頑張った後に動けなくなる。過覚醒と低覚醒を繰り返すのはなぜ?
東京・青山の心理カウンセリングルーム「はこにわサロン東京」の吉田美智子(臨床心理士・公認心理師)です。
前々回の記事では自律神経が昂る過覚醒について、前回は自律神経がスリープ状態に入る低覚醒についてお話しました。
複雑性トラウマで自律神経が乱れていると、過覚醒気味、低覚醒気味な方がおられますが、過覚醒と低覚醒の両極を行き来する方もおられます。ここでは、そういうケースについてお話しようと思います。
過覚醒と低覚醒を行き来する例
仕事では有能でものすごく頑張るのに、家に帰ってきたら何もできない。
人といるとテンション高く過ごしているが、ひとりになるともう何もかもどうでもよくなる。
週日は仕事や付き合いに忙殺されて、休日になると一日中寝てしまう。
これらは、過覚醒と低覚醒を繰り返す一例です。

自律神経は「安全を守る装置」
おさらいですが、自律神経は「命を守るため」のシステムです。
危険を感じれば、まず交感神経が働き、闘うか逃げる準備をします。
それでも危険から逃げられないと判断すると、今度は背側迷走神経が働き、身体を止め、省エネモードに入ります。
つまり、過覚醒も低覚醒もどちらも、身体が危険に対処して生き残ろうとしている反応だということです。

過覚醒と低覚醒を行き来する理由
では、なぜ、過覚醒と低覚醒を行ったりきたりするのでしょうか?
理由は、危険が続いていること、あるいは、危険が続いていると感じていることにあります。
例えば、親が不仲で家の中が緊迫していたら子どもの脳と神経は危険を感じて、親の機嫌を伺う過覚醒や意識や感覚を閉じる低覚醒で自分を守ろうとします。
すると、例えば、学校で、他の子どもが先生に叱られているといった場面、自分とは関係のない場面でも、怒鳴り声に反応して落ち着かなくなる、逃げたくなる、というように、危険ではないはずの場所でも危険が続いていると感じて警戒し続ける、ということが起きやすくなります。
このような環境に置かれると、日中は過覚醒でずっと警戒し続けて、心身が疲れ切ってしまい、しまいには動けなくなって低覚醒になってしまいます。過覚醒が続いた後に低覚醒に入るのは、身体にとって仕方のないこと、むしろ命を守っていることでもあります。
それでも、危険な環境が改善されなければ、翌日も、子どもは過覚醒の1日を過ごし、最後は疲れ切って低覚醒になる、という行き来を続けるしかありません。
過覚醒と低覚醒を行き来することは、子どもの頃から習慣づいてしまっている場合もありますし、学校や職場でのいじめやハラスメントなどをきっかけに大人になってから生じることもあります。

複雑性トラウマ以外の要因
ちなみに、過覚醒と低覚醒が行き来することは、複雑性トラウマの方だけに生じるわけではありません。
多忙で長時間勤務が当たり前な職場、常に成果を出すことを求められる職場環境や、真面目で責任感が強く、休めない人も、過覚醒と低覚醒を繰り返す悪循環にはまりやすいです。
燃え尽きが起きたり、不眠、体調不良、抑うつなどが生じることもあります。

回復するためにできること
①自分が過覚醒・低覚醒を行き来する状態だと知ること
②自分を観察する。どんな時に過覚醒・低覚醒になるのか。
③防ぐためにできることを考える。
過覚醒
● 危険だと感じた時の対応を事前に考えておきます。
● 可能なら、人とおしゃべりするのもよいです。人が怖くなければ、腹側迷走神経のリラックスに入ることができます。
● 人と接すると緊張が増してしまう場合は、いったん席をはずす。トイレに行く。外を眺める。お茶を飲む。意識的にブレーキをかけて、冷静さを取り戻します。いい匂い、とか、肌触りが良い、とか、五感で落ち着ける方法がおすすめです。
● 普段から休憩を意識する。タイマーをかけて、休憩を取る。90分働いたら5分休むというように。

低覚醒
● 低覚醒になっている時は、無理をしないこと。安心を取り戻すことが大切。
● 安心できる場所で、背中を壁につけて座る、タオルケットに包まる、温かい飲み物を飲むなど。
● 安心して一緒にいられる人がいるときは、無理はせず、一緒に過ごす
● 「できてない」と責める気持ちは、自分を脅かし、安心を消してしまいます。自分に向けては、「疲れたね」「ベストを尽くしたね」「お疲れさま」を伝える方向で。

④自律神経を整えるためにできることを、生活の中に取り入れる。生活リズムを整える、とか、軽い運動をする、三食ご飯を食べるなど、できることから始めてください。暮らしを整えることは、自分を大切な存在だと尊重して扱うことです。
自律神経のアップダウンから目指す回復の姿とは?
過覚醒や低覚醒は、誰でも生きていたら起きることで、それが悪いわけではありません。
でも、無理して頑張り続けて、限界が来たらスイッチオフするというような両極端な動きではなくて、頑張ったら休む、ストレスを感じたらセルフケアをする、疲れた時には早く寝る、などの方法を通じて、程よい振れ幅にコントロールしていけるといいと思います。
また、安心と安全の源である腹側迷走神経を育てていくことも大切です。腹側迷走神経については、こちらをご覧ください。
こういった工夫をしても改善が見られないときや、ご自分だけで改善することが難しいとお感じになった時は、カウンセリングの利用も検討してみてください。
ご自分のペースを取り戻していかれますように!

