トラウマケアに欠かせない腹側迷走神経が育たない家の5つの特徴
東京・青山の心理カウンセリングルーム「はこにわサロン東京」の吉田美智子(臨床心理士・公認心理師)です。
前回の記事では、トラウマの回復に欠かせない腹側迷走神経とは何かをお話しました。今日は、腹側迷走神経が育たない家庭環境とはどのようなものかについて、その5つの特徴を説明します。
腹側迷走神経とは
腹側迷走神経は自律神経の1つです。
哺乳類に特徴的なこの神経は、生まれた時はまだ未熟で、親に温かくお世話をしてもらうことで発達していきます。
ですが、温かいお世話をしてもらえないと、育ちにくくなってもしまいます。
では、腹側迷走神経が育ちにくくなる家庭環境とは、どのようなものなのか、その特徴を5つご紹介していきます。

① 親が不機嫌な家
子どもは、認知も感情も未発達なので、すぐに怒ったり泣いたり、機嫌が変わりやすいものです。そういう時に、大人は、子どもが大人の助けを必要としていることを理解して、落ち着いた態度で接し、慰めたり、励ましたりしてあげます。大人の態度を写し鏡に、子どもは少しずつ、大人がしているような落ち着きを獲得していくのですが、これが腹側迷走神経の関わり、発達です。
でも、親側に余裕がなかったり、事情があったりして、機嫌が不安定なことがあります。親がイライラして、なんでもないことで子どもや家族を叱ったりする。ため息をついたり、無言で目を合わせないなど、不機嫌な態度をとる。
すると、子どもは自分のニーズを親にキャッチしてもらって、整えてもらうことはできず、自分のニーズを押し殺して、親の機嫌をとるようになります。これは、ポリヴェーガル理論で言えば交感神経の過覚醒の状態で、腹側迷走神経で安心してつながることができません。
子どもは、いつも警戒していて、不安や緊張が強い子、友達を作るのが難しい、意欲を持って何かに取り組んだり、失敗を恐れずチャレンジすることが難しくなってしまいます。

② 何を求められているのかわからない
親が子どもに社会の成り立ちや生活のルールを教える時には、それが、シンプルでわかりやすく、子どもにちゃんと伝わる必要があります。例えば、玄関で靴を揃えようと教えるなら、家に入る時にひと声かけて、できたら褒めたり、玄関に目安になるマークを準備して、子どもが自分でできるような仕掛けを作る、というふうに。
でも、普段はいちいち言わないのに、不機嫌な日だけ「こんなこともできないの!」と叱られたり、「だからあなたはダメだ」と拡大して非難されたり、「ちゃんとしなさい」「もっとよく考えなさい」「誰々を見習いなさい」のような漠然とした言葉で言われても、子どもには自分がどうすればよいかがわかりません。
せっかく100点をとったから褒めてもらえると思ったら、「勉強ができても忘れ物が多いから全然ダメ」と叱られる。あるいは「ちゃんと勉強しなさい」と言われて勉強していると、「たまには家事を手伝ったらどうなの?」と叱られる。家事を手伝うと「やり方が違う」と叱られる。何をしても叱られるので、部屋に篭るようになると、それも叱られる。いつも、何かが足りないと言われる。
「自分には親の求めていることがわからない」「正解がわからない」と思うと、いつも自信がなくて相手の評価を窺うようになってしまったり、わかりあうコミュニケーションの安心体験がないため、友だちを作るのが苦手だったりします。また、親の態度をコピーして振る舞うと、友だちに嫌われてしまうこともあります。

③ 気持ちを受け止めてもらえない
子どもが小さいうちは、親は子どもの様子を気にかけて、困っているようだったら「どうしたの?」「大丈夫?」と声をかけたり、怒ったり泣いたりしている時には、「嫌だったね」「悲しかったね」と気持ちを受け止めてあげる必要があります。親に気づいてもらえること、怒ったり泣いたりしても否定されないで、受けとめてもらえる体験を通じて、子どもの腹側迷走神経が育つのです。
ところが、「泣くな!」「怒るな!」「うるさいよ!」と叱られたり、「気にしすぎ」「そんなことで?」と否定されたり、「我慢しなさい!」と言われると、子どもは自分の感情は悪いものだと誤解して切り離すようになったり、逆に、もっと感情が溢れて収拾がつかない、親のいないところで爆発させるようになったりすることもあります。どちらも、腹側迷走神経が育たない状態です。
そのため、大人になってからも、自分の気持ちがよくわからなかったり、感情表現が苦手とか嫌悪していたり、いつもイライラ、怒りっぽく、幸せを感じられない。モラハラ、パワハラをしてしまうということもあります。

