「サンタクロースは本当にいるの?」と聞かれたらどう答えたらいい?

気になるところから読む
東京・青山の心理カウンセリングルーム「はこにわサロン東京」の吉田(臨床心理士・公認心理師)です。
早いもので、もう12月。
子どものいる家庭では、クリスマス・プレゼントのことで悩む時期ではないでしょうか。
プレゼントも悩ましいけど、もっと悩ましいのは、サンタクロース問題。
「サンタクロースは本当にいるの?」
という子どもの切実な問いかけに、大人は、どう応えたらよいのか?
「事実」を伝えたら、それでいいのか?
サンタクロースを通じて育んだことを、大切にしながら、サンタクロースを卒業するにはどうしたらいいのか?
そんな、小さいけれど切実な問題を考えてみたいと思います。
我が家にサンタクロースが登場した理由は?
そもそも。
子どものところに、サンタクロースがプレゼントを届けることになったきっかけはなんですか?
信仰のあるご家庭や、クリスマスをお祝いする習慣を持つご家庭以外は、「子どもの喜ぶ顔が見たくて」や「サンタクロースを信じるこころを育てたくて」というのが多いのではないでしょうか。
子どもが健やかに育つようにという親の願いと、サンタクロースのことを知って「自分のところにもきてくれるかな?」と期待している子どもの願いが合致して始まる。
サンタクロースの「閉じ方」はとても大事
だとすると、「サンタクロースは本当にいるの?」という問いかけに応える(サンタクロースの終わり方・閉じ方)はとても大切だといえるのではないでしょうか。
何年ものあいだ、親子で楽しいクリスマス(サンタクロースのプレゼント)を過ごしてきたのに、「本当はどうなの?」と子どもに詰め寄られ、困ってカミングアウトしてしまうのは、よくあることかとは思います。
が、いきなり”事実をストレートに伝える”のでは、子どもの方も、いくらそれが事実だといっても、裏切られた気持ちになってしまうのも仕方がないように思います。
たとえて言うなら、親子で一緒に雲に乗って旅をしていたのに、ひとりだけドスンと地面に落っことされてしまう感じ。びっくりするし、悲しくなるし、裏切られた気持ちにもなるでしょう。
大人側も、後味の悪い感じが残ってしまう。
事実は事実で仕方がないこと?
でも、事実、親がサンタクロースの代わりをしていたのだから、仕方がないとおっしゃるご家庭もあるでしょう。
確かに。
子どもが大人になるということは、「現実に向き合うこと」が含まれますから、「サンタクロースは親だった」と知ることが「大人になるプロセスのひとつ」ということは確かにできるでしょう。
しかしながら、その伝え方は、工夫がいります。
それまで親子で過ごしたクリスマスの思い出をふりかえりながら、子どもの成長を喜び(寂しさをかみしめ)、クリスマスに込めた親の願いを伝える機会にすることができたら・・・。
そうできたら、サンタクロースを通じて育んだことがしっかりと子どもの中に根づいていくことでしょう。
サンタクロースの体験が各家庭オリジナルだったことを思えば、伝え方もオリジナルを探っていただくのがいいと思うのですが、ヒントになるかもしれない考え方を2つご紹介しましょう。
ヒント(1)目に見えない大切なものを信じる力を養う
サンタクロースを信じることは、子どもにとって、目に見えぬ大切なものを信じる力を養うこと。
だから、サンタクロースをもっと大事にしなければいけない。
松岡享子『サンタクロースの部屋 子どもと本をめぐって』
子どもの成長に欠かせないものといえば、まず親の愛情です。
親は、子どもにミルクを与え、オムツを替え、抱き上げ、あやし、寝かしつけてやり。さまざまなお世話を通じて、子どもへの愛情を表現しますよね。
目に見えるお世話を通じて子どもが受け取る(子どもの中に育まれる)のは、愛されている感覚、安心感、自信、信頼感。
これら、子どもがやがて独り立ちするために必要なことは全て、目に見えないものではありませんか?
サンタクロースを信じるということは、これらの目に見えない大事なものをこころのなかに育てる「器」を作ることになります。
だからこそ、不用意に「サンタクロースは親」と事実を突きつけることで、この器にひびを入れてしまうのは残念ではないでしょうか。
松岡さんはこうもおっしゃっておられます。
見えないものを信じることを恥じ、サンタクロースの話をするのは子どもをだますことだというふうに考えるおとなが、子どもの心のふしぎの住むべき空間をつぶし、信じる能力を奪っているのではないだろうか。
松岡享子『サンタクロースの部屋 子どもと本をめぐって』
サンタクロースを信じられる子どもの力は、誇りにこそ思え、恥じることではありませんよね!
