小中高校生の不登校や不適応にひそむ母子分離不安。愛着障害との関係も。
東京・青山の心理カウンセリングルーム「はこにわサロン東京」の吉田(臨床心理士・公認心理師)です(オンラインカウンセリング・電話カウンセリング受付中)
母子分離不安という言葉を聞いたことがありますか?
一般的には、幼稚園などで母親と離れることを嫌がって登園できないことなどを指し、小学生でも低学年のうちはしばしばみられます。
しかし、この母子分離不安が小学校の中学年や高学年、中学生や高校生にもみられることがあります。
母子分離不安が起きると、母親・家庭から離れることに不安を感じるために、年齢に関らず学校に行き渋る・不登校が生じやすくなります。
なぜ生じるのか?
解消するにはどうすればよいのか?
について書いてみたいと思います。
母子分離とは何か?
生まれたばかりの赤ちゃんは、親の温かいお世話なしに生きることができません。
お腹が空けばミルクを、オムツが濡れたらオムツ替えをし、寂しい時には抱っこしてもらう。この時期、親子はまるで二人でひとりのような一体感を味わいます。
この一体感を通じて、子どもは安心感を獲得しますし、親も心身ともにきつい乳幼児のお世話を乗り切ることができるのです。
さて、1歳前後になり、子どもがハイハイしたり、よちよち歩いたりするようになると、子どもは自分の力で親から離れることができるようになり、好奇心のおもむくままに探索し始めます。
けれど、何か少しでも不安なことがあると(例えば見知らぬ人が部屋に入ってきた)親元に戻ってきます。こうして危険を回避し、安心を確保しているのです。
この繰り返しをするうちに、次第に子どもは自分のこころの中に「親」を持てるようになります。こころの中に親を持てるようになると、親から長い時間離れることができるようになります。これが、母子分離です。
母子分離に必要な愛着とは?
子どもが自分のこころの中に「親」を持てるようになるためには、親子の適切な愛着関係が必要です。
愛着、というのは、赤ちゃんや小さな子どもの時期に、親がしっかりと自分を見守り、いつでも困ったら助けてくれるという体験を通じて、子どもが親に対して絶対的な信頼感を持つことです。
子どもは、親に対して感じた信頼感や安心感を親以外の人間関係にも適用していくので、愛着は健全な人間関係を作っていくための基盤になります。
もし親が子どもが泣いていても放っておいたり、怒鳴るなどのマルトリートメント(不適切な子育て)をすると、親子の愛着が作れません。それが愛着障害です。
母子分離不安はなぜ生じるのか?
では、母子分離不安はなぜ生じるのでしょうか?
年齢ごとに説明していきます。
就学前の子ども(保育園・幼稚園)の母子分離不安
幼少期の子どもの母子分離のペースは、子どもによって様々です。
親から離れることに慎重な子どももいれば、好奇心の方が強く働く子どももいます。
保育園や幼稚園の入園時には母子分離不安が生じることは自然なことです。
ひと月もすると多くの子どもたちは不安にならずに(母)親と離れられるようになりますが、不安が続く子どもも見られます。
子どもがなかなか笑顔でバイバイできない、登園渋りが続くと親は不安になってしまいますが、就学前の母子分離不安は「まだまだあっても当たり前」の年齢ですから、焦らず、おおらかな気持ちで待ってあげてください。
登園したがらない・お休みしたいと訴える時は、無理をせず、都合がつくならおうちで過ごしましょう。「必要ならお家で過ごせる」安心感がある方が、登園しやすくなります。
(母)親が不安になるのを察知して不安を高めるお子さんもいますから、親側が不安にならずにいられる・相談先を持つことも大切です。
小学校低学年の母子分離不安
小学1〜2年生になると、母子分離不安は、母親と離れることより、離れて過ごす場所に馴染みがあるか、居場所として機能しているか?に影響を受けます。
幼稚園では一度も母子分離不安を見せなかったのに、小学1年生では母子分離不安が生じて長く続く子どもなどは、見知らぬ場所への不安が強買ったり、「ちゃんとやりたい」プレッシャーの強い子が多いようです。
つい無理強いして登校させてしまいがちですが、不安を押し殺しての登校はお勧めできません。安心して学校に馴染めていないと、その場は頑張って通ったとしても、新しい不安要素が生じた時などに登校渋りがぶり返してしまいます。
「1年生になったから」と、生活自立を求めてしまいがちですが、母子分離不安がある場合は本人が楽にひとりでできるようになるまで親が一緒に行う・手伝う方が望ましいです。
学校生活に馴染み、学校で不安になっても先生や友だちに助けを求めることができることが体感できるようになると、母子分離不安は解消していきます。もし、小1で母子分離不安による登校しぶりがあるなら、ゆっくり1年かけて学校に馴染んでいけるように助けてあげましょう。
前思春期(小学3年生以降)の母子分離不安
小学3〜4年生になると、子どもたちは「前思春期」を迎えます。
(子どもによって差があります)
前思春期は、子どもが精神的に親離れをし始める時期で、思春期の前段階です。
前思春期より前の子どもたちにとって、親は“全知全能”の存在です。怖いことがあっても、お父さんやお母さんが「大丈夫だよ」と言って抱きしめてくれたら不安は消し飛びました。
でも、前思春期になると、今まで通り親が「大丈夫」と言ってくれても「本当に大丈夫なのかな?」と疑問が湧いてきてしまう。「親は万能ではない」ことに気付いてしまう。
前思春期は、子どもたちが命の有限さに気づく頃でもあります。「死ぬってどういうこと?」や、世の中には親には守りきれない不条理があることに気づき、とても不安になる。それなのに、親がそれを払拭することができないという二重の辛さ!
