見捨てられ不安が強い人の特徴〜人間関係で「自分がなくなる」と感じる理由
東京・青山の心理カウンセリングルーム「はこにわサロン東京」の吉田美智子(臨床心理士・公認心理師)です。
見捨てられ不安というと、「嫌われるのが怖い」「一人が怖い」といったイメージを持つのではないでしょうか。確かに、そうなのですが、精神分析家のマスターソンは、見捨てられ不安の本質は「自分の存在の喪失」にあると考えました。
ジェームズ・マスターソンは、アメリカの精神科医・精神分析家で、特に境界性パーソナリティ障害の研究と治療で知られています。彼は長年、多くの患者さんとの臨床経験を通して、「なぜ人は自分らしく生きようとすると強い不安や抑うつに襲われるのか」というテーマを研究しました。
そして、人間の苦しみの中心には、単なる孤独への恐怖ではなく、「自分自身を失うことへの恐怖」があるのではないかと考えたのです。その中核概念が、ご紹介する「見捨てられ抑うつ」です。
つまり、本当に怖いのは、一人になることではなく、「自分が自分でなくなってしまうこと」なのです。今日は、この少しわかりにくいテーマについて、愛着理論や複雑性トラウマの知見も交えながら考えてみたいと思います。

なぜ見捨てられ不安が生まれるのか
マスターソンは、幼い子どもが自立しようとする過程に注目しました。子どもは、成長とともに少しずつ「自分でやってみたい」「自分で決めたい」「自分の世界を広げたい」という気持ちを持つようになります。そして、それが親に無条件に受け入れられ、喜ばれると素直に思っています。
けれど、親が支配的、または過干渉で子どもの自立を喜ばなかったり、親の気分で褒めたり怒ったり、邪魔したりすると、子どもは驚き、悲しみ、怒りを感じます。
子どもの反応で、親が「自分の対応がよくなかったな」と気づいて修正してくれるといいですが、子どもの気持ちが受け取られず、親がもっと怒ってしまうこともあります。
すると、子どもは、自立してはいけないと感じ、少しずつ、自立を諦めていくようになります。親の言う通りに、顔色を見て行動するようになるのです。
でも、それは、自分を放棄すること。自分の人生を生きない選択をすることです。この時に、子どもが感じる耐え難い無力感と絶望感、強い怒りなどの複合的な感情状態が「見捨てられ抑うつ」です。

見捨てられ抑うつが引き起こす強い不安
見捨てられ抑うつがあると、対人関係のちょっとした誤解やすれ違いにも強い不安が湧き上がりやすくなります。
そのため、不安に耐えられず激しい感情表現をしてしまったり、逆に相手にしがみつくように依存したりすることがあります。
なぜなら、本人にとっては単なる人間関係のトラブルではなく、「自分の存在そのもの」が脅かされているように感じられるからです。
では、なぜ人は関係が揺らぐだけで、自分がなくなってしまうように感じるのでしょうか。

「自分」は養育者との関わりで育まれる
私たちは、生まれた時から「自分」という感覚を持っているわけではありません。
赤ちゃんは、養育者との関わりの中で、「怖かったね」「悲しかったね」「嬉しいね」と気持ちを受け止めてもらうことで、少しずつ自分を作っていきます。
つまり、他者との関係の中で「私は私だ」という感覚を育てていくのです。

「自分」を他者の評価に委ねる危険
でも、もし幼い頃から、「そのままの自分では受け入れてもらえない」「親の期待に応えなければならない」「迷惑をかけてはいけない」という環境で育つと、自分の存在感を他者からの評価に預けるようになります。
すると、相手が認めてくれている時は安心できる。でも、相手が不機嫌になると、自分の価値まで失われたように感じる。そんな状態が生まれます。
本来であれば、「相手が怒っていること」と「自分に価値があること」は別の話です。しかし、見捨てられ抑うつが強い人の中では、その二つが強く結びついてしまっているのです。
そのため、人間関係の小さな揺らぎが、自分の存在そのものを脅かす出来事として感じられてしまいます。

アレキシサイミア(失感情症)や解離
また、人によっては怒りや不安を表現するのではなく、それらの感情を感じないようにする方向に適応することもあります。
その結果、自分の気持ちがわからなくなるアレキシサイミア(失感情症)や、感情や身体感覚を切り離す解離が生じることもあります。
つまり、見捨てられ抑うつが刺激された時に生じるのは、「相手に受け入れてもらえないかもしれない」という不安だけではありません。
自分という存在が消えるような感覚、地面がなくなって居場所の手がかりがないような感覚になってしまうこともあるのです。
その苦しさから逃れるために、もっと頑張って、役に立って、期待に応え、なんとか承認を得ようとしてしまうことも多いです。
でも、他者からの承認に頼れば頼るほど、自分の価値を自分で感じることが難しくなり、見捨てられ抑うつはむしろ強くなっていきます。

自己不信がもたらす様々な心身不調
また、このような状態が続くと、「自分の感じ方は正しいのだろうか」「自分には価値があるのだろうか」という自己不信も強くなります。
そして自己不信が強まると、不安障害や抑うつ、依存症、解離性障害、摂食障害など、さまざまな心身の不調につながりやすくなります。
このように、見捨てられ抑うつは、単に一人になることが怖いのではなく、自分が自分でなくなってしまうこと、自分の存在意義そのものが失われてしまうように感じる原初的で根源的な恐怖なのです。

見捨てられ抑うつから回復するために
だから、なかなか扱いが難しいのですが、少しずつ恐怖を解除することはできると思います。キーワードは、安心、くっつく、あったかい、自分にやさしく、です。(これらは、回復の道筋の最初にできること・やってみてほしいことです。)
見捨てられ抑うつからの回復 ①安心
安心というのは、気楽にいられる場所・もの・相手です。
安心して一緒にいられる人は宝物です。
でも、人じゃなくても、大丈夫です。
自然、とか、動物・生き物、好きな場所。
くるまると安心できるタオルケットでもいいし、音楽でもいいです。

見捨てられ抑うつからの回復 ②くっつく
くっつくは、安心できるものとくっつくこと。
人間は、本来は、人同士、くっつくと安心するようにできています。
安心できる人とのスキンシップは最高です。
でも、動物をさわる、とか、地面に座って大地の温かさを感じるとか、背中を壁にくっつけて座る、のもいいです。

見捨てられ抑うつからの回復 ③温める
温かいものは、身体をゆるめてくれます。
リラックスできる温度のお風呂に入ること。
熱い飲み物をフーフーしながら飲むこと。
首や肩を温めること。お腹を、さすって温めてあげること。

見捨てられ抑うつからの回復 ④自分にやさしく
自分にやさしく、は、自分にOKを出すこと。
「頑張ってくれてありがとう」
「頑張れない日もあるよね」
「今日はこれでいい」
「これが、今できるベストだね」
失敗したら「そんな日もある」「今日は一旦、休もう」
自分に、ネガティブなことを言わないというルールのゲームだと思って、やってみてください。

見捨てられ抑うつからの回復 ⑤ひとりは難しい時はつながって
やっぱり、ひとりでやるのは難しい、と感じたら、つながる先を探してみてください。
カウンセリング、だけじゃなくて、身体のケアや、なんならエステでもいいし、エクササイズでもいいし、そのつながりや学びから、ケアを始めてみてください。
ささやかなことでも、続けると、1年後に違いが出ますから、やってみてください。
はこにわサロンでも、ご相談を受付ています:

