学校で自分の子どもがいじめのターゲットにされてしまったら〜親と先生にできることとは?
先日、不登校の子どもの気持ちを理解する試みとして、6冊の本をご紹介しました(こちら)。
『西の国の魔女が死んだ』や『黄色い髪』、『うさぎとトランペット』に描かれる主人公(『うさぎと〜』では、主人公の仲よし)は、誰もが、とても魅力的な女の子であるにもかかわらず、同じクラスのお友だちと離れたところにいたことでいじめのターゲットになっていました。
そして、こちらにも書きましたが、子どもたちが成長する時期(前思春期や思春期)は、自分たちの心身の急激な変化への不安や恐怖があるせいか、自分と異なる存在ととても嫌うものなのです。
そんな、「ひとりでもいられる個性と強さ」は、人間としてとても魅力的な個性であるにもかかわらず、しばしばいじめのターゲットとされてしまうのだと思います。
中井先生は「子どものいじめは権力に関係している。つまり、政治だと考えるとわかりやすい」とおっしゃいます。つまり、支配する者と支配される者がいて、いじめを成り立たせる仕組み(パターン)がある、というのです。
それは、この3つです。
① 孤立化
② 無力化
③ 透明化
今日は、このパターンについてご説明した後、わたしが目にしたことがあるいじめの仕組みが崩壊した瞬間のエピソードを通じて、いじめを防ぐ方法について考えてみたいと思います。
いじめのプロセス【その1】孤立させる
中井先生は、「孤立していない人間は、時たまいじめに会うかもしれないが、いじめられ続けたりはしない」と言います。
いじめが、いかに「後ろめたい」ことか、よくわかります。
いじめる側は、自分が報復されることを恐れているわけです。やり返されても自分が負けることのないように、計算しているのですね。
いじめのプロセス【その2】無力化
中井先生は更に、「いじめられる側がいかにいじめられるに値するかがPRされる」と説明します。些細な違いや癖が問題とされ、「違い」が語られていくのです。
このPR作戦は大人も(割と容易に)巻き込まれます。「そういえば(そういう違いが)あるね」という何気ないうなづきや、子どもたちのPR作戦の黙認が、加害者にパワーを、傍観者に許しを与えるのです。
さらに、このPR活動は、いじめられている子本人にも「自分はいじめられても仕方がない」という諦めの気持ちを抱かせるのです。
いじめられている子は「なぜ自分がいじめられるのだろう?」と疑問を感じ、「自分の悪いところを直そう」と思います。
でも、その”いじめられても仕方のない悪いところ”はそもそもが、”言いがかり”なのです。ですから、直そうと思えば思うほどに、不自然な言動になってしまったり、自信を失ってしまったりしがちです。
加害者は、さらに、いじめられている子の内面をも無力化していきます。「いじめを大人に話すことは卑怯で、みにくいこと」だという足かせをつけるのです。
こうして、いじめの構造ができあがってしまうのです。
いじめのプロセス【その3】透明化
いじめが固定化すると、いじめは見えにくくなると言います。
いじめを受け入れてしまうことで、いじめられている子は「自分が価値のないもの」だと考えるようになります。そうなると、その子は24時間どこにいても支配されて逃れられない苦痛を味わいます。それは、永久に続くと感じさせられます。
すると、ほんのわずかな時間でも「いじめられる」ことから逃れるために、加害者の機嫌をとるようになります。必要ならば「仲の良いふり」をし、「いじめられているのでは?」と聞かれても否定し、”プレゼントを差し出すこと”もあります。
”プレゼント”とは、加害者を喜ばせるための物品であり、エスカレートすると、お金を持ち出したり、万引きをするなどの方法で貢がなければならなくなります。
このような悪事に手を染めることで、いじめられた子は親や社会との絆を失っていくといいます。
被害者がわらにもすがる思いで差し出した”プレゼント”は、往々にして「価値のないもの」として扱われてしまいます。
こうして、いじめられた子は「自分が無価値である」と確信してしまうのです。
いじめの仕組みが崩壊した瞬間
今回、このエッセイを読んでいて、思い出したことがあります。
10年ほど前のことなのですが、ある中学校で男子生徒(仮にXくんとします)が職員室に来て「AくんとBくんに、脅かされている」と訴えました。
AくんとBくんというのは、やんちゃでケンカや問題行動の絶えない子どもたちでした。
Xくんは、良くも悪くも目立たず、Aくんたちから目をつけられるようなこともなさそうな子でした。けれど、どうやら何か些細なことでAくんを怒らせてしまったようなのです。
「見かけたらぼこぼこにしてやる」と言っていたとクラスメートから聞いたXくんは、びっくりして職員室にとんできて「怖くて教室にはいけない」と訴えたのです。
この時、ある先生が「Xくんを守りましょう」と言いました。
わたしを含め、その時、職員室にいた大人は「!?」と思ったと思います。ここで大人がXくんの味方についたことがわかったら、あとで、XくんがAくんたちから仕返しされてしまうのではないか?と思ったのです。
けれど、この時は、声をあげた先生のリーダーシップで、Xくんは何時間かを職員室の片隅で過ごしたのです。
このあとどうなったと思いますか?
Aくんたちは、Xくんに危害を加えることはなかったのです。
子どもたちを巻き込むいじめとは何か?
子どもたちは、成長過程で、子どもたち同士、たくさんふれあうことが必要です。ケンカもトラブルもたくさん生じます。
● いじめは、いじめる側といじめられる側が固定化していて、逆転はしません。また、ひとりvs.集団で行われます。
いじめを防ぐためにできることとは
基本的なことですが、
● 「いやだ、やめて!」と言えること
● 大人は、子どものメッセージをキャッチしたら「ダメだ!」と介入すること
が大切です。
なんか変だな?という直感を無視しないことも大切です。
子どもたちが、いじめられて自尊心を失ってしまうような傷ましいことがなくなるように、子どもたちのことを見守っていきましょうね!
中井先生のエッセイを読んでみたい方は、こちらからどうぞ。
中井久夫先生について
中井久夫先生は、精神科のお医者さまです。統合失調症の患者さんを多く見てこられて、お薬だけの治療ではなく、本人の力を活用する治療法で風景構成法という、芸術療法を考えられたのも中井先生です。(風景構成法についてはこちらに書きました。)
最相葉月さんの本に登場するのも、中井先生です。
『アリアドネからの糸』と合わせて、ぜひ読んでみてください。