④ 条件つきでしか認めてもらえない
腹側迷走神経は、ただ一緒にいるだけで心地よい、リラックスできる、という神経、存在肯定の関わりです。そのため、子どもが親に受け入れてもらうために「いい子だったら」とか「テストが100点だったら」といった条件がつけられると、子どもは「ダメだと見捨てられるかもしれない」という不安を感じてしまうことになります。これは、感じた方が敏感だということではなく、人間はそういうふうにできています。
子どもは親に見捨てられたら、物理的にも心理的にも生きることができません。そのため、親に認めてもらうことは生死に関わる重大さがあるのです。
本来は、ありのままを受け入れ、認めて欲しいのですが、そうしてもらえない場合は、子どもは、ものすごい努力をして、よい成果を出して、認めてもらうしかありません。また、実際、そうしている限りは、認めてもらえる、という体験ができます。すると、学校や社会からも評価してもらえるから、悪いことばかりではないのです。ただ、どんなに頑張って結果を出しても不安から解放されず、身体を壊しても頑張るのをやめられないとか、人の評価を強く気にしたり、完璧主義で燃え尽きやすくなってしまいます。

⑤ 心理的コントロール
心理的コントロールとは、親が子どもに罪悪感を与える、恥をかかせる、愛情を引き上げるなどの方法で、親の期待通りに行動させようとする、子どもの気持ちより親の感情を優先させるような関わり方を指します。
例えば「親がこんなにしてあげたのに」と恩を着せてたり、「親の期待を裏切った」と責めたり、気に入らないと無視するといった、子どもの罪悪感を利用する関わり。
子どもの言動によってい「親が傷つく」と責めること。
「親のことを大事に思うなら〜〜するはず」と愛情を条件にすること。
子どもの言動は「恥ずかしい」「社会に受け入れられない」と決めつけて、子どもの気持ちや考えを否定し、親の願いに誘導する関わり。
失敗した時に「親の言う通りにしていればよかったのに」などと言って、子どもの意思を封じ、親の思うように生きさせようとする関わり。
腹側迷走神経は、「自分は安全だ」「自分の気持ちを表現しても大丈夫だ」と感じられるときに働く神経です。しかし、いつも親の機嫌や期待を優先し、「自分は本当は嫌だけど断れない」「悲しいけれど笑っていよう」「怒らせないようにしよう」と過ごしていると、交感神経による緊張や、背側迷走神経による無力感へ移行しやすくなります。「安全を得るために、自分を抑え続けなければならない状態」が、自律神経を乱しやすいのです。

腹側迷走神経が育たない家 まとめ
ご紹介してきたような親の関わりが多かったり、長い間続いてしまうと、子どもの腹側迷走神経がうまく発達することが難しくなってしまいます。
すると、人と一緒にいて安心する、信頼してゆだねる、と言うことが難しくなり、イライラしやすい、人の気持ちを理解することが難しい、いつも周囲の顔色を見て行動する、不安が強い、自分を肯定したり、自信を持ったり、自分の気持ちを大切に暮らすことが難しくなってしまいます。
自律神経の乱れから、頭痛や腹痛、眠れないなど、体調にも不調が現れてくることもあります。
でも、腹側迷走神経は子どもの時に育たないともうダメ、と言うことはありません。今からでも、少しずつ育て、整えてあげることができます。
生活習慣を整えることや、軽い運動をする、といった基本的なことがとても大切ですし、自分を責めることをやめて、自分に心地よいことを増やしていくといった調整も大切です。何より、安心できる居場所ができるとか、信頼できる友だちや恋人、家族ができることがきっかけで立て直していけることもあります。
何歳からでも変えていけますから、少しずつ、取り戻してください。