↓ご参考までに
ヒント(2)贈りものをする・喜ぶ体験をする
子どもが目に見えないものを信じること。
それは、もちろん、サンタクロースには限りません。
魔法使い。
妖精。
小人。
鬼。
魔法の扉に魔法の絨毯・・・
たくさんあるし、どれも大切なのですが、サンタクロースには、ひとつとてもユニークな点があります。
それは、贈り物をもらう(贈る)という行為に関するということ。
贈り物をするというのは、人間の文化であり、コミュニケーションの原形のようなものではないでしょうか。
子どもは、サンタクロースという大いなる力と愛情の持ち主から贈り物をもらう体験を通して、やがては、自分も誰か大切な人に贈り物をする力を培っていくのではないかと思うのです。
贈り物は、もちろん、高価なプレゼントである必要はありません。
「あなたがいてくれて嬉しい。ありがとう!」という気持ちを、言葉や行為や物で伝えること。サンタクロースからプレゼントをもらうということは、その表現であるように思います。
親がサンタクロースになるのは、親自身が、子どもの喜ぶ顔という贈り物をもらえるから、するんじゃないかな。
ですから、サンタクロースが親であるということは、ちょっと残念ではあるけれど、やっぱり良かった、嬉しかったな(お互いに)という思いが残っていくといいなぁと願うわけです。
そうして、子どもの中に「自分もサンタクロースになれるんだな」という思いが育ってくれたらいいな、とも。
いろいろなクリスマス
では、わたしの拙い文章では伝えきれない、いろいろなクリスマスを、何冊かの本を通じてご紹介したいと思います。
これらの物語の中には、子どもたちがクリスマス・サンタクロースの大切なことを体験する様子が描かれていますよ。
*ご参考のためにアマゾンリンクをつけていますけど、どれも、図書館に置いてある本ですから、お近くの図書館で探してみてくださいね。
家族の喜ぶ顔がプレゼントだと気づいたクリスマス
『大草原の小さな家』でおなじみのこのシリーズ。
大草原で暮らすローラのところには、毎年サンタクロースがプレゼントを届けにきていて、それをローラはとても楽しみにしていました。
けれど、苦労して育てた農作物をイナゴに食べられてしまった年。
かあさんは、ローラに「今年のクリスマスは、とうさんのために馬を買いましょう」と言うのです。
困惑するローラに、かあさんは「もう、あなたたちはわかってもいい年齢だと思いますよ」と諭します。
今年、うちには、クリスマスのプレゼントを買う余裕がないのです。お金は、家族が生きていくために使わないといけないのです。
ローラは「はい、かあさん」と同意しながら、内心とてもがっかりします。
さて、クリスマスはつまらなかったでしょうか?
いいえ。
とうさんの喜ぶ顔。
家族で一緒に祝えること。
それがプレゼントだとわかる最初のクリスマスだったんです。
初めてプレゼントを買う体験
北欧の農家の子どもたちのお話です。
4人兄弟の長男オーラ(11歳)は、ある秋の日に街の雑貨屋さんにいました。
夏の間、牛追いの手伝いをして獲得したお金を持っていたので、なんだか少し大人になった気持ちで、好きなものを買えるワクワクした気持ちで、ぶらりと立ち寄ったのです。
すると店頭には、オーラがすぐにでも手に入れたい面白そうな本が入荷していました。(オーラは読書家なんです。)
でもね。ちょっと見栄もあって、自分の欲しい本ではなく、お父さんとお母さんにあげるクリスマスプレゼントを買ってしまうんですよ。
帰り道、オーラは、後悔します。きっとあの本はすぐに売り切れてしまうだろうな。やっぱり自分の欲しいものを買っておけばよかったな。
でも、初めて自分でプレゼントを買った誇りも感じていました(早速、弟に自慢してます)。
さて。
小さな家の中。子どもたちの様子に気づいたお父さん・お母さんは、ちゃんとオーラの欲しかった本をクリスマスプレゼントにしてくれたんですよ。(よかった!)
オーラの、この初体験(ちょっと背伸びのクリスマス体験)は、オーラをひとつ大人にしたことでしょうね。
魔法のプレゼント
『グロースターの仕立て屋』
ご存じビアトリクス・ポターの作品です。
ある老齢の仕立て屋がやり残した仕事を、ネズミたちが仕上げてくれます。
ボタンひとつ残して。
「糸が足りぬ」とメッセージがありました。
仕立て屋はどんなに驚いたことでしょう!
不思議な、何か大きな愛情に包まれている感覚だったことでしょうね!
この物語、ネズミではなく、人間がこっそり仕上げておいてあげたというお話がもとになっているといいます。
プレゼントは、高価な物でなくても構わない。
でも、愛情とサプライズは大事ってことですね。
クリスマスの秘密の楽しみ
クリスマスって、家の中に秘密が増えませんか?
こっそりと、プレゼントを準備する。
何が欲しいのか、探りを入れたり、入手の手はずを整えたり。
買ったり、作ったり、包んだり。
できたら、隠す!
見つからないように・・・注意を要する。
とにかく、忙しいけど、わくわくする忙しさです。
石井桃子さんの『山のトムさん』は、桃子さんの実体験に基づくお話だと思いますが、北国で過ごすある「家族」の、戦後の物のない時代に、知恵と工夫で贈り物をしあうにぎやかで晴れやかなクリスマスの模様が描かれています。
日々の労働が忙しく、手袋が片っぽしか編み上がっていなかったり。
プレゼントのあてがなくて困っていたら、クリスマスのご馳走を仕留められたり。
こんな風に、みんなが少しずつ知恵と工夫を寄せ合って、楽しいクリスマスが過ごせたら、どんなにいいことでしょう!
最後に・・・注意してほしいことをひとつ
サンタクロースの秘密を子どもにどう伝えるのかについて書いてきました。
目に見えない大事なことを信じる力を育むサンタクロース体験を、ぜひ、大切な親子の・家庭の体験としてとらえ、伝えてあげてほしい。
赤い服のサンタクロースが来なくても、家族の喜ぶ顔を見られる心温まるクリスマスにしてほしい。
正解があるわけではありませんから、どうぞ、ご家庭のオリジナルなクリスマスを作ってくださいね。
最後にひとつだけ。老婆心からの注意事項があります。
サンタクロースのことを子どもに伝える時は、どうぞ、子どもの様子・表情をじゅうぶんに観察しながらお話してください。
親は「もう信じてないだろう」と思っても、子どもはまだ信じていることも(よく)あります。
「そんなのわかってた」と格好つけていても、内心がっかりしたり、寂しかったりすることもあります。
くれぐれも、お空からどしんと放り出してしまうことのないよう、ご注意ください。
では、みなさん。
どうぞ、すてきなクリスマスをお過ごしください。