トラウマ(心的外傷)・PTSD・複雑性PTSDの違いと影響。カウンセリングにできること
東京・青山の心理カウンセリングルーム「はこにわサロン東京」の吉田(臨床心理士・公認心理士)です。
ショックな出来事があったり、後々まで傷つきを引きずる体験があると「トラウマになった」などと言ったりします。
トラウマってなんでしょう?
PTSDとどう違うんでしょう?
この記事では、最近わかってきた複雑性トラウマ(慢性的な傷つき体験によるトラウマ)についても、お話していきますよ。
トラウマ(心的外傷)と傷つきの違い
トラウマは、日本語にすると心的外傷といって、直訳すると「こころの怪我」のことです。
でも、わたしたちは、日常生活のなかで、こころに怪我することはわりと頻繁にあるのですよね。
例えば、何か自分が失敗してしまったときや、思わぬひとことを言われてショックを受けた時。いつも嫌みを言ってくる人がいたら、そのたびごとに傷つきます。
ただ、これらの傷つきは「嫌だな」と感じて、こころがキュッとなったりするけれど、自分で気持ちを建て直したり、ひとばん寝たら気にならなくなったりします。
もう少しショックなことがあって、もしかしたら1週間、いやもっと長いこと引きずることもあるかもしれません。誰かにお話を聴いてもらったり、趣味に打ち込んで切り換えるかもしれません。これも自分の力で治癒していて、とても大切なこころの働きです。
このように、時間と共に自然治癒できる傷つきと比べて、トラウマは生死に関わる体験、同じくらいショックな体験を指します。
ショック体験から、不安や緊張の高まり、不眠や動悸などの症状が出たり、急に思い出す、何でもない時に涙が流れるなどの反応・症状が出ることもあります。
これらは、しかし、こころの正常な反応でもあります。このような症状を通じて不安や緊張を少しずつリリースしようとしているわけです。
ですので、このような反応・症状は少しずつ軽くなっていく場合が多いと言われます。
PTSD(心的外傷後ストレス障害)とは?
PTSD(心的外傷後ストレス障害)は、日本では阪神淡路大震災以降、大きな事件・事故などの折に報道されるようになり、知られるようになりました。
でも必ずしも災害や事件事故だけに限定されるわけではありません。命の危険を感じたり、自分の無力を突きつけられるような体験が、時間が経っても薄れることなく突然思い出されたり(フラッシュバック)、強い不安や緊張が続いて、かつて当たり前だった日常生活を取り戻すことができないままになってしまいます。忘れようとするけど忘れられない辛さから、無感覚になってしまうこともあります。
PTSDに見られる症状
- フラッシュバック、悪夢
- 動機、発汗、動揺
- 回避行動
- 何もかもネガティヴに感じてしまう
- 孤立・疎外感
- イライラする
- 緊張や過剰な警戒感
- 集中できない
- 意欲が持てない
- 睡眠障害
- 自己破壊行動(自傷、やけになってしまう)
DSM-5
きっかけとなった出来事から時間が経つほどに、周りの人は「もう大丈夫だろう」と思うけれど、本人は今なおつらい瞬間が蘇る日々を過ごしており、そのギャップから人を避けがちになる、誰にもわかってもらえない孤独や自分を責めてしまうこともあります。
PTSDは、危機的な状況を脱して、日常生活を取り戻し、ようやく安心したからこそ、心身が「ショックを癒したい」とSOSしていることなので、改めて、ケアをしていくことが大切です。
眠れない、不安が強い、抑うつ的になる、意欲が持てない、などの場合は、医療機関に相談してみましょう。
カウンセリングも有効です。
複雑性PTSDとは?
トラウマ体験から生じるPTSDには、事件事故・災害などの後に生じるものの他に、慢性的な傷つき体験から生じるものがあり、複雑性PTSDと呼ばれています。
虐待だけでなく、いじめやハラスメントでも複雑性PTSDを発症します。
親子関係、夫婦・恋人関係など、親密な関係の中で、いつもダメ出しされるとか、「ダメな人」のように人格否定される、「泣くな」のように感情を否定される、無視される、などの行為が続くと、慢性的なトラウマを生じさせることがあります。
複雑性PTSDに見られる症状には以下のようなものがあります。
この他に、身体の不調や不眠、対人不安、つらさを麻痺させようとした結果、依存症を発症することもあり、複雑性PTSDの影響がいかに大きいか、おわかりいただけるのではないかと思います。
複雑性PTSDから生じる不信感
虐待、いじめ、ハラスメントを、普段の生活圏内で、身近な人から受けることは、安心基地の剥奪や強い対人不信感を生じさせます。そのため、人と付き合うこと全般を怖く感じて避けてしまい、適切な相談者が持てなかったり(その結果、発見が遅れたり)しがちです。
また、身近な人からの加害は「きっと自分に何か問題があるからだ」と誤解してしまったり、恥ずかしい、誰にも言えないと抱え込んでしまうことがよくあります。
いっそ消えてしまいたい(希死念慮)や、なんとか日々をやり過ごすためにアルコールに依存したり、過食(嘔吐)で感覚を麻痺させたり、ダイエットを通じてコントロール感覚を保とうとしたりするのは、誰にも頼らずに(なぜなら信頼できないから)自分でなんとかトラウマと折り合いをつけようという試みであると考えられます。
このように、社会への不信感、自分自身への不信感は、自分らしさを失わせ、無力化、孤立化させ、回復を妨げてしまいがちです。
子どもの頃の逆境体験についてはこちらもどうぞ
PTSD・複雑性PTSDから回復するためのカウンセリング
トラウマやPTSDのカウンセリングには暴露療法と呼ばれている認知行動療法や、最近ではEMDR(眼球運動による脱感作と再処理法)が知られています。
けれども、PTSD/複雑性PTSDを発症しているときは、誰かを信じてつながること自体に恐怖を感じてしまいがちなので、まずは「この人になら」という感覚を持てる人とつながることが大切な一歩になります。
はこにわサロンでは、対話を通じた複雑性PTSDのカウンセリングをしています。
複雑性PTSDの影響が疑われる怒りや無力感、不安感には「まただ」という感覚が伴います。
「また」というのは、過去に同じような傷つきを何百回と繰り返してきた過去の自分が警報を鳴らしたり、痛みや苦しみを訴えているからです。
過去の自分の声をきちんと聴いて、きちんと感じて、大事にしまい直す必要があります。そのプロセスを繰り返していくと、少しずつつらさや悩みが減少していきます。
自己理解が進み、自分をケアする方法を身につけていくと、トラウマの影響に縛られずに済むようになります。
カウンセリングに時間はかかりますが、やる価値は十分にあると思います。
慢性化したトラウマや複雑性PTSDがある場合、自分に生じたことをはっきりと記憶していなかったり、記憶していても言葉にすることがとても怖く感じられることがあります。
そのような時には、イメージを利用したカウンセリングも有効です。
自分の中のケアされないまま残されてきた傷つきを癒して、自分らしい人生を取り戻しましょう。
ご予約はカレンダーからどうぞ。
参考図書
J.L.ハーマン著 中井久夫訳『心的外傷と回復』みすず書房
クロアトル、コーエン、ケーネン著 金吉晴監訳『児童期虐待を生き延びた人々の治療』星和書店
水島広子『対人関係療法でなおすトラウマ・PTSD』創元社