なぜ自分を責め続けてしまうのか〜複雑性トラウマと自己批判〜
東京・青山の心理カウンセリングルーム「はこにわサロン東京」の吉田美智子(臨床心理士・公認心理師)です。
複雑性トラウマ(C-PTSD)の方は、自分を強く責める方が多くおられます。
「もっと頑張らないと」
「こんな自分では嫌われる」
「私は何をやってもダメだ」
こんなふうに、いつも自分を批判し続けてしまうのです。
自己批判については長年多くの研究が行われていますが、自己批判の強い人ほど、抑うつや不安が強くなりやすく、ストレスから回復しにくいことが示されています。
自己批判と反省の違い
私たちは、「自分に厳しい方が成長できる」「自分に甘いとダメになる」と考えがちです。
実際、日本では「頑張ること」「努力すること」「もっと上を目指すこと」が大切だと教えられることも多いため、「自分に厳しいこと=良いこと」と感じている方も少なくありません。
もちろん、自分を振り返ったり改善したりすることは大切です。
ただ、ここで注意が必要なのは、「自分を振り返ること」と「自分を否定すること」は別だということです。
この記事では、なぜ自己批判してしまうのか、どうすれば変えていけるのかについてお話します。

自己批判は自分への攻撃
自己批判とは、自分の失敗や欠点について振り返ることとは少し違います。
反省は、「この言い方はまずかったな」「次はこうしてみよう」というように、行動を見直していくことです。
一方、自己批判では、批判が自分という存在に向けられます。
例えば、「私はダメだ」「頑張らないと価値がない」「こんな自分では嫌われる」というふうに。

一見すると、どちらも「自分を振り返っている」ように見えるかもしれません。
でも、実はとても大きな違いがあります。
例えば、仕事でミスをした時を考えてみます。
反省なら、「確認不足だったな」「次はチェックを増やそう」になります。
一方、自己批判になると、「なんでこんな簡単なこともできないんだ」「本当にダメな人間だ」となります。
前者は行動を修正しようとしていまが、後者は、自分を否定・攻撃しています。

自己批判は性格ではなく、安全戦略であることがある
自己批判するかどうかは、性格だと思われがちです。「私はネガティブだから」「考えすぎる性格だから」そう思っている方も多いかもしれません。
ただ、複雑性トラウマの方にとっては、自己批判が自分を守る安全戦略であることがあります。
例えば子どもの頃、失敗すると強く怒られたり、優等生でいることを求められる、親の機嫌を読まなければならない環境で育つと、心と身体が少しずつ学習します。
「先に自分で自分を厳しく見張っていれば危険を避けられる」
「失敗を早く見つければ怒られずに済む」
「もっと頑張れば嫌われない」
すると心の中に、厳しい監視役のような存在が生まれます。
「まだ足りない」
「気を抜いたらダメ」
「もっと頑張れ」
でも、自分を苦しめるこの声は、自分を傷つけるために生まれたわけではありません。
自分を守るために生まれた安全戦略だったのです。
実際、トラウマのある方の中には、「自分を責めていないと怖い」「頑張るのをやめたら人生が壊れそう」と感じる方がおられます。
身体が「自分を責めない=危険」と学習してしまった結果なのです。
ただ、この安全戦略には大きな代償があります

自己批判が安全戦略になった時の6つの代償
①傷が深くなりやすい
人は何かつらいことがあった時、本来なら「怖かった」「悲しかった」と感じればよいはずです。しかし自己批判が強いと、それに加えて「自分が悪い」という考えが入ってきます。すると苦しみが二重になります。出来事そのものの痛みに加え、自分で自分を責める痛みが重なってしまうのです。
例えば、友人との関係で傷ついた時。本来なら、「悲しかった」で終わるかもしれません。
でも自己批判が強いと、「自分に問題がある」と自分を責めてしまうため、傷つきが大きくなり、回復するのがとても難しくなります。

②不安が慢性化しやすい
自己批判は身体にとって、「まだ足りない」「頑張り続けないと」という警報を出し続けるような働きをします。
火災報知器が誤作動して、何もない時にも鳴り響いているような状態です。火災報知器の言い分としては「いつも注意していたら安全だから」なのですが、人間は、いつも警戒し続けると、心身が疲弊してしまいます。
何も起きていなくても落ち着かない、休めない、ということが起きるのです。

