【解離性障害】原因・メカニズム・治療についてわかりやすく図解しました
東京・青山の心理カウンセリングルーム「はこにわサロン東京」の吉田(臨床心理士・公認心理師)です。
【解離性障害】という名前を聞いたこと、ありますか?
子どもの頃の虐待や、強い抑圧、事故や災害のトラウマなどによって生じる記憶の障害です。
名前の難しさや響きから、なんだか怖い障害(病気)と感じるかもしれません。
でも、【解離】は、心が自分自身を守ろうとして記憶を遮断・操作して生じます。
自分自身を守ろうとする心の働きなのですね。
今日は、【解離性障害】とはどのような病なのか、なぜ起きるのか、どのように治療したら良いのかについて、図解しながらわかりやすくお話したいと思います。
健康な人の記憶の状態
普通、わたしたちは、ひとりの人間として、幼少期から現在に至るまで、一貫した記憶を持って生活しています。
簡単な図にすると、こんな感じ。
では、【解離性障害】の場合の記憶の状態はどうなるのでしょうか?
解離性障害が生じると起きる記憶の障害とは?
【解離性障害】があるとこのように、記憶の中に、部分的に「空白期間」が生じます。
そのため、「自分が、ひとりの人間としてまとまりがある感覚」が弱くなったり、失われてしまったりします。
この「まとまり感覚の欠如」を【解離】と言います。
解離性健忘(かいりせい けんぼう)
【解離性健忘】というのは、心的ストレスを受けた前後の記憶が抜け落ちてしまっている状態です。
事故や災害にあった時などに生じ、強いショックから自分を守ろうとする心の「エアーバッグ」の役割をします。
大抵は、数日中に記憶が戻ると言われています。
解離性遁走(かいりせい とんそう)
【解離性遁走】は、ショックな出来事から身を守る【解離性健忘】とはだいぶ異なる理由から生じます。
それは、現在生きている中で、あまりにもストレスが強く、自分らしさを抑圧してしまっているため、心が一時的に「強制終了・リスタート」をしてしまう状態です。
「遁走」とついているののでお気づきかもしれませんが、気づいたら、全く縁もゆかりもない場所にいたり、時には以前の記憶を失ったまま、別の人格として長く生きていくということもあります。
何か、ミステリー小説やサスペンスドラマのようですが、「これまで生きてきた全ての記憶をなくしてしまわなければ生きていけないほどに強いストレス・抑圧があり、自分の意思では改善ができなかった」状態であり、とても苦しく辛い状態です。
解離性同一障害
いわゆる「多重人格」のことを指します。
人は、極度のストレスに晒されると、自分の経験をまとまりのある一人の人格の中に統合できなくなってしまいます。
ひとりの人間の中に複数の人格が作られ、日々の記憶については、記憶の空白が生じます。
この人格たちは、本人の心の中にあった「生きられなかった(抑圧されてしまった)自分たち」です。
解離性同一性障害の人の中に複数現れる人格のことを「交代人格」と呼びます。交代人格は、普段の本人とは年齢や性別性格などが大きく違い、趣味や嗜好までもが異なることが特徴です。
また、解離性同一性障害の方は、交代人格が出ているときは記憶を失っていることが多いと言われます。身の覚えのない服装や行動から、他者から指摘されてクリニックや相談機関を受診される方もいらっしゃいます。
ただ、本来、誰の心にも、このような様々で相反する性質は存在してはいるのです。
健康な時であれば、腹が立って「怒りっぽい自分」になったり、時に「心細くて誰かに慰めてもらいたい甘えん坊な自分」になったりしても、ひとりの自分として感じたり、記憶しておくことができますよね。
しかし、「わたしというひとつの器(自己)」が育っていないときに強いストレス(例えば親からの虐待)を受けた時に、自分が「割れて」しまうと【解離性同一性障害】となるのです。
(解離性同一性障害を発症する方は、小児期に強い虐待を受けていることが多いと言われています。)
離人症
外界から切り離されているように感じられる状態を指します。現実感がなく、夢の中にいるよう・ガラスの向こうにいるように感じます。
生命感・色彩感がなくなり、ものの見え方や聞こえ方が変化します。
例えば、物が平板に見えたり、逆にとても明瞭に見えたりします。また、対象物が歪んで見えたり、とても明確に・またはぼやけて見えていて、「まるでロボットになったよう」と表現される方もおられます。
音も、よく聞こえたり、逆によく聞こえなかったりし、時間感覚の欠如が生じる場合もあります。
上の図を、最初に紹介した「健康な人」と比べてみましょう。
離人症の方は、心の多くの部分が「凍っていて」普通に動かすことのできる範囲が狭くなってしまうことがお分かりになるでしょうか。
実際に、解離が生じていると、物事を感じる力や考える力が落ちてしまったり、日常のことや勉強など何も覚えられなくなってしまったりして、まるで「生きていないか」のように感じさせられることがよくあります。
また、本人は、辛いことがあって誰かに相談しているのに、話を聞いた人には「すごく辛そうな内容」と「本人の淡々として様子」にギャップがあって、理解してもらえなかったりすることも多いです。
解離性障害の原因は?
【解離性障害】は、圧倒的なストレスやトラウマが引き金となって発症します。
● 事故や災害でトラウマ体験をしたり、目撃したりする
● 堪え難い心理的葛藤から、受け入れがたい情報や感情を切り離す(例えば愛する人を失う、など)
このような強いストレスに晒された時に、その記憶を遮断したり、あたかも他人が経験したかのように処理することで、自分の胸のうちに納めようという心の働きです。
それは、心が自分を守ろうとしていることなのです。
また、この働きは、脳が緊急事態と判断して自動操業している状態なので、本人が意図して(例えば、得をしようとしてわざと)できることではありません。
【解離性障害】の治療
解離性障害はどのようにして治療すればよいのでしょうか。
理解する必要があるのは「お薬で解離性障害を治すことはできない」ということです。
まずは、脳が緊急事態を解除できるような支援が求められます。
具体的には、虐待がある場合などは安全な環境に物理的に移ることが必要ですし、事故や災害、大切な人を失ったショックなどの場合でも、その人が安心して過ごせる環境を確保することが第一です。
脳が緊急事態を解除すると、一時的に情緒不安定が増大して病状が悪くなったように感じられるかもしれません。
そのため、医療機関でのお薬の治療が必要なことがあります。
その上で、本人が信頼できるカウンセラーとのカウンセリングやトラウマケアを行っていくことが解離性障害の治療です。治療には時間がかかることが多いですが、ゆっくりご本人が「自分」を取り戻していくプロセスを応援していきます。
*解離が何らかの身体・脳の病気によって生じている可能性をチェックするために、ご自分・ご家族に気になることがあるときは、まずは一度、医療機関(精神科・脳神経内科)を受診することをお勧めします。受診できるかどうか心配なときは、事前にお電話で相談してくださいね。
【解離性障害】まとめ
解離性障害について、まとめました。
なんとなく「重たい病気」とか「心が弱いからなりそう」と誤解されることもありますが、緊急事態を生き延びるための脳の働きによるもので、本人の安全と安心を確保して、信頼できる人間関係を取り戻すことができれば、その人らしい人生を取り戻し・生きていくことができます。
一度しかない「わたしの人生」だから、緊急事態は解除して、自分らしく生きていけるといいなぁ!