このように、小学校低学年の頃とは質の違う不安・親子関係に影響されて、母子分離不安が生じます。親元にいても、幼少期のように完全な安心を感じられるわけではないのですが、それでもやはり、一番安心で安全だと感じられるところ=親・家庭にいたいと望むのです。
この時期の子どもたちにとって、不安を払拭する方法の一つが、同年齢の仲間と“群れること”です。仲間の一体感や勢いで、恐怖をうまいこと回避しているのだと感じさせられます。
就学前や小学校低学年では母子分離に問題がなかった子どもに、この年齢で初めて母子分離不安が生じると、親子ともにとても心配になってしまうと思いますが、メカニズムを理解して、不安が減じるまでは無理のない過ごし方を工夫してくださるといいなと思います。
思春期(中学生・高校生)の母子分離不安
思春期に入ると、子どもたちは、心身ともに親からの自立をスタートさせます。
行動範囲も広がりますし、自分と向き合う時間が増えていきます。親に知られること、親に助けられることを嫌がります。
「もう子どもじゃない」という気概を持ちますが、一方で、まだなかなか思うようにいかず自信を失ったり、不安になったりすることも増えます。
そのために、親に対して反抗する・離れる態度をとる一方で甘えてくることも多いのです。
親にしてみると、子どもの態度にムラがあると感じられると思いますが、上手に甘えを受けとめてくださると子どもの不安が軽減します。
中には、不安が強くて一時期すっかり親にべったり、離れられなくなってしまうこともあります。年齢不相応の言動に親も不安になってしまうかもしれませんね。
でも、メカニズムは幼少期と同じす。不安な時は親元で安心安全を確認する・不安がなくなれば再び好奇心を持って外に出ていきます。
「親の育て方が悪かったのでは?」とか「このまま母から離れられず、引きこもりになったらどうしよう?」などと思って不安になるかもしれませんが、大丈夫です。不安な時期が終わったら、自然と離れていきますよ。
マルトリートメントや愛着障害による母子分離不安
ここまで成長ステージごとに生じる母子分離不安についてお話しました。
実は、年齢によって生じるものとは別に、マルトリートメント(不適切な子育て)や愛着障害によって生じる母子分離不安があります。
マルトリートメントというのは、子どもに対して暴力や暴言、ネグレクト、否定、責める、脅し、操作、親の都合や価値の押し付け、支配などの不適切な子育て全般を指す言葉です。
(マル=悪い、トリートメント=子どものあつかい)
親子関係は、子どもにとって人間関係の安心や信頼の基礎ですが、マルトリートメントや愛着障害によって親との間に基本的な信頼関係が得られないと、子どもは人や社会と安定した相互関係を築くことがむずかしくなります。
そのため、既にお話しした成長過程における母子分離不安が生じることもあります。家庭に安心できる基地がないので、不安や不適応が長期化することもあります。
しかし、いちばんの問題は、マルトリートメントや愛着障害のある親子関係では、親が子どもの成長を喜ばず、バカにしたり、否定したり、貶めることです。
子どもが成長し、自立する様子に対しても同じような批判をすると、子どもは成長する自分を肯定することが難しくなります。
このように困難な状況のもとでも、成長する力や思春期の勢い(親への反発)に助けられて、子どもは少しずつ自立しようとするのですが、それを親から否定されたり、責められると、親から自立することが悪いことのように感じられてしまうのです。
親によっては、親の言う通りにしている限り愛情を注ぎ、少しでも違うことをすると手のひら返しに愛情を絶つことで子どもを操作することもあります。この場合も、子どもが自立をすることはとても難しい。
親離れする自分を責めたり、親の願いを叶えよう(成長するのをやめよう)としたりして、自分でも訳がわからなくなってしまいます。
パニックや自傷行為が生じたり、何をしても無駄だと感じて抑うつ・不登校・ひきこもりになってしまうこともあります。
このような状態で心配した学校の先生やスクールカウンセラーなどが本人や親との対話を試みるけれど、親側の協力を得ることはやはり困難な場合が多いです。
どうすればよいか。
学校など、家庭の外で出会う大人たちが親代わりを果たす必要があります。
安心・安全な関係を築くこと、よい時も悪い時も変わらぬ態度で認め、励まし、労い、温かく接すること。基本的な信頼感を親から得られなかったことは本当に残念なことではあるが、親でなくても大丈夫だということを伝え続けること。
とても困難な道筋で、時間がかかることも多いけれど、このような代理の関わりを得て、母子分離不安を克服して、成長していくこともできますよ。
母子分離不安を解消するカウンセリングは?
母子分離不安には、成長ステージや親子関係によって異なる悩みが生じることをお話してきました。
就学前や小学校低学年の母子分離不安は、親が慌てず、大らかに見守れたら穏やかに解消していきます。
前思春期の母子分離不安は、理解が難しいこともあるので、専門家に相談して、親が子どもの状態を理解して関わることが必要かもしれません。
思春期は、身体も態度も大きくなって甘えられても困惑してしまうかもしれませんが、不安な気持ちを温かな気持ちでサポートしてくれたら大丈夫です。
しかし、思春期に非常に不安定な母子分離不安が生じて、パニックや自傷行為などの心配な様子が見られたり、無気力で引きこもってしまうようなことがある時は、専門家を中心に学校にも協力してもらいながら、子どもと家庭をサポートしていくことが不可欠です。
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