東京・青山の心理カウンセリングルーム オンライン・電話対応可

オンラインやお電話でも相談できます

失感情症(アレキシサイミア)とは?特徴と治療(セルフケア・カウンセリング)

 
この記事を書いている人 - WRITER -
アバター画像
外資企業勤務後、心理臨床を志す。臨床心理士の資格取得後は東京・神奈川・埼玉県スクールカウンセラー、教育センター相談員などを経て、2016年、東京都港区・青山一丁目に「はこにわサロン東京」を開室。ユング心理学に基づいたカウンセリング、箱庭療法、絵画療法、夢分析を行っている。日本臨床心理士会、箱庭療法学会所属。
詳しいプロフィールはこちら

東京・青山の心理カウンセリングルーム「はこにわサロン東京」の吉田美智子(臨床心理士・公認心理師)です。

 

失感情症(アレキシサイミア)は、自分の感情を適切に認識し、言葉で表現することが難しい状態を指します。自分が何を感じているのか分からなかったり、感情を言葉にするのが苦手だったりするため、対人関係やストレスへの対処に影響を及ぼします。

 

「感情がない」と誤解されることもありますが、実際には感情は存在しているが、それを認識・表現できにくいという状態です。

 

失感情症(アレキシサイミア)の特徴

自分の感情を理解するのが難しい

失感情症の人は、自分の感情を正確に理解することが難しいです。「なんとなくモヤモヤする」「落ち着かない」と感じても、それが怒りなのか悲しみなのか判別できず、はっきりしないまま終わることが多いです。

 

そのため、ストレスや疲労が蓄積しても、それに気づかないまま無理をしてしまうことがあります。

 

さらに、「今、どんな気持ち?」と聞かれると、即答できずに戸惑うこともあります。

 

自分の感情を理解できないため、日常生活で漠然とした不安や孤独を感じることが多くなります。

 

感情を言葉で表現するのが苦手

自分の感情を言葉にすることが苦手で、特に強い感情を表現する際に「なんとなく」「まあまあ」「別に大したことない」といった曖昧な言葉を使う傾向があります。

 

感情を言語化できないため、周囲の人からは「何を考えているか分からない」と思われることが多いです。

 

また、気持ちを伝えられないことで、コミュニケーションが難しくなり、人間関係で誤解が生じることもあります。

 

感情を適切に表現できないと、トラブルが起きた際に自分の意図を説明できず、周囲との関係にストレスを感じやすくなります。その結果、感情を伝えること自体を諦めてしまい、ますます孤立しやすくなるという悪循環に陥ることもあります。 

 

他人の感情を読み取るのが苦手

他人の表情や声のトーン、態度の変化から感情を察することが苦手なため、相手の気持ちを無意識のうちにスルーしてしまうことがあります。その結果、共感や気遣いが求められる場面でも適切な反応ができず、「冷たい」「鈍感」と誤解されてしまうことが多いです。

 

特に、感情を言葉ではなく態度で表現する人とのコミュニケーションが難しく、相手が怒っていることや悲しんでいることに気づかないことがあります。そのため、人間関係での摩擦が生じやすく、対人ストレスを抱えることが多くなります。

 

無意識のうちに相手を傷つけてしまうこともあり、人との関わりに自信を持ちにくくなることもあります。 

 

生活の中で感情的な充足感が少ない

楽しいことがあっても、心からのワクワクや高揚感を感じにくいです。また、悲しい出来事があっても、涙が出なかったり、心の奥に響いてこなかったりすることがあります。

 

感情の起伏が少なく、日々の出来事に対する反応が淡白になりがちで、「何をしても楽しいと感じられない」「人生が空っぽに感じる」と思うこともあります。そのため、趣味や好きなことが続かず、やる気が湧かない状態になりやすいです。

 

また、人と過ごしていても「みんなは楽しそうだけど、自分だけが何も感じない」と孤独感を抱えることもあります。 

 

ストレスが身体症状として現れやすい

感情を抑え込む習慣があるため、ストレスをうまく発散できず、身体に影響が出やすいです。たとえば、理由もなく胃が痛くなったり、肩こりや頭痛が頻繁に起こったりすることがあります。

 

特に、自分ではストレスを感じていないつもりでも、身体が無意識のうちに反応してしまい、不眠や食欲不振、動悸などの症状につながることもあります。

 

さらに、原因不明の体調不良が続くと、周囲から「気のせいでは?」と言われることがあり、余計にストレスをため込んでしまうこともあります。

 

感情を抑圧し続けることで、自律神経のバランスが崩れ、長期的な体調不良につながるケースもあります。

 

失感情症(アレキシサイミア)になりやすい人は?

幼少期に感情表現を抑圧された人

幼少期に「泣くな」「怒るな」「我慢しなさい」と言われ続けた人は、感情を表に出すことが難しくなります。

 

親の機嫌を損ねないように顔色を伺い、自分の気持ちを抑え込むことが習慣になっているため、成長してからも感情を素直に表現できなくなることが多いです。

 

また、「感情を出すと迷惑をかける」「弱い人間だと思われる」といった思い込みが強くなり、無意識のうちに感情を抑制するクセがつきます。

 

こうした環境で育った人は、大人になっても「自分が何を感じているのか分からない」「喜びや悲しみを感じにくい」といった失感情症の傾向を持ちやすくなります。 

 

過去にトラウマやストレスを抱えた人

いじめ、虐待、機能不全家族などの環境で育った人は、感情を閉じ込めることが生存戦略になりやすいです。

 

安全な環境で感情を自由に表現する経験が少なかったため、「感情を出すと危険」「何を感じても意味がない」と無意識に思うようになります。

 

また、強いショック体験の後、感情を麻痺させることで心を守ろうとする解離症状が現れることもあります。

 

その結果、嬉しいことがあっても喜びを感じにくくなり、悲しいことがあっても涙が出ないなど、感情の鈍麻が続くことがあります。この状態が慢性化すると、失感情症として定着しやすくなります。 

 

理屈や論理を重視するタイプの人

感情よりも理屈や論理的思考を優先する人は、感情を軽視しがちです。問題が発生したときに、「今どう感じているか」ではなく、「どう解決すべきか」に意識が向かう傾向があります。そのため、感情を整理することが後回しになり、自分の気持ちを自覚する機会が減ってしまいます。

 

幼少期から「理論的に考えなさい」「感情的になるのはよくない」と教えられてきた場合、この傾向はさらに強まります。結果として、喜怒哀楽の感覚が鈍くなり、気づかないうちに失感情症の状態に陥ることがあります。 

 

強い責任感を持ち、感情を後回しにしがちな人

「やるべきことを優先するべきだ」「感情より責任が大事」と考える人は、自分の気持ちを後回しにすることが多くなります。

 

仕事や人間関係において、「今の自分の気持ちよりも、相手の期待に応えることが重要だ」と考えがちです。そのため、無意識のうちに自分の感情を抑え込み、ストレスが積み重なります。

 

長年この状態が続くと、「自分が何を感じているのか分からない」「リラックスしているつもりなのに、心が落ち着かない」といった状態に陥りやすくなります。

 

結果的に、感情の鈍さが定着し、失感情症の特徴を持つようになることがあります。

 

失感情症(アレキシサイミア)の診断

DSM-5では、失感情症(アレキシサイミア)は独立した精神疾患とはみなされず、他の精神疾患(うつ病、不安障害、PTSD、パーソナリティ障害、身体症状症など)の一部として現れることが多いと考えられています。

しかし、精神科や心理学の分野では重要な概念として扱われています。

 

失感情症(アレキシサイミア)の自己チェックリスト

失感情症(アレキシサイミア)の傾向を簡単に自己評価するためのチェックリストです。

「はい」が多いほど、失感情症(アレキシサイミア)の傾向が強い可能性があります。

 

1)  自分が今、どんな感情なのか分からないことが多い。

2) 「なんとなくモヤモヤする」と感じても、その理由がはっきりしない。

3)  怒りや悲しみを感じても、それがどのような感情なのか区別できない。

4)  ストレスが溜まっているのに、それに気づかないことがある。

5)  気持ちが落ち込んでも、原因が分からず困ることがある。

6)  「今どんな気持ち?」と聞かれると、答えに困ることが多い。

7)  喜怒哀楽を言葉で表現するのが苦手で、うまく説明できない。

8)  「楽しい」「悲しい」と言うより、「まあまあ」「普通」と答えることが多い。

9)  感情を表に出すのが苦手で、周囲から「何を考えているか分からない」と言われることがある。

10)  自分の気持ちを人に伝えようとすると、適切な言葉が見つからず困ることがある。

11)  何か問題が起こったとき、感情よりも「どう解決すればいいか」を考えることが多い。

12)  「気持ちを大切にするより、現実的に行動することが重要だ」と思う。

13)  相談を受けたとき、相手の気持ちよりも「どうすれば問題を解決できるか」を考える。

14)  映画や小説で感情移入することが少なく、淡々と物語を見てしまう。

15)  自分の感情よりも、物事の事実やデータのほうが大切だと感じる。

16)  楽しいことをしても、そこまでワクワクしない。

17)  悲しい出来事があっても、それほど強い悲しみを感じない。

18)  「人生が空っぽに感じる」「何をしても心が動かない」と思うことがある。

19)  周囲の人が盛り上がっているとき、自分だけ冷めた気持ちになっていることが多い。

20)  感動的な映画や音楽を聴いても、「良い話だったな」程度で、深く心が揺さぶられることが少ない。

 

結果の見方

「はい」が 0~5個:失感情症(アレキシサイミア)の傾向は低い 

「はい」が 6~10個:軽度の失感情症(アレキシサイミア)の傾向がある 

「はい」が 11~15個:中程度の失感情症(アレキシサイミア)の可能性がある 

「はい」が 16個以上:失感情症(アレキシサイミア)の傾向が強い 

このチェックリストは、簡易的な自己評価ツールです。正確な診断には、心理テストや医師の診察が必要です。

 

失感情症(アレキシサイミア)・自分にできること

感情を言葉にする練習をする

失感情症の人は、自分の感情を認識することが苦手ですが、意識的に「今、自分はどんな気持ち?」と問いかける習慣をつけることで、感情を言語化しやすくなります。

 

例えば、「イライラする」「疲れた」「なんとなく落ち着かない」など、まずは言葉にしてみることが大切です。感情を言語化することで、ストレスや不安をコントロールしやすくなり、自己理解が深まります。

 

日記を書く

日々の出来事とともに、「そのときどんな気持ちだったか?」を記録することで、感情に気づく練習ができます。

 

最初は「今日の出来事」だけを書いても構いませんが、少しずつ「そのとき自分はどう感じたか?」を意識して書くようにすると、感情への理解が深まります。

また、文章にすることで、感情のパターンを客観的に見ることができ、自己理解が進みます。「嬉しかった」「落ち着いた」「なんとなく不安だった」など、感じたことから書いてみましょう。

 

身体の感覚に注目する

身体の感覚に意識を向けてみましょう。「胸がザワザワする」「肩に力が入っている」「胃が重い」といった身体の変化を観察することで、感情のサインに気づきやすくなります。

 

例えば、怒っているときは「手が握りしめられている」、悲しいときは「喉が詰まる感じがする」といった身体の反応があることに気づくことができます。

 

自分の身体に意識を向けることで、無意識に抑えていた感情を感じやすくなります。

 

感情を観察する

感情を理解するためには、他人の感情に注目することも役立ちます。

 

映画やドラマの登場人物を見ながら、「この人はどんな気持ちなのか?」を考えてみましょう。「この人は悲しそう」「今の言葉で怒ったのかもしれない」など、登場人物の気持ちを想像することで、感情への理解が深まります。

 

周囲の人にできること

感情を否定しない

失感情症の人が自分の気持ちを話したとき、「そんなこと思わないで」「気にしすぎだよ」と否定されると、ますます感情を表に出しにくくなります。

 

ですので、「そう感じたんだね」「それは大変だったね」と、相手の感情をそのまま受け止めることが大切です。「そうなんだ」と聞いてもらえるだけで、安心して気持ちを表現できるようになります。

 

特に、感情に気づくのが苦手な人ほど、「自分の気持ちを認めてもらえた」と感じることが重要になります。 

 

表情や態度に注目し、気持ちを代弁する

失感情症の人は、自分の感情に気づきにくいため、周囲が「ちょっと疲れてるみたいだね」「無理しなくていいよ」と相手の状態を言葉にして伝えると、少しずつ感情に気づく助けになります。

 

表情や声のトーン、態度などを観察し、「イライラしている?」や「落ち込んでる?」と優しく伝えることで、「そうかもしれない」と自分の気持ちを認識しやすくなります。

 

感情を押し付けず、「こう感じてるように見えるけど、どう?」と問いかける形にすると、負担なく受け入れやすくなります。

 

感情を引き出す質問をする

失感情症の人は、自分の気持ちを意識したり言葉にしたりすることが難しいため、周囲の人が「どんな気持ちだった?」と聞くことで、感情を引き出すサポートができます。

 

