子どもの頃の逆境体験が成人・克服してもネガティヴな影響を残す理由
東京・青山の心理カウンセリングルーム「はこにわサロン東京」の吉田(臨床心理士・公認心理師)です。(オンラインカウンセリング・電話カウンセリング受付中)
子どもの頃の逆境体験が、大人になってからのさまざまな心身の病にかかるリスクを高める、という研究結果があります。
大人になって逆境を克服していたとしても、そのリスクは減らないと言います。
例えば
✔️ スコアが「7」以上の人は飲酒・喫煙をせず、肥満や糖尿病でなく、コレステロール値が低くても心臓病のリスクが「0」の人の3.6倍
気になるチェックリストはこちらです。
小児期逆境体験ACE (Adverse Childhood Experiences)
18歳になるまでにこのようなことがありましたか?
(10項目のうち、当てはまるのはいくつありますか?)
① 心的虐待
両親(や大人の家族)がよく罵ったり、侮辱したり、悪口を言ったり、恥を描かせたりしましたか?
② 暴力
両親から叩かれたり、物を投げられたり、怪我をさせられたりしましたか?
③ 性的虐待
身体をさわられる、抱きしめられる、触らせられる、その他の性的行為がありましたか?
④ 感情的ネグレクト
家族の誰からも愛されていない、大切に思われていないと感じることがありましたか?家族が互いに気遣い支え合っていないと感じましたか?
⑤ 身体的ネグレクト
食事が与えられない、汚い服を着せられる、誰も守ってくれないと感じたことはありましたか?親が世話おしてくれなかったり病院に連れて行ってくれないと感じたことはありましたか?
⑥ 親の離婚や別居がありましたか?
⑦ 母親へのDVを目撃しましたか?
⑧ 家族のアルコール・薬物依存がありましたか?
⑨ 家族の精神疾患、自殺未遂がありましたか?
⑩ 家族の犯罪行為がありましたか?
当てはまったものの合計があなたのACEスコアです(最大10)。
子どもの頃の逆境体験とは?
「子どもの頃の逆境体験」に似た用語として「複雑性PTSD」があります。これは、長期的・反復的なトラウマ体験の後に見られる心的外傷後ストレス障害を指します。
が、敢えて「子どもの頃の逆境体験」という言葉で紹介したいのには理由があります。
というのはPTSDやトラウマ、と名付けると、災害や事件事故などで大きなショックを受けた時をイメージしてしまい「自分は当てはまらない」と思ってしまう人が多いからです。
また、虐待やネグレクトというと、「殴られた」「ご飯を食べさせてもらえなかった」をイメージすることが多く、やはり「わたしは当てはまらない」という人が多いのです。
しかしながら、家庭や学校などで長い間「ダメなやつだ」と馬鹿にされたり、無視されたり、または相手の気分次第で嫌がらせを受ける、というような予測不可能な体験は、重篤なトラウマ体験と同等の悪影響を与えるのです。
ですから、「殴られたり、ご飯を食べさせてもらえなかったわけではないが、親の気分次第で暴言・無視された」や「暴力はなかったが大人の気づかないところで陰湿ないじめが続き誰にも助けてもらえなかった」というような体験は、大人になっても心身に影響を与える・病気のリスクが高まるということをお伝えしたいのです。
「子どもの頃にそのような体験をしたが、努力して克服したから、今は大丈夫だ」と思っていても、冒頭でご紹介したような心身へのネガティヴな影響は残されます。
また、「克服した」とおっしゃる方の中には、ただひたすらに高い目標に向かって頑張ることで辛さを忘れようとしている方もおられます。
また、「そんなにひどい目にあったわけではないのに」「もっと辛い目にあった人が逆境をはね返して成功しているのに」そうできない自分は駄目だ、恥ずかしいと思い込んでしまう場合もあります。
ですから、子どもの頃の逆境体験について知ることで、ご自分のことを正しく理解して、必要なケアや対応をすることができると思うのです。
子どもの頃の逆境体験が大人になっても影響するのはなぜか?
なぜ、子どもの頃の逆境体験が大人になって心身不調を引き起こすのか?