③自分を落ち着かせる力が弱くなりやすい
苦しい時に本来必要なのは、「大丈夫」「よく頑張ったね」「少し休もう」と自分に言ってあげる力です。(セルフコンパッション、といいます)
子どもの頃に、親や周りの大人たちがいつも温かい眼差しで関わり、不安な時にはなぐさめて安心させてくれると、自然と自分にもしてあげることができるようになります。
逆に、「泣くな」「それくらい我慢しなさい」「気にしすぎ」「もっと頑張りなさい」などと言われ続けていると、自分で自分に「甘えるな」「まだ足りない」「弱音を吐くな」と言わずにはいられなくなってしまいます。

④羞恥心や劣等感が強くなりやすい
失敗した時には、誰しもショックを受けたり、がっかりしたり、悲しくなったりするものです。それは自然な気持ちです。
ところが、失敗した時に、「やっぱり自分はダメだ」と自分を責めてしまうと、「恥ずかしい」「自分には価値がない」のように感じてしまいやすくなります。
恥や劣等感はとても強い感情で、怖くて人に気持ちを打ち明けるのが難しくなりやすいのです。すると、本当は誰かに話を聞いてもらったり、少し助けてもらったりしたいところで、孤立し、孤独感に苦しむことが起きやすくなってしまいます。

⑤人に合わせすぎたり、服従しやすくなる
「嫌われないように」「迷惑をかけないように」「相手を怒らせないように」と思うと、自分を小さくしてしまうことがあります。
子どもの頃に、自分の気持ちを出すことが危険だった場合、「合わせること」が生き延びる方法になることがあるからです。
すると大人になっても、頼まれると断れない、疲れているのに頑張ってしまう自分より他人を優先しがちになります。
すると、残念なことに、そこにつけ込んでくる人がいるため、支配されやすく、服従しやすくなってしまうのです。

⑥自分の本音がわからなくなる
本当は疲れているのに、「まだ頑張れる」
本当は悲しいのに、「自分のせい・挽回しないと」
最初は「自分に厳しいだけ」に見えていても、長い間続くと、自分が何を感じ、何を望み、何が嫌なのかがわからなくなってしまうことがあります。
「何が食べたい?」
「どうしたい?」
と聞かれても、すぐ答えられない。
そういう方も少なくありません。
それは自分がないからではなく、自分の感覚を封印してきたからです。

こんなにデメリットがあるのなら、「やめればいい」と思うかもしれない
「自己批判はデメリットばかりなのだから、やめた方がいい」と思うと思います。でも、それが簡単ではありません。
「自分が甘えたダメ人間になりそうで怖い」
「頑張れなくなりそう」
「自分に優しくしたら崩れてしまいそう」
こんな気持ちが湧いてしまうからです。
ある研究では、自己批判を弱めることについて、「裸になったような感覚」と表現した人がいました。自己批判を止めることは、鎧(よろい)を脱ぐ感覚なのです。
ですから、大切な鎧を無理に脱ぐことは危険ですし、その必要はありません。

「自分は自己批判している」と気づくこと
大切なのは、自己批判を急になくそうとすることではなく、まずは「今、自分は自己批判しているんだ」と気づくことです。
「また自分を責めているな」
「あ、今『もっと頑張らなきゃ』って言っているな」
そんなふうに気づくことは、とても大切な最初の一歩です。
なぜなら、その瞬間、あなたは「自己批判している自分そのもの」になるのではなく、「自己批判している自分を見ている自分」になるからです。
これまでは自己批判の声が100%だったかもしれません。でも、気づけた瞬間に、そこには少し距離が生まれます。
つまり、「責める声しかない世界」から、「他の選択肢もある世界」に変化しています。