例えば、「それって大変だったね。どんなふうに感じた?」と優しく問いかけると、少しずつ感情に向き合う練習になります。ただし、無理に答えを求めず、相手のペースに合わせることが大切です。

 

「嬉しかった?」「悲しかった?」と選択肢を与えるのも効果的で、少しずつ感情を言葉にしやすくなります。 

 

失感情症(アレキシサイミア)カウンセリングにできること

これまでの困難をねぎらう

失感情症の人は、感情を抑えることで生き延びてきた背景があるため、まずは「これまでよく頑張ってきたね」とねぎらうことが大切です。

 

感情を抑圧することは、過去の環境や状況に適応するための「生存戦略」だった可能性があります。

 

カウンセリングでは、まずその努力を認め、自己否定の気持ちを和らげることを目指します。

 

「感情を感じられない=ダメなこと」ではなく、「これまでの状況に必要だったもの」と理解することで、自己受容を促し、回復への土台を作ります。 

 

失感情症(アレキシサイミア)について理解する

感情が鈍くなる背景には、脳の働きや自律神経の乱れが関与しているため、失感情症のメカニズムを知ることが重要です。

 

カウンセリングでは、「感情を抑えることでストレス反応が増え、自律神経のバランスが乱れやすくなる」ことを説明し、心と身体のつながりを理解してもらいます。

 

さらに、リラックス法や呼吸法などを取り入れ、少しずつ自律神経を整えることで、感情を感じやすくするアプローチを行います。知識を得ることで、「自分が感情を押し込めたのには理由があるのだ」と理解することができます。 

 

カウンセリングの中で感じる感覚や感情を取り上げる

失感情症の人は、日常生活では感情を意識しにくいため、カウンセリングの場で「今、どんな感じがする?」と問いかけることで、少しずつ感覚を取り戻していきます。

 

例えば、「胸がザワザワする」「少し緊張している」など、感情ではなく身体感覚から入ることも有効です。

 

カウンセリングの場は安全な空間なので、感情を試しに表現してみることで、「自分の気持ちを言葉にしても大丈夫」と感じられるようになります。こうした体験の積み重ねが、感情を取り戻す第一歩になります。 

 

感情をブロックするようになったきっかけについて理解する

感情を抑えるようになった背景を振り返ることで、「なぜ感情を感じにくくなったのか?」を理解することができます。

 

例えば、「子どもの頃、泣いたら怒られた」「怒りを表現したら拒絶された」など、過去の環境が影響していることが多いです。

 

カウンセリングでは、そうした体験を整理し、「感情を抑えることで自分を守ってきた」という視点を持つことで、自分を責める気持ちを減らし、過去の影響から解放される準備をします。 

 

感情を取り戻していく

カウンセリングを通じて、少しずつ感情を感じる練習を行います。

 

「嬉しい」「悲しい」などの基本的な感情に目を向けたり、音楽やアートなどを使って感情を表現することも有効です。

 

また、「小さな感情の変化に気づくこと」から始め、無理のないペースで感情を取り戻していきます。日常生活の中でも、「何を感じているのか?」と意識する習慣をつけることで、感情に対する感度を高め、自分らしさを取り戻していくことを目指します。

 

はこにわサロンでは、絵画や箱庭療法などの表現療法も行っています。言葉以外の表現を通じて、より、自己理解を深めることができます。

 

失感情症(アレキシサイミア)まとめ

失感情症は、「感情を持てない」のではなく、「感情を感じにくくなっている」状態です。

 

幼少期の環境やトラウマ、または感情よりも理屈を優先する思考習慣が影響し、感情を抑え込むクセがついていることが多いです。そのため、感情を認識したり表現したりすることが難しくなります。

 

しかし、感情に気づくトレーニングやカウンセリングを活用することで、少しずつ感情の流れを取り戻すことができます。

 

日常の中で「今、自分は何を感じているのか?」と問いかけたり、身体の感覚に意識を向けたりすることで、感情の感度を高めることが可能です。焦らず、自分のペースで取り組むことが大切です。

この記事を書いている人 - WRITER -
アバター画像
外資企業勤務後、心理臨床を志す。臨床心理士の資格取得後は東京・神奈川・埼玉県スクールカウンセラー、教育センター相談員などを経て、2016年、東京都港区・青山一丁目に「はこにわサロン東京」を開室。ユング心理学に基づいたカウンセリング、箱庭療法、絵画療法、夢分析を行っている。日本臨床心理士会、箱庭療法学会所属。
詳しいプロフィールはこちら