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内受容感覚の問題〜感じない身体・感じすぎる身体のデメリット

 
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外資企業勤務後、心理臨床を志す。臨床心理士の資格取得後は東京・神奈川・埼玉県スクールカウンセラー、教育センター相談員などを経て、2016年、東京都港区・青山一丁目に「はこにわサロン東京」を開室。ユング心理学に基づいたカウンセリング、箱庭療法、絵画療法、夢分析を行っている。日本臨床心理士会、箱庭療法学会所属。
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東京・青山の心理カウンセリングルーム「はこにわサロン東京」の吉田美智子(臨床心理士・公認心理師)です。

 

「自分の気持ちがわからない」「無理しすぎる」といった悩みに内受容感覚が関係していることがあります。

 

この記事では、内受容感覚とは何か。なぜ、内受容感覚が弱すぎたり強すぎたりすると、自分の気持ちがわからなくなるなどの生きづらさを引き起こすのか、回復するためにはどうすればいいかについてお話していきます。

 

内受容感覚とは何か

内受容感覚とは簡単に言うと、「身体の内側で起きていることを感じ取る感覚」のことです。

たとえば、

● 心臓がドキドキする

● 呼吸が浅い

● 喉が詰まる

● 肩が凝る

こうした身体の内側の状態を感じる力です。

 

私たちは普段、感情を頭だけで感じているように思いがちですが、実際には、身体の反応とセットになっています。

たとえば、

● 悲しい時には胸が締めつけられる。

● 不安な時には呼吸が浅くなる。

● 安心すると身体の力が抜ける。

 

つまり私たちは、身体を通して感情を感じています。

だから内受容感覚があることで、「今、不安なんだな」「本当は悲しかったんだな」「もう疲れているんだな」のように、自分の状態に気づきやすくなります。

 

内受容感覚が感じられないと、自分の気持ちがわからなくなる

ですから、内受容感覚が感じられないと、自分の感情もわかりにくくなります。

本当は傷ついたのに、内受容感覚に気づけないために「平気です」と言ってしまう。

疲れていることに自分でも気づけず、頑張り続けてしまう、ということが起きます。

すると:

● 突然動けなくなる

● 朝起きられなくなる

● 身体症状が強く出る

● 感情が爆発する

●逆に何も感じなくなる

という形で、身体が強制終了のような状態になることがあります。

 

内受容感覚を感じすぎても、自分の気持ちがわからなくなる

ところが逆に、内受容感覚を感じすぎても、自分の感情がわかりにくくなることがあります。

例えば、初対面の人に会った時、本来なら「少し緊張しているんだな」と受け取れる心臓のドキドキが、とても強く圧倒されるように感じられてしまうことがあります。

すると、本当は緊張しているだけなのに、「何か危険なことが起きるのではないか」「身体がおかしくなってしまったのではないか」と感じてしまうことがあります。

さらに、喉が詰まる感じや背中がゾワゾワする感じなど、他の身体感覚も重なって、不快感でいっぱいになってしまうことがあります。

すると:

● パニックになる

● 感情が爆発する

● 頭が真っ白になって固まる

● 人や場所を避けるようになる

● 何が起きているかわからなくなる

ということが起きます。

つまり、内受容感覚は「感じない」ことで自分の気持ちがわからなくなることもありますが、「感じすぎる」ことでも、自分の気持ちが見えにくくなることがあるのです。

 

内受容感覚の困難を感じやすい人(発達障害・複雑性トラウマ)

内受容感覚の困難は、誰にでも起こる可能性がありますが、特に発達障害複雑性トラウマ(C-PTSD)の方に見られやすいことがあります。

ただし、その背景や起こり方は同じではありません。

身体の感覚そのものを整理しにくい場合もあれば、過去の体験によって身体の感覚に強く反応するようになっている場合もあり、それぞれ少し違った特徴があります。

 

発達障害と内受容感覚

発達障害の方の場合、内受容感覚に特徴が見られることがあります。

たとえば、身体の感覚の中でも敏感な部分と感じにくい部分の差が大きかったり(感覚過敏や感覚の鈍麻)、さまざまな身体のサインをひとつの意味として整理することが難しかったりすることがあります。

例えば、「膀胱が拡張している」ことは感じ取れても、それが尿意だと気づきにくい。

また、「胃が凹む」「血の気が失せる」「頭が重い」等の情報がバラバラに感じられるが、自分が空腹なのか疲れているのかがわからない、のように、感覚を統合して意味づけることが苦手な場合があります。

 

複雑性トラウマと内受容感覚

複雑性トラウマ(機能不全家族で育った経験、いじめやハラスメントなどを経験した方)の場合は、つらい体験に対処してきた結果として、内受容感覚が感じにくくなったり、逆に敏感になりすぎて苦しくなったりすることがあります。

例えば、両親の不仲が続き、家の中でいつも親の機嫌をうかがわなければならなかった子どもを考えてみましょう。その時、子どもの身体の中では、「怖い」「心臓がドキドキする」「お腹が痛い」のような不快な反応が起きていただろうと察せられます。

子どもにとって、こうした苦しさを感じ続けることはとても大変なことです。そのため、「感じないことで自分を守る」という適応が起こることがあります。

逆に、親の機嫌を察して動く方が安全だったという場合もあるでしょう。その場合は、気配のみならず身体の感覚をも敏感にキャッチすることが自分を守る方法です。

いずれの場合も、大人になってからも、身体の感覚がわかりにくく、自分を大切にすることが難しくなったり、逆に、いつも感じすぎて疲れてしまったり、生きづらさにつながることがあります。

どちらも、神経系が、過去の危険な環境に合わせた設定のままになっている状態なのです。

 