自己批判に気づけたら、身体にも目を向けてみる
そして気づけたら、次にしてほしいことが二つあります。
ひとつ目は、身体に何が起きているか探ってみることです。
自己批判は、頭の中だけで起きているわけではありません。身体も一緒に反応しています。
例えば、
■ 首や肩が強張る
■ 喉が詰まる
■ 息を止めている
■ 胸が苦しい
■ 心臓がドキドキする
■ 身体が固まる
■ 座り込みたくなる
■ 耳を塞ぎたくなる
そんな反応が起きていないか、少し見てみます。
身体が緊張すると、頭も危険を探し始めます。そして頭が危険を探し始めると、さらに身体が緊張します。
こうして、頭と身体がぐるぐる回り始めることがあります。だから身体に注意を向けることは、とても大切なのです。
気持ちにも目を向けてみる
二つ目は、自分の気持ちにも目を向けてみることです。
「どんな感じがしている?」
と自分に聞いてみます。
すると、その奥には、
■ 「怖い」
■ 「逃げられない」
■ 「ひとりぼっち」
■ 「誰も助けてくれない」
■ 「もうダメだ」
■ 「消えたい」
そんな気持ちが隠れていることがあります。
実は自己批判は、表面に見えているものに過ぎないことがあります。
その下には、もっと柔らかくて、傷つきやすい感情が隠れていることがあります。
■ 怖さ
■ 悲しさ
■ 寂しさ
■ 無力感
こころや身体に注意を向けられるようになることは、とても大切な進歩です。
なぜなら、今までは「責めること」しかできなかったところに、「理解する」という新しい選択肢が生まれているからです。

少しだけ、自分に思いやりのある言葉や態度を向けてみる
ここまでできたら、次は少しだけ、自分に思いやりのある言葉や態度を向けてみましょう。
まず、自己批判している自分に、「いつも守ってくれてありがとう」と伝えます。
ここで大事なのは、責める自分を敵にしないことです。
「もういらない」「消えてほしい」ではなく、「守ろうとしてくれていたんだね」と少し理解してあげることが大切です。
そして頑張ってきた自分には、「本当にお疲れさま」「いつもありがとう」と伝えてみます。
最初はピンと来ないかもしれませんが、こんなふうに自分に温かい声かけをしていくと、少しずつ、気持ちや身体が温かい声に呼応して緩んでいくようになります。「安心する」という神経の回路が作られていくからです。

身体にも「安心」を教えていく
身体が苦しい時には、その場所を優しくさすったり、温かい飲み物を飲んだり、窓の外を眺めながらゆっくり呼吸したりするのもよいでしょう。
身体も、最初は、なかなか緊張が緩まなかったり、一瞬緩んでもすぐにまた強張ってしまうと思います。(身体が緊張することで自分を守ろうとしています。)
でも、続けていくと、少しずつ、緩む感覚や、それが楽で心地よいこと、危険じゃないことがわかっていきます。

自分の気持ちも受け止めてあげる
それから、自分の気持ちを受け止める。
例えば、「怖いよね……」「寂しいよね……」「悲しかったよね……」と言葉をかけてあげます。
これは今の苦しい自分だけではなく、過去に苦しんできた自分に「もう一人じゃないよ」と伝えることです。
自分が自分の苦しみに気づくことは、自分を孤独から救います。

自己批判だけの世界から抜け出していく
こうしたことが少しずつできるようになると、あなたの中は「自己批判だけ」の状態ではなくなっていきます。
自分を温かく扱う力(セルフコンパッション)や、自分をそのまま受け止める力(自己肯定感)が育ち始めています。
もちろん、できる日もあれば、できない日もあります。でも、少しずつ、できる日が増えていきます。
すると、自己批判の質が少しずつ変わっていきます。
今までのように、「自分はダメだ」ではなく、「言うタイミングがよくなかったかな」とか「もっとはっきり言わないと伝わらないのかも」というように、行動を修正する「反省」になっていきます。
つまり、自分を振り返る力を失わず、自分を傷つけないで成長できるようになっていきます。

自己批判が止まらない〜まとめ
自己批判は、自分を守るための大切な安全戦略だった可能性があります。ですが、自己批判を続けると、いつも不安で、生きづらく、抑うつなどの精神疾患を患うリスクが増します。
変えるためには、自己批判する自分を批判するのではなく、自己批判する自分に気づくこと。客観性を持って、自分の感情や身体の感覚にも平等に注意を向けてみることです。
自分に温かい感謝や労いの声をかけたり、心身をケアしたりできるようになると、自己否定のための自己批判が減っていきます。
代わりに、行動を冷静に振り返り修正できる、自分らしく成長する自分を回復できます。
ぜひ、試してみてください。