それは、ストレス反応が関係します。
危険を察知すると私たちの心身は「警戒モード」となり「闘うか?逃げるか?」そのどちらにも対応できるように準備をします。この緊張・興奮した状態は、危険が去れば解除されます。
ところが、逆境体験下では、常に緊張・警戒が強いられることになります。というのも子どもの逆境体験は家庭、または日常生活の中で発生するので、子どもにとって本当なら安心してくつろげるはずの時間と場所が、常に緊張・警戒していないといけないということになります。
常に緊張・警戒を強いられるというのは、ストレス反応が常に「ON」になっていることを意味します。そしてこの状態は、脳や身体、こころの発達に大きなダメージを与えるのです。
事件・事故や自然災害などによるストレス・トラウマは、衝撃が大きく適切な対処が必要ですが、周囲も必要性を理解して対応しますし、家族や身近な人から温かいサポートを受けることを通じてストレス反応を癒していくことができます。
しかし、子どもの頃の逆境体験の場合、本来、保護を与えるべき親や身近な大人が加害者であったり、必要なサポートを子どもに与えることができないため、ストレス反応を解除する・癒すことができません。そのために、慢性的なストレスというのは一度の大きなトラウマ以上に大きな傷つきや影響を残すのです。
ポジティヴなストレス反応
ではストレスは全て「悪者」なのでしょうか?
そうではありません。
例えば、スポーツの試合前の緊張や発表会の前の緊張もストレス反応を引き起こします。しかし、これらのストレス反応は、より良いパフォーマンスができるように心身を目覚めさせ動きをよくする働きをします。そうして、「うまくできた!」という達成感を感じて、ほっとする(緊張がゆるむ)のはポジティヴなストレス反応です。
許容可能なストレス反応
残念ながら、わたしたちの人生にはネガティヴなストレス反応も避けることはできません。
事故や事件、自然災害だけでなく、大切な人との離別(喪失体験)、大きな怪我や病気も、わたしたちの安心・安全が脅かされるもの=ネガティヴなストレス反応です。
しかしながら、不測の大きなストレスが生じても、家族をはじめとする身近な大人・友人などが心配してこころを寄せてくれる、手を差し伸べてくれる、そんな体験を通じて、子どもたちが安心・安全・信頼感を再構築することができれば、子どもたちはしっかりと立ち直ることができます。
望ましくないストレス反応(逆境体験)
このように、望ましくないストレス反応(逆境体験)というのは、ストレスの大きさ以上に、「慢性的、またはいつ起きるかわからない」もので、かつ「回復を助けてくれる人がいない」状態なのです。例えば、このように・・・
✔️ 父が不在がちで、母はいつも不機嫌。いつもひとりぼっち
✔️ 親の不和、いつも顔色を読んでしまう
✔️ 何をしたら親が喜ぶ・不機嫌になるのかわからない
✔️ 親に迷惑をかける自分は存在価値がないと感じていた、など
このような慢性的・散発的な逆境は、今までともすれば「暴力はなかった」「ご飯は食べさせてもらえた」と看過されてきたのではないでしょうか。(しかしながら、これらが不適切で大人になるまで傷跡を残す逆境であることはお分かりいただけましたね。)
子どもの頃の逆境体験の影響とは
大人になって逆境体験環境から離れたのちにも、その影響は続きます。
例えば
✔️ いつも不安を感じる・緊張を緩めることができない
✔️ 自分の気持ちや感情を感じることができない
✔️ いつも自分が悪いと感じ、自分を責めてしまう
✔️ 自分には価値がないと感じる・消えてしまいたい
✔️ 誰も信頼できない、常に警戒しないといけない
✔️ 人が怖い、人目や他人の評価が怖い
✔️ 居場所がない・居場所を求める気持ちから人や物質に依存してしまう
✔️ いつも渇望感があり、満たすために過食(嘔吐)をする
✔️ 自分の価値を証明するためにひたすら頑張り続ける(休めない)
✔️ 自分をコントロールするためにストイックに打ち込む(拒食も)
さらに冒頭でご紹介したようなさまざまな病気のリスクも生じてきます。
では、このような悪影響から立ち直るために、どうすればよいのでしょう?
子どもの頃の逆境体験から回復するために大切な6つのこと
子どもの頃の逆境体験から回復するために以下に挙げる6つが大切だといいます。
① 睡眠 ② 運動 ③ 栄養 ④ マインドフルネス ⑤ 心の健康 ⑥ 健全な関係
具体的に説明します。
① 睡眠
夜はよく眠れていますか?
寝付けない、夜中に目が覚めてしまう、早朝に目が覚めてしまう、朝起きても疲れが取れない、などはありませんか?
よい睡眠をとるために、夜はゆっくりとリラックスする時間を確保してくださいね。眠れないからとスマホに手を伸ばすのはやめておきましょう。
② 運動
心身のコンディションを整えていくには毎日1時間の運動がよいと言われています。
なかなか忙しくて無理な場合は、歩くことや、日常生活の中で身体を動かすように工夫してみてください。
また、何か楽しく続けられるスポーツを見つけられるといいですね。
③ 栄養
食事が不規則になっていませんか?自分の身体に必要な栄養は取れていますか?
