれども、そうしたイメージとは逆の、痛みや寂しさ、怒りなどが湧き上がってくることがあります。

なぜ母の日は苦しくなりやすいのか〜理想の親子像と現実のズレ
母の日が苦しいのは、この日が象徴する「幸せな親子関係」と、自分が実際に生きてきた現実に大きなズレがあるからです。
過去に安心できなかった、傷つけられた、愛された実感を持てなかったという経験があると、母の日向けの感動的な親子話や、母親への感謝を語る投稿、プレゼントの広告と言った刺激が、心と身体のセキュリティシステムを強く刺激してしまうのです。
脳や神経は、それを単なる情報としてではなく、自分の傷つきと結びついた安全ではない刺激として受け取り、過去の記憶やそのときの感情を呼び起こしてしまうのです。

ようやく保った距離が揺らぐ
これまでたくさん努力して、ようやく親とのあいだに「これ以上傷つかないための距離」を取れるようになってきた人でも、この時期は刺激に圧倒されやすいです。
ふとした瞬間に昔の出来事や、そのとき感じた悲しみ、悔しさ、寂しさがよみがえってくることもあります。
過去の母の日の出来事、たとえば気持ちを踏みにじられたこと、感謝を示しても否定されたこと、喜んでもらえなかったことなどが思い出されることもあります。
そうした一つひとつの体験は、その日の出来事というだけでなく、その親子関係全体を象徴する記憶として心に残っていることが多いのです。

母の日が引き起こす感情のフラッシュバック
また、この時期には、さまざまな感情がいっせいに動きやすくなります。
幸せそうな親子の様子を見ると、寂しさが湧きます。
自分にはなかったもの、自分が欲しかったものを見せられて胸が苦しくなります。
「どうして自分だけがこんな思いをしなければならなかったのか」という理不尽を感じると、怒りやいら立ちが生じます。
そこには、羨ましさ、悲しさ、怒り、疎外感が混ざり合っています。
しかも、その感情は「今この瞬間だけ」のものではなく、過去にも何度も感じてきた同じ感情を呼び起こしやすいです。
つまり、目の前の出来事に反応しているだけでなく、昔の痛みまで一緒に刺激されている、いわば感情のフラッシュバックが起きているのです。

雑談や悪意ない言葉のつらさ
地味にきついのが、職場の人や事情を知らない友人からの何気ない質問です。
「母の日のプレゼントは決めた?」「たまには帰ってあげないとね!」といった言葉には悪意がないので、気持ちのやり場がありません。
本当のことを言えず、適当に話を合わせたり、無難な嘘をついたりしてその場をやり過ごすことも、大きな消耗につながります。
また、親に感謝したいと思えない自分は「冷たい人間だ」と感じて自分を責めてしまうこともあります。
「悪いことばかりじゃなかった」と親を擁護する考えが浮かぶこともあり、自分が悪い人のように感じられてしまいます。

現実の逃げられなさ
今も、親との距離に悩んでいる場合、苦痛はさらに強くなります。
表面的には仲良くしていなければならない、とか、相手から感謝やプレゼントを期待される、家族の集まりに参加しなければならないなど、現実の対応を迫られるからです。
気持ちの整理がつかないまま、「感謝する側」に立つことを求められるのは大きな負担です。
母の日がつらいのは、過去の傷、現在の関係、社会の期待、そのすべてが重なって、心にも身体にも負荷がかかりやすい時期だからなのです。

身体の反応は自然と働く防衛反応
そのため、この時期は、心にも身体にもさまざまな反応が出やすくなります。
イライラや怒りなどの感情が湧いたり、気分が落ち込む、虚しさや寂しさを強く感じる。
SNSやニュースを見るのがしんどくなったり、人と距離を取りたくなったりすることもあります。
さらに、身体のだるさや疲れやすさ、頭がぼんやりする、やる気が出ない、動けないといった状態になることもあります。
これは自律神経の自然な反応でもあります。
外からの刺激を、心と身体が「危険」と判断すると、交感神経が高ぶって不安や怒りとして表れることもあれば、逆にブレーキがかかって無気力や疲労感として表れることもあります。
どちらも、これ以上傷つかないために自然と働く防衛反応です。

母の日ブルーから自分を守る方法は?
では、この時期をどのように過ごせばよいのでしょうか。
まず大切なのは、「自分を守り、大切にすることを最優先にしていい」と考えてみることです。
SNSやメディアから少し距離を取りましょう。
スクリーンタイムを減らしたり、キーワードをミュートして刺激を減らすのもよい方法です。

自分の声を受け止める
「つらくなるのは自然」と受け止めることも大切です。
湧き上がる感情を否定する必要はなくて、「そう感じるのも無理はない」と認めると、自分を責める気持ちや緊張がゆるみます。
自分の感情の中には、今の自分だけでなく、過去の、たくさんの自分たちの気持ち、誰かに聞いてもらいたい気持ちが含まれています。
その声を、今の自分が「そうだよね」と聞いてあげると、「受け止めてもらえた感じ」がして怒りや緊張が緩みます。
今の自分が過去の自分にやさしく接してあげると、今の苦しみが和らぐのです。

境界線を引く
今も親との関係に対応しなければならない状況にある方は、「できる範囲で関わる」ことを検討してください。
連絡の頻度や内容を調整する、短時間で切り上げる、あらかじめ言うことを決めておくなど、自分の負担が最小限になる形を考えてみてください。
それは冷たさではなく、自分の尊厳を守るための行動です。

母の日にまつわる雑談の返し方
悪気なく「母の日、プレゼント買った?」と聞かれたときは、無理に本音を話す必要はありません。
軽く「まだなんです」「今年はゆるめで」といった曖昧な返しで十分ですし、「どうしようか迷っていて。○○さんは?」と相手にボールを渡すのもいいと思います。
「毎年、ギリギリ選手権です」とか「AIに決めてもらおうかな」のように、ユーモアで返す方法もあります。
上手に、無理なく、その場をやり過ごしてください。

自分にとって大切な存在と過ごす日に
私は、母の日を、必ずしも「母に感謝する日」にしなくてもいいのではないかと思います。
これまで母代わりに頑張ってきた自分をねぎらう日にしてもいいですし、自分にとって安心や支えになってくれた存在と過ごすというのもいいと思います。
それは、ペットかもしれないし、アニメかもしれない。
好きなスポーツや音楽かもしれません。
出会いに感謝して、楽しく過ごせたらいいなと思います。
母の日の呪縛をほどいて、自由になれますように!