身体は「今」を感じているだけではなく、「未来」を予測している

最近の研究では、私たちは身体感覚をただ感じているだけではなく、身体感覚を使って未来を予測していることがわかっています。

たとえば子どもの頃、「怒鳴られる度に怖くて心臓がドキドキする」体験がよくあったとします。すると身体は「心臓がドキドキすることは危険の印」だと学習します。

すると大人になって、例えば、人前で発表するので緊張して心臓がドキドキした時にも、「悪いことが起きる」「誰かから責められるかもしれない」「危険だ」と過剰に反応してしまい、ますます苦手意識が募ったり、ぐったり疲れ果ててしまう、ということが起こります。

これは、火災報知器に例えるとわかりやすいです。

通常、火災に反応して警報が鳴るはずの火災報知器が、やかんのお湯が沸騰しただけで鳴ってしまったりする過剰反応が起きています。

身体が危険に合わせて感度を最大にしていたのです。それは、過去には本当に必要なことでしたが、その設定のまま生きることも、とてもしんどいことです。

内受容感覚と海馬の混乱

脳には海馬という部分があります。

海馬をすごく簡単に言うと、「これはいつ、どこで起きたことか」を整理する図書館司書のような存在です。記憶が入ってきたら、「これは子どもの頃のこと」「これは今日のこと」と棚分けしてくれます。

でも強いトラウマがあると、この整理が難しくなることがあります。

本来なら、「昔の危険→終わった出来事」になるはずなのに、脳が、「まだ続いているかもしれない」と扱ってしまう。その結果、今起きていることより、過去の記憶の方が強くなることがあるのです。

すると、目の前では何も起きていないのに、身体だけが昔と同じように反応してしまうことがあります。

今の人間関係なのに、昔の怖さがよみがえる。今は安全な場所なのに、身体は危険の中にいるように感じてしまう。つまり、過去の記憶が「過去の出来事」として本棚に収まりきらず、「今ここ」に飛び出してきてしまうことがあるのです。

そのため、複雑性トラウマの方は、単に「昔のことを思い出している」のではなく、身体や神経系が、今もその出来事が続いているかのように反応し続けてしまうことがあるのです。

 

消去学習の難しさ

私たちの脳には、本来、「あ、大丈夫だった」と学び直していく力があります。

例えば、犬に噛まれた経験があると、一時的に犬が怖くなることがあります。でも、その後、優しい犬に何度も会う経験をすると、少しずつ、「全部の犬が危険なわけではない」と学び直していきます。これを「消去学習」と言います。

しかし、複雑性トラウマがあると、海馬の「過去と現在の整理」が難しくなることがあります。そのため、今起きていることを経験していても、身体の中では昔の危険の記憶が強く呼び起こされてしまうことがあります。

例えば、運動して心拍数が上がっただけで、身体が「危険だ」と感じてしまうということが起きます。「運動は苦手・危険」と感じると、運動を避けてしまうようになり、安全だったかどうかを確かめる機会がなくなってしまいます。

そのため、身体は過去の危険に合わせた設定のままになり、「今は大丈夫」という情報が入りにくくなってしまいます。

 

「信号」と「雑音」が混ざる

このように、過去の危険の記憶が強く働き、「今は大丈夫」という新しい情報が入りにくくなると、身体から届く情報そのものも混乱しやすくなります。

複雑性トラウマでは、身体が出している大切な「信号」と、それに混ざる不安や危険予測の「雑音」の区別が難しくなることがあります。

ラジオに例えると、普通なら、「今日はよいお天気です」とはっきり聞こえるところが、

 

「今日は……ザザザ……天気……ザザザ……ザザザ……」

 

というように、雑音が入り込んでしまうイメージです。

すると、本当は、「少し疲れている」とか「少し緊張している」だけかもしれないのに、身体の情報が混乱してしまい、

● 自分が何を感じているかわからない

● 何も決められない

● 不安なことを全部避ける

ということが起こりやすくなります。

逆に、衝動的な行動や無謀な行動をしてしまうこともあります。一見すると正反対の反応に見えますが、

どちらも、「身体が出している情報をうまく読み取れなくなっている」という点では共通しているのです。

 

回復で大切なのは「身体感覚=危険」を変えていくこと

程よい内受容感覚を取り戻すために大切なことは、身体感覚を消すことではなく、「身体感覚=危険」ではないと身体が学び直すことです。

つまり、「身体感覚=警報」から、「身体感覚=情報」へ変えていくことです。

たとえば、胸がドキドキした時に、「危険!」ではなく、「緊張しているんだな」「身体が危険に対処できるように準備してるんだな」「でも、今ここには危険はないな」と少しずつ経験していくことです。

 

最初は安全な感覚から始める

ただし、急に身体感覚に集中すると苦しくなることもありますから、無理をせず、安全な感覚から始めましょう。たとえば、

● 足裏が床についている感じ

● 背中が椅子に支えられている感じ

● 温かい飲み物が身体に入る感じ

● 風が気持ちいい感じ

● 好きな手触り

こうした安全な感覚から始めることです。

 

また、ストレッチやヨガ、マインドフルネスなどは、おすすめのエクササイズですが、「落ち着くため」というだけでなく、「身体を動かしても大丈夫」「不快感や呼吸の乱れが起きても落ち着ける」感覚を取り戻す方法としても、有効です。

内受容感覚:まとめ

複雑性トラウマの方の内受容感覚は、感じにくいこともありますが、感じすぎて不安を高めてしまうこともあります。

感じすぎて不安になりやすい場合は、感じやすさを減らそうとするのではなく、感じた情報を穏やかに、より実際に即した情報に置き換えられるようにしていくことが大切です。

 

 

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