忙しくて自分では準備できない時は、コンビニ等を利用しても構いませんから、ゆっくり、美味しく味わって食べてみてください。
④ マインドフルネス
マインドフルネスとは、過去の経験や先入観といった雑念にとらわれることなく、身体の五感に意識を集中させ、「今、瞬間の気持ち」「今ある身体状況」といった現実をあるがままに知覚して受け入れる心を育む練習のことです。
マインドフルネスに取り組むことで、あるがままの自分を肯定的に受け入れるコンディションを作っていくことができます。たくさんの本や動画が紹介されていますので、自分にあったものを見つけてくださいね。
⑤ 心の健康
いつもストレス反応が生じて緊張・警戒していたことや、自分を肯定できない、他者を信頼できないなどの状況が続いたことから、抑うつ、適応障害、不安障害、解離性障害、依存症などが生じてくることがあります。
心の健康が脅かされたときにも「自分が悪い」と自分を責めたり「誰のことも信頼できない」と感じて治療に繋がれなかったりすることもあります。
けれど子どもの頃の逆境体験は、誰であっても心の健康を阻害します。あなたのせいではありません。早めに、信頼できる医療機関・支援機関と繋がれるとよいなと思います。
⑥ 健全な関係
信頼できるお友だちや、なんでも話せる同僚はいますか?
相談にのってくれて必要に応じて助け船を出してくれる上司は?
あるいは互いの痛みを分かち合えるパートナー。
このような健全な人間関係が、子どもの頃の逆境体験を乗り越えるためには絶対に欠かせません。
でも、あまりにも不信感が強く誰を信頼すればよいのかわからない時は、カウンセリングにつながることも一つの方法です。
子どもの頃の逆境体験にカウンセリングができることは
カウンセリングにつながることは、信頼できる支援者を得ること。
子どもの頃の逆境体験から抜け出すための大切な一歩です。
カウンセリングを通じて、ご自分が体験してきたことを棚卸しします。どんなことに困ってきたのか、その時に親をはじめ身近な大人がどのように助けてくれた・助けてくれなかったのか?はっきり自分でそれが原因だとは思わないかもしれませんが、今、何に困っているのか?
そして、「回復のための6つ」を実行する作戦を立てましょう。
中でも「心の健康」と「信頼できる関係性の構築」はカウンセリングが力になれる分野です。
心の健康が阻害されている時、医療(お薬)の力を借りる必要があることもあります。けれど、お薬で症状が緩和されたのちに必要なのは、棚卸しと新しい自分作りです。
誤解しないで欲しいのは、あなたが得た心の病は、あなたの心の弱さが原因だったのではないということです。
本来は信頼できる大人に温かく、適切に守られ育まれるべき時に、ひとりで何とかうまく乗り切ろうと努力を重ねてきたことはとても勇気のある行動だったのです。けれど、その無理が高じた結果、心身が「もう無理!」と赤信号を出しているのです。
ですから、治療にあたっては、これまでの自分をねぎらうこと、ご自分を肯定すること、不要に背負ってきた責務を手放すことが必要です。
この仕事を、カウンセラーとの信頼関係の中で行っていきます。
はこにわサロンのカウンセリングについて
参考図書・リンク
ドナ・ジャクソン・ナカザワ著
清水由貴子訳
ナディン・バーク・ハリス著
片桐恵理子訳
『小児期トラウマと闘うツール ー 進化・浸透するACE対策』
アメリカでは、子どもの頃の逆境体験が成人後の心身の健康に大きな影響を与えるとして、子どもたちの逆境体験を見出し、早期にケアをする対策が講じられるようになってきています。
まとめ
カウンセリングでお話を伺っていると、子どもの頃の逆境体験が明らかになることがあります。
逆境体験を振り返ることを通じて、これまでの自分を肯定し、自分らしい生き方を見出していく方々が多くいらっしゃいます。
一方で、「子どもの頃のこと」「もう大人なのだから親のせいはできない」「もっと辛い思いをした人が世の中には大勢いるのに、自分は弱い」とご自分を責め続けてしまわれる方もいらっしゃいます。
今回ご紹介した「子どもの頃の逆境体験(小児期トラウマ)」を通じて、子どもの頃のつらい体験に悩むのは自分が悪いのではなく、誰にでも起こりうることで、今からでも回復は可能なのだということをお伝えできればと願っています。
はこにわサロンでもご相談を承ります。
はこにわサロンのカウンセリングについてはこちらをご覧ください。(対面・オンライン・お電話でのカウンセリングを受付ています)
ご予約はこちらからどうぞ